牧野を抱き寄せ、唇をあわせる。 甘く、柔らかい唇に酔いしれる。 次第に深くなっていく口づけに、牧野の眉が切なげに寄せられ、体が熱を持ち始める。 それに煽られるように俺はさらに深く、貪るように唇を求める。
ーーーやばい・・・・止められない、かも・・・・・。
「・・・・・・・・・・っ・・・・・・・・・・・・・・ん」 牧野の苦しそうに寄せられた眉が、妙に艶っぽく俺を煽る。 「牧野・・・・好きだよ・・・」 唇を離し耳元で囁くと、途端にその頬が朱に染まる。 ほんとにかわいい・・・・ 我慢できなくて。 牧野の体のラインをなぞるように片手を滑らせると、ビクッとその体が反応する。 「類・・・・・・」 「牧野・・・・・・」 そのままその手を牧野の胸に触れさせる。 と、牧野は突然体をこわばらせ、俺から離れようと両手で俺の胸を押した。 「牧野・・・・・?」 「ご、ごめ・・・・・・あたし・・・・・・」 「・・・・・怖い・・・・?」 そう聞くと、牧野はふるふると首を振ったが、その表情は固かった。 「違うの、そうじゃなくて・・・・・・」 必死で何か言葉を紡ごうとする牧野。 その体が、細かく震えていた。 「・・・・・・・・・散歩、しようか」 俺は、牧野を安心させるようにそう言って笑った。 牧野は俺の顔を見ると、漸く安心したように微笑んで頷いた・・・・。
しばらくは邸の近くの山道を黙って歩いた。 別に、あせっているつもりじゃないけれど・・・。 少し、不安になる。 漸く気持ちが通じて、恋人という関係にはなれたけれど。 牧野は、俺が想っているよりも、俺のことを想っていないのか。 同じくらい俺のことを好きでいてくれているわけじゃないのか。 そんな風に思ってしまう自分がいて、情けない。 「牧野・・・・・」 俺の声に、牧野は微笑みながら「ん?」と俺の顔を見上げる。 「あのさ・・・・俺のこと、好き・・・?」 真剣に見つめながら聞くと、牧野は一瞬驚いたように目を見開く。 「ど、どうしたの?急に」 頬を赤らめ照れる牧野。 言葉にするのは恥ずかしいんだってわかるけど、やっぱり聞きたくて。 「牧野の気持ちが、知りたい。俺の、片想いじゃない?」 「類・・・・・」 「聞かせて」 自然に、足が止まる。 ざわざわと風が木を揺らす音が妙にうるさい。 牧野の大きな漆黒の瞳が俺を見つめる。 「好きだよ。あたしだって・・・・類のことが好き」 「本当に?」 「当たり前じゃない。そうじゃなかったら、ここにはいない」 ふわりと微笑む牧野。 「なら・・・いいんだ。ごめん、少し不安になった」 「どうして?あたしのこと・・・信じられない?」 「そうじゃないよ。ただ・・・・時々、不安になる。誰かに取られるんじゃないかって」 「ええ?」 目をぱちくりさせる。その表情が小動物みたいでかわいい。 「何それ?誰かって?」 「・・・・・総二郎とか、あきらとか・・・最近良く会ってるみたいだし」 「ああ!だって偶然だよ?それにあの2人があたしを好きになるなんて、ありえないって」 おかしそうにくすくす笑う横顔を、少しあきれながら見つめる。 ーーーーほんっとに鈍感。 最近のあいつらの行動がおかしいことくらい、俺だって気付いてるのに。 いつからか・・・たぶん、司と牧野が別れてからだ。 2人の、牧野を見つめる視線が微妙に変わった。 最初は気のせいかと思ったけど、そうじゃない。 親友だって、思ってる。 だけど、これだけは譲れない。 司にだって、もう渡す気なんかこれぽっちもない。 牧野は・・・俺だけのもの・・・・。
日が傾いてきて、だいぶ寒くなってきたので俺たちは邸に戻ることにした。 「今から帰ったら、着くのは夜かな?」 その牧野の言葉には答えず、俺はちらりと窓の外へ目をやってから言った。 「・・・今日、ここに泊まって行かない?」 案の定、俺の言葉に目を見開き固まる牧野。 ・・・・突然すぎたかな。 「と・・・泊まって・・・?」 「うん」 「だ、だって、夕食は?この辺、何もないんでしょ?」 「用意させといた。冷蔵庫に入ってるからレンジであっためればすぐに食えるよ」 「で、でも、何も用意・・・・」 「全部用意してある。着替えも一揃い持ってきた」 「でも、あの、あたし家に何も言ってきてないし・・・」 「俺が言っておいた。がんばってくれって言われたよ」 「!!!」 牧野が金魚みたいに口をパクパクさせてる。 青くなったり赤くなったり、その百面相がおかしくて俺は吹き出す。 「ぶーーーっくっくっく・・・・その顔・・・・・」 「る、類!!からかってるんなら・・・っ!」 牧野が真っ赤になって言いかけるのを、俺はキスで塞ぐ。 「・・・・からかってなんか、ない。俺は本気だよ」 「類・・・・・」 「牧野・・・・・いや・・・?」 俺の問いかけに、牧野は真っ赤になってうつむきながらも、小さく首を振った。 「いやじゃないけど・・・・突然なんだもん・・・・・」 「言ったら、逃げられそうな気がして」 「逃げないよ・・・。あたし、そんなに信用されてないの?」 拗ねたように頬を膨らます牧野の頬に、チュッとキスをする。 「ごめん・・・。ちょっと、不安だった」 そっと肩を引き寄せると、そのまま胸に寄りかかるように体を預けてくる。 「・・・・ちゃんと、好きだよ。あたしだって・・・・」 「うん・・・・」 俺は、それでも拭えない不安を打ち消すように、ぎゅっと牧野を抱きしめる腕に力を込めた・・・・・。
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