-soujirou-
全く、冗談じゃない。 珍しく牧野のほうから誘ってくれたから。 柄にもなく有頂天になってた俺。
待ち合わせの場所になかなか現われないあいつをひたすら待ってて・・・・・ 何かあったのかもしれないと、あいつの家まで行こうと思ったときだった。
見覚えのある車の中に見えたのは、類と牧野。 牧野が車を降りようとドアを開ける。 類が牧野の腕を引っ張り、引き寄せたと思ったら、類がそのまま牧野の頬にキスをした。
頭を、ハンマーで殴られたみたいなショック。 すぐには動くことが出来なかった。
キスくらいどうってことない。 頬なんて外国じゃ単なる挨拶だ。 今まで俺だって、誰にでもしてたし、されてた。 特別な感情がなくたって出来ることだ。
だけど・・・・・類にとって牧野は特別だ。 牧野にとっても。 そして・・・・・ 俺にとっても牧野は特別で・・・・・・たとえ単なる挨拶だって、牧野に触れるやつを、許せるわけなかった。
俺の知らない間に、牧野は類と会ってたのか? 夜通し一緒にいて・・・・・ そのあと、平気な顔して俺と会うつもりだったのか・・・・・? そんな疑惑が、俺の胸を締め付けた。
「好きだよ」 牧野が、俺を真っ直ぐに見て言った。 「・・・・・え?」 その言葉が、誰に向けられて言われたものなのか、わからなかった。 「誰を?」 その言葉に、牧野が顔を顰める。 「西門さんに決まってるでしょ!」 「類、じゃなくて?」 「当たり前でしょ!何でそんなこと言うの!?」 悲しそうに歪む牧野の顔。 涙を堪えてるような、そんな顔。 「信じてよ・・・・・。あたしが好きなのは、西門さんだよ。だから、今日だって・・・・・」 そう言いながら牧野は俯き、さっきからずっと握り締めていた紙製のバッグを開け、中からかわいくラッピングされた箱を取り出した。 「これ、作ってたら、朝になっちゃって・・・・・・待たせて、ごめんなさい・・・・・」 そう言って、俺のほうに差し出されたそれを受け取る。 「これ・・・・・」 「チョコレート。バレンタインの・・・・・西門さんのことだからたくさんもらうと思ったけど、やっぱり、渡したくて・・・・あんまりおいしくないかもしれないけど、一生懸命作ったんだよ。見た目は、あんまりきれいじゃないけど、でも・・・・・」 牧野の言葉を全部聞く前に、俺は牧野を抱きしめていた。 「わ、ちょ、に、西門さん・・・・?」 慌てて離れようとする牧野を、逃がさないように閉じ込める。 「・・・・・・やべえ」 「へ?」 「すげぇ、嬉しい・・・・・。考えてなかった。全然・・・・・」 「だって・・・・・・チョコレート、たくさんもらってるでしょ・・・・・?」 「ああ。でも、俺にとってはいつものプレゼント攻撃とかとあんまりかわらねえし・・・・・バレンタインデーを特別に意識したことなんてなかったから、忘れてた」 「そ、そうなんだ・・・・・」 「これ・・・・・俺だけに?他のやつには?」 「あ、あげてないよ。西門さんだけ。だって・・・・・これは、特別だから・・・・・・」
『特別』
その響きが、嬉しかった。 牧野にとっての特別。 その場所にいられることが。 「・・・・・あたしが、好きなのは・・・・西門さんだけだよ?ずっと、西門さんのことだけ考えてる・・・・・・」 「ん・・・・・悪かった。あんな言い方して・・・・・ずっと、心配だったんだ・・・・・お前が、俺から離れていっちまいそうで・・・・・」 「変なの・・・・・。いつも女の人に囲まれてるのは西門さんのほうなのに。あたしだけが、ヤキモチ妬いてるんだと思ってた・・・・・」 その言葉に、思わず顔が綻ぶ。 「ばーか。俺はずっと妬いてばっかりだったよ」 腕の力を緩め牧野の顔を見てみると、牧野は頬を赤く染め、俺のほうを見上げていた。 「・・・・・類に言ったことは、本当だから」 「え?」 「この場所を・・・・・お前の恋人って場所を、他のやつに譲るつもりはねえからな。ずっと、お前を捕まえといてやるから・・・・覚悟しとけよ」 笑ってそう言ってやれば、ますます赤く染まるその頬に、軽く口付ける。 「もうぜってえ、類には触れさせねえから」 「に、西門さん、あの、ここ、外・・・・・」 「今更だろ。言っとくけど、今日は帰さないからな」 「へ?」 「少しでも離したら、またどっかいっちまいそうだから・・・・・。もう、こうやってずっと捕まえとく」 「むちゃくちゃ・・・・・」 「本気だぜ、俺は。この腕は、離さない・・・・・・一生な」 そう言って牧野の潤む瞳を見つめ・・・・・・ そのまま、唇を塞いだ。 もう何も言えないように・・・・・・
その代わり、俺が何度でも言ってやる。
愛してるって・・・・・・・
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