-soujirou-
余裕の顔して微笑むあきらに、イライラする。 「あきら、何のつもりだよ?いつ日本に帰ってきた?」 俺の言葉に、あきらは肩を竦めた。 「先週。お前、ケー番変えたの黙ってたろ。それ聞こうと思って牧野に連絡とったんだよ」 「・・・・・で、何でそれを俺に黙ってんの?今日2人で会ってんのはなんで?」 牧野が不安そうに俺を見上げ、またあきらに視線を戻す。 あきらが牧野の顔をちらりと見て微笑んだ。 まるで安心しろとでも言うようなその優しい笑みに、さらに苛立つ。 「俺が誘った。牧野を・・・・・口説こうと思って」 「!!」 その言葉に、俺は考えるより先に体が動いていた。 車の中のあきらの胸倉を掴む。 「お前!!」 「西門さん!!やめてよ!」 「お前も、なんであきらと会ってんだよ!?」 「だからそれは!」 「俺よりもあきらを優先したってことかよ、ふざけんな!お前と付き合ってんのは誰なんだよ!」 勢いが止まらず声を荒げると、牧野はぽかんとしたような顔をして、俺を見た。 「俺は、お前を他の男に・・・・・たとえそれがあきらでも、渡すつもりはねえからな!お前は俺のもんだ!」 「・・・・・・西門さん・・・・・」 牧野の頬がほんのりと染まる。 ほんの数秒、沈黙が訪れ・・・・・ 突然、俺に胸倉をつかまれたあきらが耐え切れなくなったように笑い出した。 「ぶっーーーーーくっくっくっ・・・・・・・」 「・・・・・あきら?」 俺が掴んでいた手を離すと、それが合図になったかのように大笑いを始めるあきら。 俺はわけがわからず目を丸くする。 ―――一体なんだっていうんだ?
ひとしきり笑った後、あきらは笑いすぎて目尻に浮かんだ涙を拭きながら、俺を見て口を開いた。 「わりいわりい、ついおかしくって・・・・・お前、ほんとに牧野に惚れてんだな」 唐突にそんなことを言われ、俺は思わず言葉に詰まる。 顔が熱くなって・・・・自分でも赤面しているのがわかる。 「お前のそんな顔・・・・初めて見たわ。すげ、おもしれえな」 くすくすと笑いながら言われ、なんだかカチンと来る。 「てめえ」 「まあ落ち着けって。―――牧野、これでわかっただろ?心配することねえよ。総二郎はお前にマジで惚れてるんだから」 そう言って牧野を見てやさしく笑う。 俺が牧野を見ると・・・・・ 牧野は、気まずそうに顔を赤くしていた。 「・・・・・どういうことだよ?」 「らしくねえな。こんな企みに引っかかるなんて。よっぽど動揺してたってことか?おかげで俺は楽しかったけど」 そう言った後、あきらはこれまでの経緯を俺に話してくれた。
「・・・・そういうことか」 全ての事情を聞いて、俺は溜息をついた。 「牧野があんまり不安がってるからさ、じゃ、試してみれば?って言ったんだよ。こうすれば絶対お前が着いて来るだろうって思ったし、牧野は嘘がつけねえ性格だからな。それにお前がそんな嘘見破れねえわけねえし」 楽しそうに話すあきら。 全部あきらの計画通りっていうのも気に入らなかったが・・・・・ 「牧野」 俺が牧野のほうを向き直ると、牧野は体をピクリと震わせ、俺を見た。 「な、何よ・・・・・」 「お前な、あきら頼る前にまず俺に聞けよ。ったく・・・・この1週間、俺がどういう気持ちでいたか・・・・・」 「だ、だって・・・・・」 「あん時の女の人は、お前が誤解するような人じゃねえよ。うちが昔から・・・・それこそじいちゃんの代から世話になってる宝石商の娘で、俺にとっちゃ姉貴みたいな人だ。もう結婚もしてるし子供もいる。だんなも知ってるし・・・・いい女だってのはわかっても、恋愛対象になるような人じゃない」 俺の話に、ほっとしたような、でもまだ疑っているような複雑な表情で首を傾げる牧野。 「宝石商、ね・・・・・。こいつには仕事って言ってたんじゃねえの?」 相変わらずあきらがニヤニヤと笑いながら横から言葉を投げかける。 ―――ったく・・・・・今の話で、あきらには大体の察しが着いたのだろう。それでいて、わざとそういうことを聞いて来るあたり、嫌なヤローだ。 「うるせーよ、あきら。大体、お前が余計なことするから話がややこしくなってんだろ」 俺があきらを睨みつけながら言うと、今度は牧野が俺とあきらの間に入ろうとする。 「ちょっと、止めてよそんな風に言うの。美作さんはあたしのこと心配してくれたんだよ。それに、久しぶりに会えたのに喧嘩なんて・・・・・」 「牧野、いいよ」 あきらが、熱くなりかける牧野の手をやんわりと握る。 「だって・・・・・」 「俺は久しぶりにすげぇ楽しかったから。総二郎のそんな顔、見れただけでも日本に帰ってきた甲斐があったってもんだぜ。また何かあったら言えよ。いつでも協力するぜ?」 「うん・・・・・・・ありがと」 頬を染めながら、照れくさそうにあきらを見る牧野が。 その牧野の手を握ったまま、牧野の顔をじっと見つめるあきらが。 さっきから、俺の額に青筋を作らせてる。 「おい・・・・いい加減、その手離せって」 と俺が言えば、牧野は「え?」ときょとんとし、あきらはまたにやりと笑って俺を見ると、さらにその手をぎゅっと握り締めてやがる。 「ま、そういうな。最後のひと時くらい楽しませてくれよ」 「え?美作さんもう行っちゃうの?また海外?」 「ああ。今度はインドに1年くらい行ってる予定。久しぶりにお前らに会えてよかった。楽しかったぜ」 「美作さん・・・・・」 牧野の顔が、寂しげな色を滲ませる。 あきらはそんな牧野を優しい眼差しで見つめ・・・・・・ 突然握っていた牧野の手を引いたかと思うと、車から身を乗り出し、牧野の頬に素早くキスをした。 「きゃ!?」 「!あきらっ!!」 慌てて牧野の腕を引き寄せる俺。 あきらは牧野の手を離すと、さも満足したかのような高笑いをし、運転席に座りなおした。 「じゃあな!今度帰ってきたときはまた一緒に飲もうぜ、総二郎」 そう言って俺に手を振り・・・・・・ 俺が何か言う前に、車を発進させていしまった。
「―――あきら!!」 俺は、ゆっくり走り出した車に向かって叫んだ。 「今度会ったら、一発殴らせろ!!」 走り去りながら―――あきらが頭上で手を振っているのが見えた・・・・・
「・・・・・行っちゃった・・・・・」 ぽつんと呟いた牧野の腕をぐいっと引っ張り、俺の方へ引き寄せる。 「わ!?な、なによ急に―――っ!?」 牧野の言葉を無視して・・・・・ 俺は、その細い腰を引き寄せ、牧野の唇を塞いだ―――
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