「ねえ、本当にあたしも一緒に行っていいの?」 優紀が遠慮がちに言う。 バイトとバイトの合間の時間、居酒屋に近い喫茶店で優紀と会っていた。 「うん。美作さんと西門さんが、みんなで行こうって」 「だって、彼まで・・・本当にいいの?」 申し訳なさそうに言う優紀。 あたしは肩をすくめた。 「なんだかよくわからないけど・・・あの2人が旅費は出すって言い張ってるし。もちろんいやだったら断ってもいいと思うよ」 「あ、ううん。彼に話したらすごく喜んでて、あたしももちろん行きたいと思ってるんだけど・・・ただ、2人分の旅費出してもらうなんて、いいのかなって思って」 「大丈夫だよ。って、あたしが言うのもおかしいけど・・・。せっかくみんなで行けるんだし。どうせだったら楽しんじゃおう」 と笑って言うと、優紀もほっとしたように微笑み・・・それから、不思議そうに言った。 「でも、珍しいね。つくしがそんな風に言うなんて。いつもは旅行どころじゃないって文句言ってるのに」 「はは・・・彼らとの付き合いも長いから。言っても無駄だろうと思ったの。多分ね、何かたくらんでることがあるんじゃないかなあ」 「企む?何を?」 「それはわかんないけどさ。だって、道明寺に用があるのはあたしなんだし、ほんとならあたし1人が行けば済む話じゃない?それを、わざわざそんな大勢で・・・って、何か裏があるに決まってる。でも、どうせ聞いたってはぐらかされるだろうからね。ゴールデンウィーク中にバイトが出来ないのはちょっと痛いけど、でも海外旅行なんてそうそう行けないし・・・。ここは楽しむことにしたの」 そう言って笑うと、優紀も安心したように笑った。 「それ聞いて安心した。道明寺さんと・・・ちゃんと、話できるといいね」 「うん・・・・・」
それだけが、あたしも心配だった。 あたし達がN.Y.にいくこと、道明寺はちゃんと知ってるんだろうか。 向こうまで行って、もし会えなかったら? 高校生のときのことを思い出す。 N.Y.まで道明寺を追いかけて行ったあたし。 冷たく追い返されて、ショックで途方にくれていたとき、あたしの前に現れた類。 あの時、類がいてくれたことでどれだけ救われたか分からない。
また、あのときみたいににべもなく追い帰されてしまったら・・・・ 今度はあたし1人じゃないけれど。 道明寺は、会ってくれるだろうか。 あたしと類のこと、認めてくれるだろうか・・・・。
それを考えると、少しだけ不安になる。 でも、せっかく美作さんたちが作ってくれたこの機会を逃すわけには行かない。 なんとしても、道明寺にあって、話をしなくちゃ・・・ そうしなければ、あたしは新しいスタートを切ることが出来ない・・・・・。
その日のバイトの帰り、類が店の前で待っていてくれた。 「類」 「牧野、お疲れ」 いつものように穏やかに微笑む類。 この笑顔には、本当にいつも癒される。
車の助手席に載り、シートベルトをすると類が車を発進させる。 「・・・・・あきらと総二郎に聞いたけど・・・・・」 「あ、うん。N.Y.行きのことでしょ?類、行ける?」 「うん。大丈夫。それよりも」 「え?」 「・・・・牧野、昨日あの男と一緒だったって」 少し不機嫌そうに言う類。 「あの男?・・・・って、もしかして河野さんのこと?」 あの2人と会ったときに一緒だったといえば河野さんしかいない。 「何で、あの男と一緒だったの?」 「だって、帰る方向が一緒だし・・・バイト終わる時間も一緒だから、自然にそうなるよ。別に、河野さんのことは類が心配するようなことないよ?」 「でも、嫌だ。他の男と、2人きりになって欲しくない」 拗ねたように言い捨てる類。 困ったなああと思っていると、類が溜息をついて言った。 「・・・けど、1人で帰すのも心配」 「類・・・・・」 「だから、俺が迎えにいけないときは、バイト休んで」 続く類の言葉に、あたしは目を丸くした。 「ええ?無茶だよそんなの!」 「どこが無茶?その時間には出来るだけ仕事入れないようにするよ。それでもどうしても迎えに行けない時は、バイト休んで」 絶対譲ってくれそうもないその言い方に、あたしは絶句した。 「・・・・・・心配、なんだ。あんたのことが。俺のわがままだってことはわかってる。だけど、譲れない。わかって欲しい・・・・・」 切なさを含んだ瞳で見つめられ・・・・あたしはうっとつまった。 ビー玉のような瞳。 そんな目で見つめられたら・・・嫌って言えない。 「・・・・・ずるいんだから・・・・」 そう言って膨れたあたしの頬に、ふわりと一瞬の冷たい感触。 「好きだよ、牧野」 にっこりと魅惑の微笑。
―――ほんとに、ずるいんだから・・・・・
いつの間にか、この人のペースにはまってる気がする。 きっとあたしは一生この人に敵わないんだろうな・・・。 そう思いながら。 それでも、胸があったかくなるような幸せを感じてしまってるあたしがいるのだった・・・・・。
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