「できた〜・・・・・」 漸く完成したその物の前で、大きく息をつく。 何とか間に合ってよかった・・・・・。 てか、今何時だろう? ふと時計を見ると、既に朝の5時をまわっていて、外はうっすらと明るくなりかけていた・・・・・。
時間を確認した途端、睡魔が襲ってくる。 だけど、ここで寝てしまったら確実に寝過ごしそう・・・・・・。 そう思ったあたしは、仕方なく本でも読んで時間を潰そうとその辺にあった本を手に取ったのだった・・・・・。
が、これが失敗というもので。
気がついたときにはテーブルに突っ伏したまま、熟睡していたのだった・・・・・。
「つくし!いつまで寝てるの!!」 母親の怒鳴り声で、はっと体を起こす。 「い、今何時!?」 慌てて起き出したあたしを、母親が呆れた目で見る。 「もう昼過ぎよ。全くそんなとこで・・・・・風邪でも引いたらどうするの」 母親の説教を最後まで聞く余裕もなく、あたしは慌てて身支度を始める。
―――やばい!!待ち合わせは11時だったのに!!
超不機嫌な顔の恋人の顔を想像し、ぞっとする。
10分後にはアパートを飛び出し、待ち合わせ場所へと走る。 が、どんなに急いでも20分はかかってしまうのだ。 ―――先に、電話した方が良いかな?
そう思ったとき、後ろから車のクラクションが聞こえ、反射的に振り返る。 「牧野、急いでるの?」 そう言って運転席から顔を覗かせたのは、花沢類だった。 「類!!何でここに?」 「あきらと約束があって、向かう途中・・・・・。牧野は?何慌ててるの?」 「あ、あたしは、その・・・・・」 なんとなく恥ずかしくなってはっきり言い出せずにいると、類は何かを察したように微笑んだ。 「乗れば?送ってあげる」 「で、でも」 「ほら、急がないとまずいんじゃないの?」 そう言って助手席に乗るよう促され・・・・・ あたしは一瞬迷ったものの、少しでも早く行きたくて、類の好意に甘えることにした。
「今日は、バレンタインだもんね」 運転しながら楽しそうに言う類。 「う、うん・・・・・」 「うまくいってるみたいで・・・・・安心した」 「どうかな・・・・・。あたし今日、大遅刻だし。きっと怒ってる」 大きく溜め息をつく。 そんなあたしをちらりと見て。 類はいつものように穏やかに微笑んだ。 「大丈夫だよ。牧野が思ってるよりもずっと・・・・総二郎は牧野のこと好きだと思うよ」 「・・・・・そう・・・・・かなあ・・・・・」 まだ付き合い始めて1ヶ月。 思いが通じたときは、すごく嬉しかったけど。 でも、日が経つに連れ、自信がなくなってくる。 相変わらず彼には華やかな女性たちが入れ替わり立ち代り言い寄ってくる。 それを冷たくあしらうでもなく、適当に相手をしながらするりとかわして行く西門さん。 今は自分が恋人なんだという自信が、あたしは持てなかった。
「・・・・・大丈夫。もっと自信持ちな。不安があるんだったら、ちゃんと言いなよ。黙ってるのは誤解の元になる」 「うん・・・・・わかってるんだけど・・・・・」 素直になれないあたし。 あたしばっかりが彼を思ってるみたいで・・・・・・ 「・・・・・言ってくれれば、いつでも協力するよ。俺でも、あきらでも、利用できるものは利用すればいい」 「って・・・・・モノじゃないでしょ、2人とも。でも、ありがとう、心配してくれて・・・・・。あ、ここでいいよ。すぐそこだから」 待ち合わせ場所が見えてきて、あたしは声をかけた。 「ん。じゃ、またね」 類が車を路肩に寄せて止めた。 「送ってくれてありがとう。今度、お礼するから」 ドアを開けながらそう言うと、類がくすりと笑った。 「良いよ、このくらい。それに・・・・・お礼なら、今もらう」 「え?」 その瞬間、類に腕を引っ張られ、バランスを崩す。 あっと思う間もなく、頬に、類の唇が触れていた。 「!!」 驚いて、思わず開いていたドアから飛び出すあたし。 「な・・・・・!類!!」 真っ赤になって口をパクパクさせるあたしを見て、おかしそうに笑う類。 「お礼、もらったから。じゃあね」 そう言うと、ドアを閉め、さっさと車を発進させて行ってしまった。
あたしは暫し呆然とその場に立ち・・・・・・ 「・・・・・もう、心臓に悪いっつーの」 と呟くと・・・・・・ 「全く、いい度胸だよな」 すぐ後ろから、超絶に不機嫌な低い声が響いてきて・・・・・・ あたしは、恐る恐る後ろを振り返った・・・・・。
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