そこに立っていたのは、頭に角がないのが不思議なくらい、不機嫌を絵に描いたような様子の西門さんで・・・・・・・ 「に、西門さん、あの・・・・・・」 「何考えてんの」 あたしが言い訳するより先に、そうばっさりと言い捨てる西門さん。 「ごめん、なさい、あの・・・・・」 「待ち合わせに遅れてきたと思ったら、よりによってなんで類の車に乗ってくるわけ?しかも助手席に乗って、降り際にキス?恋人同士かよ」 冷たい物言いに、あたし胸がずきんと痛む。 「そんな・・・・・」 「今日、呼び出したのはお前だろうが。わざわざ類とのラブシーン見せ付けるために呼んだわけ?ふざけんなよ」 じろりとあたしを睨むその目に、いつもの優しさはなかった。 胸が苦しくなり、涙が出そうになるのを必死で堪える。 「そんなんじゃない!類は、あたしをここまで送ってくれただけだよ。そんな言い方しないで!」 むっとして言い返すあたしに、西門さんはさらに表情を険しくする。 「ああそうかよ!だったらその優しい類と付き合えば?」 そう言ったかと思うと、くるりと背中を向けて歩き出す西門さん。
あたしは、その場から動くことが出来ずにただその後姿を見つめていた。 目には涙が溢れてきていた。
「追いかけないの?」 すぐ横で声がして、驚いて目を向ける。 「類!」 いつの間に・・・・・ 類はいつものように穏やかに、あたしを見て微笑んでいた。 「追いかけないなら・・・・・・俺と一緒に行く?ここにずっと突っ立ってたら風邪ひくよ」 「あたし・・・・・・」 「でも、今俺の車に乗ったらもう後戻りはできないからね。総二郎のところに戻らない覚悟があるなら・・・・・乗って」 穏やかな瞳に、真剣な光が見え隠れしていた。 その瞳にはっとし、あたしはまた動けなくなる。
いつもあたしを見守ってくれる類。 あたしの幸せを願って、その優しさで包んでくれる類。 いつか道明寺にも言われたみたいに、きっと類ならあたしを幸せにしてくれる。
でも・・・・・・・・・
「類、ごめん、あたし・・・・・」 震える声でそう言いかけたあたしの腕が、後ろからぐいと引っ張られる。 「・・・・・悪ふざけにも、程があるんじゃねえ?」 そう言って、類を睨みつけたのは 「西門さん!」 「なんだ、戻ってきたの。俺のことを推薦してくれたんだと思ったのに」 にやりと笑う類。 「誰が。良いか、今こいつと付き合ってんのは俺だ。ふざけたことすんじゃねえよ」 「ふざけたつもりはないんだけど・・・・・牧野が、困ってるみたいだったから。不安に思うことがあるってのは、2人がまだまだ信頼しあってないってことじゃない?そこに、付け入られる隙があると思うんだけど」 厳しい類の言葉に、西門さんが一瞬詰まる。 「・・・・・言ってくれるな。確かに、不安はあるさ。けど・・・・・やっと手に入れたこの場所を、お前にも、他のやつにも明け渡すつもりはねえ」 静かにそう言い放った西門さんに、類は穏やかに微笑み・・・・・ 「それなら、しっかり捕まえときなよ。牧野は、目を離すとすぐどっか行っちゃうからね」 そう言って笑った。 なんだかすごく不本意なんだけど・・・・・ ちらりと見上げた西門さんの顔はやっぱりまだ憮然としていて、あたしは何も言い出せなかった。 「言われなくても、そうする。ちゃんと捕まえてるつもりでも、そうやってちょっかいかけてくるやろうがいるからな」 西門さんの言葉に、類はまるで人事みたいに楽しそうに笑った。 「それは、俺の役目だと思ってるから。俺が願ってるのはいつだって牧野の幸せだからね。だけど・・・・・一度でもこの腕の中に捕らえたら、離すつもりはないから。覚悟しといてよ」 そういうと、西門さんが何か言うより先にさっさと車を発進させ、行ってしまった・・・・。
車を見送り、気まずい沈黙が流れる。 「・・・・・今更だけど。何で遅れた?」 西門さんが、落ち着いた声で聞いてくる。 その声に怒りは感じられなくて、あたしはちょっとほっとした。 「寝坊・・・・・」 「寝坊?こんな時間まで?」 「あの、寝てなくて・・・・・明け方の5時ごろまで・・・・・ずっと起きてようと思ってたんだけど、本読んでたらつい・・・・・」 「5時?そんな時間まで何やって・・・・・・」 訝しげにそう言ったかと思うと、急にはっとしたような表情になり、眉間に皺を寄せた。 「まさか・・・・・・類といたのか・・・・・?」 「え?」 あたしは一瞬何を言われたのかわからなくて・・・・・・でも、西門さんの表情から何を考えているのかがわかり、慌てて首を振る。 「まさか!そんなわけないじゃない!類とは、ここに来る途中に会って送ってもらっただけ!偶然だよ!」 「・・・・・・それを、俺はどうやって信じればいい?」 「西門さん・・・・・あたしのこと、信じられないの・・・・・?」 また、心が急激に冷えてくる。 西門さんの瞳が、疑いの色を乗せてあたしを見つめていた。 「・・・・・信じてえよ、俺だって。けど、俺は類の思いを知ってる。お前だって・・・・・類のことを特別に思ってる。そこに恋愛感情がないって言われたって、あんなところを見せ付けられれば平静でなんかいられるか」 「あんなところって・・・・・」 「車の助手席乗って、類にキスされてたろ」 「あれはだって、類が乗れって・・・・それにキスだって、あっという間のことで・・・・・そ、それにほっぺただし!」 「じゃああれが唇だったら?」 「!」 「キスされてたのが、唇だったら・・・・・それでもお前は、類だからって許すわけ?それ見て、俺がなんとも思わないとでも?」 「それは・・・・・」 「お前と類の関係が特別だって、俺も理解してるつもり。けど、俺だって不安になる。お前にとって俺ってなんなんだよ?」 イライラと言いながら、悔しそうに地面をける西門さんの姿が。 こんな場面なのに、なんだか新鮮だった。 いつも回りに寄って来る女の人にヤキモキしてるのはあたしの方だと思ってた。 恋愛に慣れてる西門さんにとってはあたしなんてまだまだ子供で。 くだらない嫉妬なんて、きっと馬鹿にされるって。 だから、いつも西門さんの前では強がって、嫉妬なんかしてない振りしてた・・・・・。
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