そこに立っていたのは、司だった。 抱き合っている俺たちを、無表情に睨みつけている。 「道明寺・・・・・」 真っ青になっている牧野の肩を抱いたまま、俺は司を見た。 「司。言い訳はしねえ。俺は・・・・・牧野が好きだ」 「総二郎・・・・・何の冗談だ・・・・・」 「冗談なんかじゃ、ねえよ。俺は、牧野が好きだ。誰にも渡したくない」 その瞬間、司の拳が俺の頬を殴りつけた。
「西門さん!!」 後ろ側に吹っ飛んだ俺に、慌てて駆け寄る牧野。 「どけ!牧野!」 「道明寺、やめてよ!」 牧野が俺の前に立ち塞がり、司を睨みつける。 「牧野・・・・・てめえ、総二郎のことを・・・・・」 「・・・・そうよ。あたしは・・・・・西門さんが好きなの・・・・・。道明寺のこと、ずっと待ってるつもりだったけど・・・・・ごめん・・・・・」 「ふざけんな・・・・・ごめんで済むかよ!」 わなわなと震えだす司。 俺は立ち上がり、牧野の手を引いた。 「西門さん・・・・・」 「いいから、下がってろ」 しゃべると、微かに血の味がした。 殴られたときに、口の中を切ったようだった。 「司・・・・・。お前には悪いと思ってる。だけど、俺はマジだ。牧野がお前を想ってるならずっとそれを応援するつもりだった。けど・・・・・牧野が俺のことを想ってくれてるなら・・・・・もう誰にも、渡す気はない」 「―――のやろう!!」 司が、俺の胸倉を掴む。 「道明寺!やめて!」 牧野の叫び声。 牧野は、司を嫌いになったわけじゃない。 それでも、遠距離恋愛というのは思った以上に牧野を苦しめていたんだろう。 司にもそれはわかってるはずだ。 それでもどうにか、繋ぎとめておきたかったんだ・・・・・。
「お前が・・・・・牧野を不幸にしたら、俺は一生お前をゆるさねえ」 「司・・・・・」 「どんなことをしても・・・・・牧野だけは、渡す気はなかったんだ・・・・・誰にも・・・・・」 「・・・・・ああ」 「だが・・・・・今、牧野が見てるのは俺じゃねえ。そこにいる牧野はもう・・・・・俺の惚れた女じゃねえ・・・・・」 そう言って司は俺を離し、悔しそうに顔を歪ませた。
牧野がの目からは、涙がぽろぽろと零れていた。 「ごめん・・・・・。ごめん、道明寺・・・・・」 司はそんな牧野に背を向けると、肩で1つ、息をついた。 「・・・・・俺は仕事があるから、もう行く。静にはもう会って話して来たから・・・・・。もう式は始まってる。さっさと行けよ・・・・・」 そう言うと、司は俺たちのほうを振り返ろうともせず、そのまま歩いていき・・・・・まるで待っていたかのように目の前にすっと停まったリムジンに乗り込むと、あっという間に行ってしまったのだった・・・・・。
「後悔、しないか?俺を選んだこと・・・・・」 手を繋ぎ、教会へと向かいながら俺が言うと、牧野はちらりと俺を見上げた。 「しないよ。そっちこそ・・・・・たくさんのきれいな彼女たちより、あたしみたいなパンピー選んだこと・・・・・後悔しないの?」 「ああ、そりゃあするかもな」 「ちょっと!」 俺の言葉にきっと目を吊り上げて怒り出す牧野。 俺はちょっと身を屈めると、チュッと牧野の唇に触れるだけのキスをした。 「!!」 途端に、真っ赤になる牧野。 「嘘だよ。後悔なんか、するわけない。生半可な気持ちで、親友を裏切ったりできるわけねえだろ。俺の気持ちは、さっき言ったとおり。マジで惚れてるんだ。一生離すつもりはねえから・・・・・覚悟しとけよ」 「西門さん・・・・・」
教会についた俺は、そのまま牧野の手を引き地下に降りて行った。 「大体こっちの教会には、地下にもう1個あるところが多いんだよ」 「わあ、小さくてかわいい」 目の前に現れたこじんまりとした教会に、牧野が感動したように声を上げる。 「・・・・・式はもう始まってるな。ってか、そろそろ終わるころか・・・・・」 「・・・・・静さんに、謝らなくちゃ」 「ああ。けどその前に、誓っときたい」 俺の言葉に、牧野がきょとんと首を傾げる。 「俺は、今まで散々いろんな女と付き合ってきたからな。口で言ったって、すぐにはお前が安心できないだろうってことはわかってるつもりだ。だけど・・・・・誓って言う。俺が好きなのは、お前だけ。これから先もずっと・・・・・・俺にはお前しかいない。だから・・・・・信じて欲しい」 「西門さん・・・・・」 牧野の目から、また涙が零れる。 その涙を指で掬い、俺はふっと笑った。 「よく泣くやつだな」 「だって・・・・・」 「それから、これも言っとく。俺は、お前を他の誰にも渡すつもりはないし、触れさせるつもりもない。お前も無防備に、他のやつに触れさせたりすんなよ?」 「無防備って・・・・・いつあたしが・・・・・」 「いつも!類がお前の家に入り浸ってるのがいい証拠だろうが」 「はあ?何言ってんのよ、類は―――」
「俺は、牧野の一部だから」
突然聞こえてきた声に、俺たちは驚いて上を見上げた。 張り出すように、1階の部分が地下から見上げられるようになっていた。 そこにはいつからいたのか、類とあきらの姿が。 「牧野も、俺の一部。俺たちの関係はずっと変わらないからね。総二郎と付き合ってても、それは同じだよ」 「類、てめえ・・・・・」 俺が文句を言おうと口を開くと、ひょいとウェディングドレスに身を包んだ静が現れた。 「静さん!きれー・・・」 牧野が頬を紅潮させ、見惚れている。 「牧野さん!受け取って!」 静が、手にしていたブーケを牧野に向かって投げた。 ブーケが、きれいな弧を描いて牧野の元に落ちてくる。
駆け出し、そのブーケを受け止める牧野。
そして、ブーケを手に俺の方を振り向き、満面の笑みを見せる。
その瞬間、俺たちの未来が見えた気がした。
真っ白なウェディングドレスに身を包み、幸せそうに微笑む牧野が。 そして、その横には俺がいるはず・・・・・。
そんな未来へと進むため。
俺は、牧野をしっかりと抱きしめたのだった・・・・・。
fin.
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