***Blue Christmas vol.4***



 -soujirou-

 ここが公道だということも、人通りの多い日中だということも、どうでも良かった。

 とにかくこの腕の中に捕まえて、どこにも逃げられないようにしたかった。

 甘い唇を堪能し、舌を絡め熱い口づけを続ける。

 暫くすると、さすがに苦しくなったのか牧野が俺の腕に中でばたばたと暴れだしたので、仕方なく開放してやる・・・・・・と、

 「な・・・・・!何するのよ!」
 ぜーはーと、息を切らし顔を真っ赤にして怒る牧野。
「何って、わかんなかったのかよ。んじゃ、もう1回・・・・・」
 そう言ってもう1度顔を近づけようとすると、慌てて俺から離れる牧野。
「や!いい!だめ!ってか・・・・・何考えてんの?」
「お前こそ、何してんだよ」
「あ、あたしは・・・・・」
 途端にぎくりとして後ずさる牧野。
 逃がしてたまるか。
 俺は1歩踏み出し、牧野の腕を掴んだ。
「お気に入りのワンピースに、類からもらったコート。普段は滅多にしないようなかわいいメイクまでしちゃって、俺以外の男と会って。ずいぶん気合入ってるよな」
「だ、だって、美作さんが、おしゃれして来いって言うから・・・・・」
「・・・・・あきらがね。で、何回会った?あきらと」
 俺の言葉に、牧野はちょっと首を傾げた。
「会ってないよ、今日初めて。先週・・・・美作さんが帰ってきたときに電話があったの。そのときに今日のこと約束して、それ以来電話もしてないし会ってもない」
「・・・・・・あの、夜中の12時過ぎに話中だったときか」
「・・・・・うん」
「あの次の日の朝、俺、お前に会いに行ったよな。あん時お前は、もうあきらと約束してた。だから、俺の誘いを断ったわけだ」
 牧野が気まずそうに俯く。
「・・・・・・ごめん、なさい・・・・・」
「俺のこと、信じられなかった?」
「・・・・・そうじゃないけど・・・・・」
「けど?」
「・・・・・あたしじゃ、いけないような気がしたの」
「いけないって、何が?」
「・・・・・あの喫茶店で、西門さんとあの女の人が2人でいるの見て・・・・すごくお似合いだと思った。映画のワンシーンでも見てるみたいで、何も声かけられなくなっちゃうくらい、絵になってた。それで・・・・思ったの。西門さんの隣にいていいのは、あたしなんかじゃなくって、あの人みたいにきれいな人なんじゃないかなって」
「なんだよ、それ」
「だって、あたしとじゃ全然絵になんないじゃん。どうしたってつりあわないもん」
 投げつけられた言葉に、俺は思いっきり溜め息をついた。
「馬鹿か、お前は」
「な!ひ、ひど!そりゃあたしは馬鹿だけど・・・・・」
「じゃなくて」
 と言って、俺は牧野のおでこを指でピンと弾いた。
「いたっ!何すんのよ!」
「あのな、俺が外見でお前を選んだとでも思ってんのかよ?んなわけねえだろ?そんなこともわかんねえのかよ」
「そ、そりゃそうだけど・・・・・」
「つりあうとか、つりあわないとか、そんな外見的なことはどうでもいいんだよ!俺にとっては相手はお前じゃなきゃ意味がねえんだよ。周りにどう見えようが、知ったことか。俺にはお前しかいないって、何度言ったらわかるんだよ」
 人差し指を牧野に向かって突き立てながら、真っ直ぐに目を見て言い切ってやると、牧野の顔に徐々に赤みが差し・・・・その大きな瞳が、揺れた。
「西門さん・・・・・」
「・・・・・お前が不安になる気持ちが、わかんねえわけじゃねえよ。お前と付き合う前の俺は、確かに褒められた付き合い方してねえし。そのことでなじられても仕方ねえって思ってる。でも・・・・・それでも俺は、お前にだけは信じて欲しいと思ってる」
「あたしに、だけ?」
「ああ。お前にだけは・・・・・・他の、誰に信じてもらえなくても良い。お前さえ、信じてくれれば。俺が惚れてるのは、お前だけ。お前以外の女は、どうでもいい」
 その言葉に、牧野の瞳から、涙が零れ落ちた。
「大体・・・・不安に思う気持ちは俺だって同じだってのに」
「へ・・・・・西門さんが?何で?」
 きょとんと首を傾げる牧野。
 ほんっとにこいつは何にもわかってない。
 俺はまた盛大な溜息をついた。
「お前ね・・・・・・この1週間、俺がどれほど気を揉んでたか・・・・・」
「・・・・・・あたしが、今日のこと断ったから?」
「っていうより・・・・・その理由で俺に嘘をついただろうが。お前の嘘はすぐにわかる・・・・・けど、嘘をついてまで俺に会いたくないのかと思ったら、ショックだった」
「あ・・・・・・・」
「それに・・・・・考えたかなかったけど、どうしても他の男が関係してるんじゃないかって気がして仕方なかった。で、後を着けてみれば案の定・・・・・まさか、相手があきらだとは思わなかったけどな。あいつにはやられた」
「美作さんのことは・・・・・怒らないでよね、あたしのこと心配してくれたんだし・・・・・」
「それがむかつくっての」


