*このお話は、「キャラメル・ボックス」から続くお話になります。
こちらのお話だけでもお読みいただけますが、より詳しい内容をお知りになりたい場合は、「キャラメル・ボックス」からお読みくださいませ♪
-tsukushi-
その日あたしは、家で少し早めの夕食の準備にとりかかっていた。 明日は休日。 久しぶりに類とゆっくり出来るはずだった。
フランスで1年間生活し、また日本へ戻って来てから3ヶ月。 慌ただしく過ぎていく毎日の中で、なかなか2人きりで過ごす時間も持てずにいた。 午後の5時を回る頃、家の電話が鳴り出した。
慌ててキッチンを飛び出し、受話器を取る。 「はい!」 『あ、牧野様、杉田です』 既に結婚し、花沢姓になったあたしを『牧野』と呼ぶ人間は限られていた。 これは――― 「杉田さん?どうかしました?」 美作さんの秘書である杉田さんの慌てた声に、美作さんに何かあったんだろうかと、あたし心のに不安が広がる。 『実は、交通事故に遭われまして』 「交通事故!?」 背筋に、冷や汗が流れる。 「それで、美作さんは!?」 『すいません、わたしも今別の場所にいまして、詳しいことは―――。これから病院に向かいますので、牧野さんも・・・・・』 「行きます!どこの病院ですか!?」 おそらく電話の向こうで一瞬耳を離しただろうと思えるほどの大声で、あたしは怒鳴っていたのだった・・・・・。
「美作さん!!」 病室のドアを勢いよく開けて病室に飛び込んだあたしを、目を丸くして迎えたのは――― 「お前、ここ病院だって知ってる?」 ベッドの隣に立って呆れ顔で言ったのは西門さん。 そして――― 「個室にしておいてよかったぜ」 と苦笑したのは、ベッドに横たわっていた美作さんだった・・・・・。 「美作さん・・・・・大丈夫なの!?」 「でかい声出すなって。杉田に聞いたのか?」 「うん。交通事故にあったって・・・・・」 あたしの言葉に、美作さんは肩をすくめた。 「ああ、ドジっちまった。駐車場出るとこで、カーブを曲がってきた車に気付くのが遅れた。けど向こうもカーブでスピード落としてたし、かすっただけだから・・・・・打撲とかすり傷だけで済んだ。一応、検査のために1日入院だけどな」 その話に、あたしはほっと息をついた。 「よかった・・・・・」 「まったく、杉田のやつもちゃんと確認しねえでお前に電話したな」 「あ、そういえばその杉田さんは?こっちに向かうって言ってたけど、まだ?」 「ああ、あいつにはさっき電話して社のほうに向かってもらった。急いでやってほしい用があったから」 「そっか・・・・・。でもよかった、たいしたことなくて・・・・・」 再び息をつくあたしを、美作さんが見て笑う。 「悪かったな、心配かけて。杉田のやつ、俺に何かあったらまずおまえに知らせなくちゃいけないと思ってるみたいだから」 そう言う美作さんの隣で、西門さんもにやりと笑う。 「そりゃあそうだろう。日本からフランス、フランスから日本と、まるで追っかけみたいにずっと牧野の傍にいて、毎週のように会ってればただならぬ関係だって思われても不思議じゃない」 西門さんの言葉に、あたしは顔を顰めた。 「ちょっと、変な言い方しないでよ。たまたま仕事の都合で移動した場所が同じだっただけ。それに毎週会ってるのだって、類が一緒なんだから怪しまれるようなこと何もないよ」 そう言うあたしを、横目で見つめる西門さん。 「たまたま、ね・・・・・」 「何よ、本当のことだもん。ね?美作さん」 「ああ」 あたしの言葉に、笑顔で頷く美作さん。
美作さんとあたしが付き合っていたのは、類と結婚する前のこと。 今では、何でも話せる大切な親友の1人だ。 もちろんそれは西門さんも一緒なんだけれど・・・・・
「ったく、ずりぃよなあ。俺だけのけ者って感じ?」 拗ねたように西門さんが言う。 「それは西門さんはずっと日本にいたから・・・・・別にのけ者になんかしてないし」 「へーえ、ほんとに?」 ずいっと突然そのきれいな顔を近づけてくるから、思わず焦ってしまう。 この年になっても相変わらずの美形だと、感心してしまうあたしもどうかと思うけど。 「ほ、ほんとに」 「じゃ、そこんところ確認する意味で、今夜あたり一緒に飲みにいかねえ?」 にっこりと魅惑の笑みを向けられ、あたしは目を逸らすこともできずにどきどきしていた。 と――― ぐいっと、西門さんの腕が引っ張られ、壁のほうに追いやられる。 「調子に乗んな、総二郎。2人きりで会うのはルール違反だろ?」 じろりと美作さんに睨まれ、西門さんは溜息をついて肩をすくめた。 「わーかってるよ。冗談だって」 「油断ならねえやつ。あ、そういや牧野、類には言ってきたのか?」 「ああそうだ、さっき俺が電話したときは会議中だとかで話できなかったぜ。一応田村さんに伝言頼んどいたけど」 「あ・・・・・そうだ、慌てて出て来たから、あたし何も・・・・・」 会議が終わったら、直帰すると今朝言っていたから、もうそろそろ―――
「なんだ、元気そうだね」 突然後ろから声がして振り向くと、扉を開けて立っていたのは・・・・・ 「類、仕事終わったの?」 あたしの言葉に、類は笑顔で頷く。 「うん。今日は早く帰れるって言っただろ?びっくりしたよ。会議終わって帰ろうとしたら、田村があきらが事故に遭ったなんて言うから」 「その割には、全然慌てた素振りがねえな」 美作さんがからかうように言うと、類は穏やかに微笑み肩を竦めた。 「たいしたことないって聞いたから。でもほっとした。顔色も良いし、すぐ退院できるんだろ?」 「ああ、明日には」 「退院したらパーティーするか?久しぶりにみんな集まって」 西門さんが楽しげに言う。 「そういえば、こないだ優紀とも話してたの。久しぶりに会いたいねって」 「いいな。じゃ、来週の日曜あたりどうだ?ダメならずらすけど」 美作さんの言葉に、類が頷いた。 「俺はいいよ」 「俺も。じゃあ決まりな」 日本に帰ってきてからというもの、忙しくて優紀たちとも電話で話すくらいでゆっくり会う時間がなかった。
久しぶりに会えると思うと、なんだかとてもうきうきしているあたしだった。
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