「また喧嘩したのかよ」
うんざりしたような俺の言葉に、母親がふんとそっぽを向く。
「私は悪くありませんよ。つくしさんがあんまり素直じゃないから―――」
「―――で、今度の原因はなんだよ?」
「そろそろ、子供でも作ったらどうかしらって言ったのよ」
「はあ?」
「当然のことでしょう?それで、やっぱり最初は男の子のほうがいいと言ったのよ」
「―――で」
「そうしたら、産み分けなんてとんでもないって怒ったのよ。私、そんなに怒らせるようなこと言ったかしら?」
母親の言葉に、深いため息をつく。
時期家元という立場上、そういうことも考えなければいけないということはわかってる。
だけど、俺はまだそこまでは考えてないし、今つくしと夫婦になれたことを満喫したいと思っている。
たぶん、俺よりもつくしのほうがそのことには敏感になってる気がする。
ちょっとしたことでも母親と意見が食い違い、どちらも意見を曲げないものだから喧嘩もしょっちゅうだ。
それでも、言いたいことを言えるということも大事だろうと、今まではそれを2人の間に入って宥めるようにしてきたが。
「で?つくしは?」
俺の言葉に、母親は肩をすくめる。
「さあ。出かけたみたいですけど」
そう言うと、自室に引っ込んでしまった母親。
俺はまた一つため息をつくと、自分の部屋に行って携帯を取り出した。
つくしは、母親と喧嘩した後はあきらの家に行っていることが多い。
この家にこもっているとストレスもたまるだろうし、あきらならいい相談相手になるからと、目を瞑ってはいるがこうしょっちゅうあきらのとこへ行かれるのはやっぱり面白くない。
何度かコールした後、あきらが電話に出る。
「つくしは?」
『つくし?なんだよ、帰ってねえの?』
「帰ったのか?いつごろ?」
『1時間くらい前だよ。もうとっくに着いたかと思ってたけど』
「いや、まだ帰ってきてねえよ。買い物でもしてんのかな」
『―――もしかしたら』
「え?」
『いや―――』
なんとなく、何かを含んでるようなあきらの声が気になった。
「なんだよ、言えよ。つくしの行き先に心当たりでもあんのか?」
『心当たりっつーか・・・・・今日、類が来たんだよ』
「は?類?あいつ、フランスじゃなかったのか?」
『仕事だって言ってたぜ。つくしが帰るって言うんで類が送っていくって一緒に出て行ったんだよ。だから、もしかしたら類と一緒かも―――』
類と?
ざわりと、胸騒ぎがする。
類とは大学時代に3ヵ月間付き合ってたことがあるつくし。
そのまま結婚、というところまでいった仲だ。
もちろん今は俺の妻なわけだから、何かあるはずはない―――のだが。
あきらとの会話を終え電話を切った俺は、すぐにつくしの携帯に電話をかけた。
数回のコールの後、留守録サービスに切り替わってしまう。
その後すぐに類の携帯にかけても同じ。
―――まさか、本当に類と―――?
ここのところ俺も忙しくて、あいつの話をちゃんと聞いてやれなかったかもしれない。
でも、あいつもそれはわかってくれていたし、2人の気持がちゃんと通じ合っていたはず・・・・・
それとも、そう思っていたのは俺だけ・・・・・?
どうしようもない不安が胸に押し迫ってくる気がするのは、相手があの類だからだろうか。
もしかしたら、つくしが結婚していたかもしれない相手。
つくしにとって、類は特別だ。
もしつくしが俺との結婚に絶望して、類と再会して情が芽生えたとしたら?
類がまだつくしのことを愛してるとしたら・・・・・?
あいつの性格はよく知ってる。
好きなものにはとことんこだわる性格だ。
つくしが俺との結婚で悩んでると知ったら・・・・・?
どこにいるかもわからないけれど、俺は家を飛び出した。
―――つくし!どこにもいくな・・・・・!
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