夕食を済ませ順番に風呂に入ると、俺たちはリビングのソファに並んで座り、テレビを見て過ごした。 「・・・なんか、こんなにゆっくりしたの久しぶりな気がする」 牧野が呟く。 「いつも忙しすぎるんだよ、牧野は」 「だって・・・・・」 「気持ちはわかるよ。でも・・・司だって、急がなくて良いって言ってるんだし・・・」 「うん・・・・そうなんだけど・・・でも、なんか落ち着かないの。早くすっきりさせたくて・・・」 「・・・・・牧野・・・・」 「ん?」 牧野が俺のほうに顔を向けた瞬間、その唇を塞いだ。 一瞬、驚いたように目を見開く牧野。 相変わらずの反応に、思わず笑みがこぼれる。 「・・・・その、牧野が司に返そうとしているお金を俺が出すって言っても、ダメだって言うんだろうね」 「あ、当たり前じゃない!これはあたしの・・・・」 「わかってる。そう言うってことは。だから、言わないよ。でも・・・・」 「でも?」 「それを返すまではお預けなんていうのは、なしにして欲しいんだけど・・・・・」 俺の言葉に、牧野は不思議そうに首を傾げる。 「お預けって、何が?」 俺はそれには答えず、牧野の肩に腕を回すとそのまま引き寄せ、キスをした。
啄ばむようなキスを繰り返すうちに、牧野の頬が上気してくる。 目じりに浮かんだ涙を唇で吸い取り、そのままこめかみに、耳朶に、首筋に、キスを落としていく。 「ん・・・・っ・・・・・」 1つ1つのキスに敏感に反応する牧野。 俺はそのまま牧野の体をソファに横たえ、その白い首に顔を近づけたが・・・ 「ま、待って、類・・・!」 その言葉に、俺はぴたりと止まる。 「・・・・お預けは、なしだよ」 「ち、違うの。ちがくないけど、あの、でも、待って」 「・・・何言ってんの?」 「だから・・・・・ごめん・・・・・」 俺は、ゆっくりと体を起こした。 さっきまで熱かった体から、すっと熱が引いていくようだった。 「・・・・・俺とは、出来ないってこと・・・・?」 思わず低くなってしまう俺の声に、牧野の体がびくりと震える。 「・・・・そういうこと・・・?」 「ち、違う!そうじゃないの!」 「じゃ、どういうこと?」 自分でも驚くくらい冷たい声。 「牧野・・・・やっぱりまだ、司のこと・・・・」 「違う!あたしが好きなのは、類だよ。それは信じて」 「じゃあ、なんで・・・・」 「・・・・・・けじめを、つけたいの」 「けじめ・・・・?」 牧野はこくりと頷きながら、体を起こした。 乱れた髪を直しながら、牧野は口を開いた。 「・・・怖いっていう気持ちも、ないわけじゃないよ。でも、類のこと好きだし、好きな人となら当たり前のことなんだって、わかってる・・・つもり・・・」 「牧野・・・」 「ただ、そういうのとは別に、あたしの気持ちが整理できてない気がするの。・・・道明寺に・・・ちゃんと、類とのこと、話したいの・・・・・」 「・・・・・・」 「道明寺に未練があるんじゃないよ。ただ、道明寺とは別れても、大事な存在だっていうのは変わらなくて。このまま類とのこと黙ってるのは、いやなの」 必死で言葉を紡ぐ牧野を、俺は黙って見つめていた。 牧野らしい考えだと思った。 司とはもう終わっている。 だけど、新しいスタートを切るために。そのけじめをつけるため、司にきちんと話しておきたいんだろう。 その気持ちは、今まで牧野を見てきて、いやって程わかってしまう。 だけど・・・・・ 「・・・・・司に話をしたら、けじめはつくの?」 「うん」 「それは、いつ?」 「それは・・・・・・」 牧野が、困ったように言いよどむ。 「あの・・・近いうちに話そうと思ってるんだけど、道明寺と連絡がつかなくて・・・・・」 「・・・・そっか」 そう言って俺は溜息をついた。 そんなことだろうと思った。 実は俺も何度か司には話そうと思って電話をかけているが、一向につながらない。よほど忙しいのだろう。 それも仕方のないことなのだが・・・・ あせってるわけじゃない、とは言っても、ずっとこのままというのもいやだ。 好きな女の子とずっと一緒にいて手も出さないでいられるほど、俺は紳士じゃない。
こうなったら、強硬手段しかないか・・・・
「類・・・・?あの、あたしまた道明寺に連絡してみるから。だから・・・・」 俺が黙っているのを怒っているとでも思ったのか、少し慌てたようにしゃべりだす。 俺はちょっと笑って、牧野の頭にぽんと片手を乗せた。 「いいよ、わかってる。俺も何とか連絡とってみるし・・・。でも・・・・」 「でも・・・・?」 「あんまり時間かかると・・・・俺も男だから、我慢きかなくなるかもよ?」 そう言ってにやりと笑うと、途端に牧野の頬が赤くなる。 「な、何言って・・・・」 「ぶっくっく・・・・・・わかりやす・・・・・」 「る、類!もうっ!」 「くく・・・ごめん、つい、かわいくて・・・・・でも、我慢きかなくなりそうなのはほんと。それくらい、俺は牧野に参ってるから。牧野が嫌がることはしたくないけど・・・・でも、それくらい惚れてるってこと、覚えといてね」 牧野の髪をそっと撫でながらそう言う俺に、赤い顔でこくりと頷く牧野。 かわいくて、今すぐ押し倒したくなる衝動に駆られるけど・・・。 でも、好きだからこそ、牧野を傷つけるようなことはしたくないから・・・・・。
その後の俺たちは、テレビを見ながら他愛のない話で盛り上がり、そしていつの間にかそこで2人寄り添ったまま、眠りに落ちていた・・・・・。
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