***ブランコ vol.15***



 牧野を抱き寄せ、唇をあわせる。
 甘く、柔らかい唇に酔いしれる。
 次第に深くなっていく口づけに、牧野の眉が切なげに寄せられ、体が熱を持ち始める。
 それに煽られるように俺はさらに深く、貪るように唇を求める。

 ーーーやばい・・・・止められない、かも・・・・・。

 「・・・・・・・・・・っ・・・・・・・・・・・・・・ん」
 牧野の苦しそうに寄せられた眉が、妙に艶っぽく俺を煽る。
「牧野・・・・好きだよ・・・」
 唇を離し耳元で囁くと、途端にその頬が朱に染まる。
 ほんとにかわいい・・・・
 我慢できなくて。
 牧野の体のラインをなぞるように片手を滑らせると、ビクッとその体が反応する。
「類・・・・・・」
「牧野・・・・・・」
 そのままその手を牧野の胸に触れさせる。
 と、牧野は突然体をこわばらせ、俺から離れようと両手で俺の胸を押した。
「牧野・・・・・?」
「ご、ごめ・・・・・・あたし・・・・・・」
「・・・・・怖い・・・・?」
 そう聞くと、牧野はふるふると首を振ったが、その表情は固かった。
「違うの、そうじゃなくて・・・・・・」
 必死で何か言葉を紡ごうとする牧野。
 その体が、細かく震えていた。
「・・・・・・・・・散歩、しようか」
 俺は、牧野を安心させるようにそう言って笑った。
 牧野は俺の顔を見ると、漸く安心したように微笑んで頷いた・・・・。


 しばらくは邸の近くの山道を黙って歩いた。
 別に、あせっているつもりじゃないけれど・・・。
 少し、不安になる。
 漸く気持ちが通じて、恋人という関係にはなれたけれど。
 牧野は、俺が想っているよりも、俺のことを想っていないのか。
 同じくらい俺のことを好きでいてくれているわけじゃないのか。
 そんな風に思ってしまう自分がいて、情けない。
 
「牧野・・・・・」
 俺の声に、牧野は微笑みながら「ん?」と俺の顔を見上げる。
「あのさ・・・・俺のこと、好き・・・?」
 真剣に見つめながら聞くと、牧野は一瞬驚いたように目を見開く。
「ど、どうしたの?急に」
 頬を赤らめ照れる牧野。
 言葉にするのは恥ずかしいんだってわかるけど、やっぱり聞きたくて。
「牧野の気持ちが、知りたい。俺の、片想いじゃない?」
「類・・・・・」
「聞かせて」
 自然に、足が止まる。
 ざわざわと風が木を揺らす音が妙にうるさい。
 牧野の大きな漆黒の瞳が俺を見つめる。
「好きだよ。あたしだって・・・・類のことが好き」
「本当に?」
「当たり前じゃない。そうじゃなかったら、ここにはいない」
 ふわりと微笑む牧野。
「なら・・・いいんだ。ごめん、少し不安になった」
「どうして?あたしのこと・・・信じられない?」
「そうじゃないよ。ただ・・・・時々、不安になる。誰かに取られるんじゃないかって」
「ええ?」
 目をぱちくりさせる。その表情が小動物みたいでかわいい。
「何それ?誰かって?」
「・・・・・総二郎とか、あきらとか・・・最近良く会ってるみたいだし」
「ああ!だって偶然だよ?それにあの2人があたしを好きになるなんて、ありえないって」
 おかしそうにくすくす笑う横顔を、少しあきれながら見つめる。
 
 ーーーーほんっとに鈍感。
 最近のあいつらの行動がおかしいことくらい、俺だって気付いてるのに。
 いつからか・・・たぶん、司と牧野が別れてからだ。
 2人の、牧野を見つめる視線が微妙に変わった。
 最初は気のせいかと思ったけど、そうじゃない。
 
 親友だって、思ってる。
 だけど、これだけは譲れない。
 司にだって、もう渡す気なんかこれぽっちもない。
 牧野は・・・俺だけのもの・・・・。

 日が傾いてきて、だいぶ寒くなってきたので俺たちは邸に戻ることにした。
「今から帰ったら、着くのは夜かな?」
 その牧野の言葉には答えず、俺はちらりと窓の外へ目をやってから言った。
「・・・今日、ここに泊まって行かない?」
 案の定、俺の言葉に目を見開き固まる牧野。
 ・・・・突然すぎたかな。
「と・・・泊まって・・・?」
「うん」
「だ、だって、夕食は?この辺、何もないんでしょ?」
「用意させといた。冷蔵庫に入ってるからレンジであっためればすぐに食えるよ」
「で、でも、何も用意・・・・」
「全部用意してある。着替えも一揃い持ってきた」
「でも、あの、あたし家に何も言ってきてないし・・・」
「俺が言っておいた。がんばってくれって言われたよ」
「!!!」
 牧野が金魚みたいに口をパクパクさせてる。
 青くなったり赤くなったり、その百面相がおかしくて俺は吹き出す。
「ぶーーーっくっくっく・・・・その顔・・・・・」
「る、類!!からかってるんなら・・・っ!」
 牧野が真っ赤になって言いかけるのを、俺はキスで塞ぐ。
「・・・・からかってなんか、ない。俺は本気だよ」
「類・・・・・」
「牧野・・・・・いや・・・?」
 俺の問いかけに、牧野は真っ赤になってうつむきながらも、小さく首を振った。
「いやじゃないけど・・・・突然なんだもん・・・・・」
「言ったら、逃げられそうな気がして」
「逃げないよ・・・。あたし、そんなに信用されてないの?」
 拗ねたように頬を膨らます牧野の頬に、チュッとキスをする。
「ごめん・・・。ちょっと、不安だった」
 そっと肩を引き寄せると、そのまま胸に寄りかかるように体を預けてくる。
「・・・・ちゃんと、好きだよ。あたしだって・・・・」
「うん・・・・」
 俺は、それでも拭えない不安を打ち消すように、ぎゅっと牧野を抱きしめる腕に力を込めた・・・・・。






  

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