***ビターキャラメル vol.2***

 病院を出て西門さんと別れ、車に乗る。

 あたしは、久しぶりに会える友人たちのことを考えて、ちょっと浮かれていた。

 「―――嬉しそうだね」
 類の声にはっとする。
「だって、久しぶりだし・・・・・。類は嬉しくないの?」
 あたしの言葉に、類は肩をすくめた。
「あきらたちにはしょっちゅう会ってるし、他は興味ない。俺は、牧野と2人きりで過ごしたかった」
 ちょっと、機嫌悪いかも・・・・・?
 あたしは類の横顔をちらりと盗み見た。
 まっすぐ前を見つめる瞳。
 でも、その表情はやっぱりちょっと怒ってるみたいだった。
「・・・・・明日、休みでしょ?久しぶりに2人で過ごせるよ」
「邪魔が入らなけりゃね」
 前を向いたまま、素気なく言う。
 やっぱり雲行きがあやしい・・・・・。
「邪魔って・・・・・」
「結婚してから今まで、2人きりでゆっくり出来たのってどのくらいある?仕事は忙しいし、たまの休みにはあきらが押しかけてきたり、日本に帰ってきてからも休む暇はないし、これからだってきっと休みになればあきらや総二郎が来るんだろ」
「それは・・・・・。でも2人とも大切な友達だし」
「もちろん俺だってそう思ってる。だけど・・・・・俺たち夫婦の時間だって、大切だよ」


 家に帰り、途中だった食事の支度を再開する。
 ここは花沢の家からは少し離れた高層マンションの最上階。
 花沢の家でも良かったのだけれど、2人きりの時間を大切にしたいと言う類の意見で、マンションを買うことになったのだ。
 そんな贅沢な・・・・とは思ったのだけれど、あたしも使用人たちに全て家事を任せきりにするよりも夫婦たちのことくらいは自分たちでやりたいと、賛成したのだった。

 だけど実際は仕事が忙しく、ここでゆっくり過ごせるのは、夜中に帰って寝るときくらい。
 たまには2人でどこかへ出かけたり、日の出てるうちに2人きりの休日を楽しみたいと思っていたのだ。
 そして、明日はその久しぶりの休日なのだけれど・・・・・。

 さっき、病院を出るときの会話を思い出す。
 明日が休みなら、これから飲みに行かないかという西門さんの誘いを、『疲れてるから』と言って素っ気無く断った類。
 よっぽど疲れているんだろうと思っていたのだけれど・・・・・。

 食事が終わり、ソファーで横になっている類の傍へ行く。
「お疲れ」
 あたしに気付いた類が、にっこりと微笑みあたしの腕を引く。
 漸く笑顔を見せてくれた類にほっとして、あたしは類の胸に頭をもたせ掛ける。
「類も」
「・・・・・さっきはごめん。ちょっとイライラしてた」
 ちらりと、類を見上げる。
「仕事で、何かあった?」
「いや、そうじゃないよ。あれは・・・・・ちょっと、妬いてただけ」
 照れくさそうに、あたしの髪を撫でながらはにかむ類。
「妬いてた?美作さんに?それとも西門さん?」
「どっちも、かな。あきらが事故に会ったって聞いて心配して駆けつけたけど・・・・・つくしが先にそこにいるのに、驚いた」
「それは、杉田さんが・・・・・」
「うん、わかってる。だけど俺に言っておいて欲しかった。慌ててたってことはわかってるけど・・・・・。それから総二郎のことも」
「西門さん?」
「口説かれてた」
 ちらりと拗ねた視線を向けられて、あたしは驚く。
「聞いてたの?」
「部屋に入ろうとしたら、聞こえたんだ。ああいうの、総二郎はつくしの反応見て楽しんでるんだってわかってるけど、やっぱりいい気はしないよ」
 類があたしの首に腕を回し、後ろから首筋にキスを落とす。
「つくしは、俺の奥さんなのに。あいつら、そういうの無視しすぎ」
 完全に、ふてくされてる。
「つくしも・・・・・。いちいち総二郎のああいうのに反応しないで」
「そんなつもりないんだけど・・・・・。急にああいうこと言い出すから、びっくりしちゃって」
「それがあいつらにはツボなんだって。顔なんか赤くしてるとこ見ると、余計にね。だから、安心できない。つくしを1人であいつらに会わせたくないんだ。隙がありすぎ」
 耳元でしゃべるから、類の息がくすぐったくて身を捩ろうとすると、類はあたしの腰に腕を回し、ぎゅっと抱きしめてきた。
「明日は、どこにも行かないでここでこうしてたい」
「お休みなのに、全然出かけないの?」
「2人きりを満喫したいんだ。来週はまた、邪魔が入るし」
「・・・・・嫌なの?」
「正直に言えば、俺はいつでもつくしと2人がいい。でも、友達も大切だとは思ってるし、つくしの気持ちもわかってるつもり・・・・・。だから、来週は我慢してあげる。その代わり、明日は俺の我侭聞いて・・・・・」
 そうして、あたしを抱きしめる腕に力をこめる類。

 気付けば、ソファーの上で類に組み敷かれていたのだった・・・・・。






  

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