***Blue Christmas vol.2***



 -tsukushi-
 
 美作さんの言うとおり、23日に仕事が入ってしまったことを西門さんに告げる。
 昨日の電話のことも、23日のことも、嘘をつくことに後ろめたさを感じる。
 だけど・・・・・

 『心配するな。絶対うまくいくから』

 そう言っていた美作さんを、今は信じたい気分だった。
 西門さんを信じていないわけじゃないけれど。
 どこへ行っても女の人の注目を集めてしまう彼と一緒にいると、隣にいるのが申し訳ないような気さえしてきてしまうのだ。
 大人な西門さんと、まだまだ子供っぽいあたしとじゃやっぱりつり合わないんじゃないだろうか。
 その思いは、いまだあたしの心に燻り続けてて・・・・・
 あんなふうに大人の女の人と一緒にいるところを見てしまうと、疑心暗鬼になってしまう自分に溜息が出てしまう・・・・・。


 そして23日
 あたしは美作さんに言われたとおり、1番お気に入りのワンピースと滅多に着ることのない真っ白なコートを着て家を出た。
 メイクも、あたしにしてはがんばったんじゃないだろうかと思えるちょっと華やかなメイクで、見ていた進が『ずいぶん気合入ってんね』とからかうのでちょっと心配になって『変?』と聞くと『いや、かわいいけど』と言ってくれた。
 こうしてめいいっぱいのおしゃれをしたあたしは、なんとなく落ち着かない気分で待ち合わせの場所へ急ぐ。
 すれ違う人がみんなあたしを見て笑っているような気がして、ひたすら前だけを見て歩く。


 「こらこら、どこまで行くつもりだよ」
 突然後ろからおかしそうに言う声が聞こえ、あたしははっとして立ち止まる。
 振り向くと、そこにはメタリックなワインレッドのスポーツカーに乗った美作さんが、サングラス越しにあたしを見て微笑んでいた。
「美作さん!びっくり・・・・全然わからなかった」
「そりゃお前、わき目も振らずにあの勢いで歩いてりゃわかんねえだろ。久しぶりだな」
 そう言いながらサングラスを外す仕草はさすが、様になっていて道行く女の子たちがみんなちらちらと見ていくのがわかる。
「ふ〜ん・・・・・」
 美作さんが、あたしのことをつま先から頭のてっぺんまで嘗め回すように見るから、なんだか居心地が悪い。
「な、何よ・・・・・・変?」
「いや、かわいいじゃん。ちょっと見ない間にいい女になったよな」
 改めてそう言われると照れてしまう。
「み・・・・・美作さんこそ、なんだかすごく大人っぽくなったみたい。忙しいの?」
 繊細で神経質そうな印象が強かった美作さんだけど、なんだか海外で仕事をしてきたせいかたくましくなって、男の色気が備わってきたような気がする。
「まあな。やりがいはあるけど、遊ぶ暇がなくなったのは痛いかも。だから、久しぶりの休暇にこっちに来て総二郎と遊ぼうかと思ってたんだけど・・・・・」
 そう言って美作さんはにやりと笑った。
「お前の話聞いてたら、総二郎と遊ぶより、総二郎で遊ぶ方が面白そうだと思ってさ」
「は?」
 意味がわからずあたしが首を傾げていると、美作さんが手をちょいちょいと動かし、あたしにもっと近くに来るように合図した。
 不思議に思いながらもあたしは車の近くへ寄る。
 と、突然ぐいっと美作さんがあたしの腕を引っ張り、体を引き寄せると車の窓から体を乗り出し、あたしの耳元に顔を寄せた。
 突然至近距離に美作さんのきれいな顔が近づき、思わずドキッとしてしまう。
「ちょっ・・・・・」
「しっ―――もう少しだから、このままじっとしてろ」
「え・・・・・?」
「・・・・・お前、ほんといい女になったな。さすがの俺も、この至近距離ではやばいかも」
 低く、甘い声で囁くから、どきどきが止まらなくなる。
 顔が熱い。
 あたしがどうしていいかわからないでいると、美作さんが急にくすりと笑うと、あたしの耳元に軽く音を立ててキスをした。
「ひゃ!?」
 驚いて離れようとすると、急にあたしの体は後ろに引っ張られ、そのままぽすんと誰かの胸にぶつかった。

 見上げると、そこにはむっと顔をしかめた西門さんの顔。
 いつの間にかあたしの腰に回された西門さんの腕が、あたしを後ろからぎゅっと抱きしめていた・・・・・。


 -soujirou-

 23日。
 俺は朝から牧野のアパートの家で牧野が出てくるのを待った。
 あれから結局牧野と会うことも話すことも出来なかった。
 仕事が忙しいのも本当なのだろうが、故意に俺を避けてるようなあいつの行動が、俺をますます苛立たせていた。
 
 今日、あいつが本当は休みだってことは既に確認済み。
 どうして嘘をついたのか・・・・・
 それを、俺には知る権利があると思うんだけど?

 昼近くになって、漸く牧野が部屋から出てきた。
 階段をかんかんと音を立てながら下りてくる様子を、俺はあいつに見つからないよう身を潜めながらちらりと覗き、顔を顰めた。
 あれは確か、去年の誕生日に類からプレゼントされたとか言ってた白いコート。汚れそうで、着るのがもったいないといってたやつだ・・・・・。中に着てるのは、お気に入りのワンピース。黒地に小花柄をちりばめたシフォンの柔らかなシルエットが女らしく、デートのときによく着ているやつだ。
 そしてメイクもいつもより華やかで、どう見ても仕事って感じじゃない・・・・・。

 ―――あんなおしゃれして、どこに行くつもりだ?まさか・・・・・誰か他の男と・・・・・?

 今まで考えたくなくて避けてた想像が、頭の中を駆け巡る。
 
 わき目も振らず、ひたすら歩き続ける牧野の後を着ける。
 急いでいる様子が、これから会う相手に早く会いたいと思っている牧野の心を表しているようで、胸が苦しくなる。

 ―――どこまで行くんだ?
 そんなことを考えていたとき・・・・・

 牧野が通り過ぎようとしたとき、すぐ脇の道に止まっていたスポーツカーから男が顔を出し、牧野に声をかけた。

 ―――あきら!?
 俺はその男の顔を見て、目を見開いた。
 ―――なんであきらが・・・・・
 あきらが日本に帰ってきてたなんていう話は聞いてない。
 
 2人が話している様子を、少し離れたところで見つめる。
 その内容までは聞き取れないが、牧野がちょっと照れたようにしてる様子や、あきらが牧野の全身をくまなく見つめる様子にもやもやとしたものが湧き上がる。
 
 出て行こうかどうしようか悩んでいると、突然あきらが牧野の腕を引き寄せ、窓から体を乗り出したと思ったら牧野の耳元に顔を寄せて何か囁いている。
 ―――あきらのやつ―――!
 俺は堪らず出て行き・・・・・
 真っ赤になった牧野の耳元に音を立ててキスをしたその瞬間、俺は牧野の腰に手を回して思い切り引き寄せた。

 「ひゃ!?」
 変な声を上げて驚く牧野。
 顔を上げ、俺の顔を見てびっくりしている。
 そして・・・・・
「よォ、総二郎。久しぶり」
 そう言ってあきらは、満足そうに笑ったのだった・・・・・。





  

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