 -tsukushi-
 半目で不機嫌にあたしを見る西門さん。
 さっきからずっと・・・・・・・
 もちろん、こうなったのはあたしが原因だって分かってるけど・・・・・
「言っただろ?たとえ相手があきらでも・・・・・他の男にお前は渡さねえって」
 そう言って西門さんはあたしにまた一歩近づくと、あたしを見つめながら言った。
「たとえ俺を嵌めるための演技だとしたって、お前に触れたり、キスしたりするのを見て、俺がなんとも思わないと思ってた?」
「え・・・・・」
「こんなかわいいかっこして・・・・俺以外の男と会うためにそんなかっこしてんのかと思ったらむかついてしょうがねえよ」
 眉間に皺を寄せて、不機嫌さ全開の西門さん。
「無防備に他の男に触れさせて・・・・・もう限界。俺がどんだけお前のこと想ってるか、思い知らせてやるよ、嫌って程な」
「あ、あの・・・・・」
 その迫力に、思わず体を引こうとしたあたしの腕を、思い切り引っ張って西門さんが歩き出す。
「うあ、ちょっと、どこ行くの!?」
「デート、しようぜ。明日はお互い仕事で会えねえんだから。今日はイブイブデート」
「イ、イブイブって・・・・・」
「今日は絶対、帰さねえからな。覚悟しとけよ」
 そう言ってちょっと振り向くと、にやりと笑う。
 その笑顔に、背中を嫌な汗が伝う。
「あ、あのでも、明日は朝早いし・・・・・」
「心配すんな、ちゃんと送ってやるよ」
「いや、でも・・・・・」
 さらにあたしが何か言おうとすると、
「嫌、なのか?」
 と言って、真っ直ぐに見つめる、切れ長の黒い瞳。
 ずるいんだから。
 そんな風に見つめられたら、嫌なんて言えなくなるよ。
「嫌、じゃ・・・・・ない、けど・・・・・」
 あたしが小さな声で答えれば、西門さんはにっこりと満足そうに微笑む。
「じゃ、問題なし。まさか、他にも約束あるなんてことねえだろうな」
 一転、疑りの目を向けて来る西門さん。
「な、ないない!そ、それに今日だって・・・・・本当は西門さんといたかったんだから。でも美作さんが、この計画は今日じゃなきゃ駄目だって言うから・・・・」
 そう白状すれば、西門さんはちょっと意外そうに目を見張り・・・・・
 次の瞬間には、ふわりと抱きしめてくれた。
「・・・・ずるい女・・・・・・そんなこと言われたら、怒れなくなる。あきらのやつはむかつくけど・・・・・今日はもう、そんなこと考えたくない。お前のことだけ考えてたいから・・・・・お前も、俺のことだけ、考えてろ」
「言われなくても・・・・・もう、あたしの中は西門さんでいっぱいだよ・・・・・」
 そう言って、西門さんの背中に手を回し・・・・・
 
 きゅっと抱きつけば、西門さんも抱きしめ返すみたいにその腕に力も込めてくる。

 そうしてあたしたちは、暫くその場で抱き合っていた。

 周りなんか見えなくなって・・・・・・そこには、あたしたち2人だけの空間があった・・・・・。





  

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