-soujirou-
俺の計画は狂いっぱなしだ。
イブの前日にせっかく取った休日。 牧野と2人きりで、1日クリスマス気分を満喫しようと思ってたのに、それを牧野に断られるという始まる前から出鼻をくじかれる形になってしまった。
それでも・・・・・牧野の不安の原因が、俺のあの日の行動だと知れば、あきらの企みにも目を瞑る他ないと諦めるしかなかった。
その日の夜。 この日のために予約していたホテルの部屋で、ベッドでうとうとし始める牧野の黒髪にそっと口付けを落とす。 「ん・・・・・・」 「・・・・・渡したいものが、あるんだ」 俺の言葉に、牧野はその瞳をゆっくりと開いた。 「・・・・・何?」 俺はきょとんと首を傾げる牧野にちょっと微笑み、枕の下から、そこへ忍ばせていた小さな箱を取り出した。
「・・・・・本当は、お前の誕生日に、渡そうと思ってたんだ」 「え・・・・・」 「でも・・・・・そんな小細工が何の意味もないってこと、今日思い知ったよ」 「どういうこと・・・・・・?」 「お前の不安の原因・・・・取り除いてやるよ」 そう言って開いて見せた箱の中には、プラチナ台に小さいけれど眩い光を放っているダイヤモンドが乗せられた指輪があった。 その指輪を見た牧野の瞳が、大きく見開かれる。 「あの時・・・・・これのことを頼んでたんだ」 「あ・・・・・・あの時って、あの女の人と会ってたとき・・・・・?」 「そ。お前を驚かせたくって・・・・・あの日、彼女に相談しに行ったんだ。俺の希望はすんなり聞き入れられて、あっさり商談成立。さっさと帰ろうかとも思ったんだけど、彼女と会うのも5年ぶりで、彼女の結婚式以来だった。だんなからのプロポーズの話から、子供がどんだけかわいいかって話まで延々惚気話を聞かされて・・・・・でもそれがあんまり幸せそうで。他人のそんな話、興味なかったのに、いつの間にか聞き入ってたよ。彼女の話に・・・・自分とお前の未来を重ねて・・・・・」 「西門さん・・・・・・」 「自分が家庭を持つなんて、考えたこともなかった。親の決めた相手と結婚して、跡継ぎ作って・・・・・そんなぞっとする道を、それでも進んでいかなくちゃいけないものだと思ってた。それが運命だって・・・・・どっかで諦めてたのにな。今の俺は・・・・・・お前と、家庭を持ちたいって、本気で考え始めてる」 牧野の瞳が、驚きに揺れる。 「急にこんな話して、お前を困らせるのは本意じゃないけど・・・・・でも、考えておいて欲しい。年が明けたら・・・・・両親に紹介したいと思ってる」 「西門さん・・・・・・あたし・・・・・・」 「これ・・・・・受けとってくれないか・・・・・?」 「あたしで・・・・・いいの・・・・・?あたし、何も・・・・・・・もってない・・・・・・・」 「何もいらない。お前がいればいい。お前がずっと傍にいてくれれば、他には何もいらない・・・・・」 涙を溜めた牧野の顔に手を添え、挟み込むように包む。 「だから・・・・・俺の傍にいて欲しい。傍にいてくれるなら、俺がずっとお前を守る。一生・・・・お前と生きていきたい・・・・・」 大粒の涙が零れ落ち、俺の手を濡らす。 「・・・・つくし・・・・・・」 ゆっくりと唇を重ねる。 涙の味のするキス。 閉じられた牧野の瞳からまた、涙が零れ落ちた。 「・・・・愛してる・・・・・」
ゆっくり開かれた牧野の濡れた瞳が、俺を捕らえる。 「・・・・・あたしも・・・・・・」 「・・・・・ずっと・・・・・俺の傍にいて・・・・・」 「・・・・・はい・・・・・」 泣き濡れた顔で微笑む牧野は、まるで女神のように見えて。
俺は、二度と話さないように、しっかりと牧野を抱きしめた・・・・・。
fin.
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