前途多難
園子は校門を入るとすぐに2人の姿を見つけた。
―――おーおー、相変わらず夫婦してるわねー。ったく、新一くんったら長い間姿見せないで、帰っ
てきたと思ったらずっと蘭にべったり・・・。この園子様を差し置いて!・・・けど知ってるんだから
ね。新一君が、まだ蘭に告白できないでいること・・・。大体あやつは事件って言うと一も二もなく飛
び出してって、蘭との約束何回すっぽかしたのかしら。蘭は健気に何もいわず待ってるけどさ・・・。
そのくせ、他の男がちょっとでも蘭に近づこうものなら目の色変えて邪魔するのよね。全く分かりやす
いやつ。クラス中の誰もがそれを知ってて、知らないのって多分蘭くらいよ?あの子はホント、自分の
ことに関して鈍いから・・・。はっきり言ってあげなきゃわかんないのよね。でもまあ、そこが蘭のい
い所でもあるんだけど・・・。ホント蘭ってかわいいのよ。あやつなんかにゃもったいない!で、今ま
で散々蘭を泣かせた罰として、あやつに告白のチャンスを与えないことを決めたのよ。フフフ、見てら
っしゃい。
「ら〜ん、おはよ〜!!」
園子は、新一と蘭の元へ駆けて行った。
蘭が振り向き、ニッコリ笑う。
「おはよう、園子」
その横で、新一がまたかという顔をする。
「あら、何よ新一君。何か言いたそうな顔してるわね」
「別に。毎朝よく会うなと思って」
「当たり前じゃない。毎日同じ時間に出てるんだからさ。何よ、蘭とは毎朝一緒に登校して来るくせに、
わたしには会いたくないってわけえ?」
「んなこたァ言ってねえだろ?」
2人のやり取りを見て、蘭がクスクスと笑い出す。
「なんだよ蘭」
「何よ、蘭」
「ん―ん。2人とも仲良いなあと思って。2人の会話って聞いてて面白いよ」
蘭ののんきな言葉に、2人同時に溜息をつく。
「何?なんかわたし変なこと言った?」
蘭がキョトンとして首を傾げる。
―――か、可愛い・・・。
新一が抱きしめたい衝動に駆られたその時、園子がガバッと、蘭に抱きついた。
「キャっ、そ、園子?」
「んもう、蘭ってば可愛すぎ!いいのよ、あんたはそのままで!」
「おいっ、園子、離れろよ!」
先を越され、一気に機嫌が悪くなる新一。そんな新一に向かって、園子はぺろっと舌を出し、
「い・や・よ。蘭はわたしのもの♪」
「て、テメ―――」
新一がさらに何か言おうとしたとき、園子が蘭に抱きついたまま蘭に言った。
「ねェ、蘭。今度の日曜の約束覚えてる?」
「日曜?」
と、顔を顰める新一。
「そ。蘭と映画見に行く約束してるのよ。ね、蘭」
「うん。覚えてるよお、もちろん。わたしだって楽しみにしてたんだから」
「ちょ、ちょっと待てよ。俺聞いてねーぞ、そんな話」
「え?言ってなかったっけ?」
「聞いてね―よ!」
「新一くん、ここんとこ事件で呼び出されること、多かったからねェ」
「うん。あのね、ずっと前から約束してたの。この映画が公開されたら2人で見に行こうねって」
「って、俺は!?」
「あら、新一くんはダメよ」
「なんで!!」
「だァって、またいつ事件で呼び出されるかわかんないしィ、聞けばあんた、いつも映画の途中で寝ち
ゃうらしいじゃない」
「そ・・・それは・・・」
「それじゃ、一緒に見てる蘭がかわいそうでしょ?だから私と行くの。ね、蘭?」
「う、うん。ごめんね、新一」
「・・・・・」
新一は何も言えずに園子を睨みつけたが、園子はしてやったりという顔をしてニカッと笑うと、蘭の
腕をとった。
「さ、もう予鈴鳴っちゃうよ、行こう、蘭。
「うん」
さっさと行ってしまう2人を見送って・・・
―――園子のヤロォ・・・。今度の日曜は、蘭と2人で海にでも行って告白しようと思ってたのに・
・・。くそォ!
コナンから新一の姿に戻って2ヶ月。やっと元の姿に戻ることが出来たっていうのに、なぜか蘭と2
人きりになろうと思うと邪魔が入り、告白できずにいた。
―――まあ、事件ってーと、そっちにかかりっきりになっちまう俺もワリーんだけど・・・。
そして、その日もやはり目暮警部に呼び出され、蘭のことを気にしつつ学校を後にする新一だった・
・・。
それから、事件がようやく解決したのが土曜日の夜。思いの外時間がかかってしまい、さすがに新一
も疲れていた。
―――あ―、蘭に会いて―。蘭の声が聞きて―・・・。けど、もう夜中だしな・・・。そういや明日
は園子と映画見に行くっつってたよな。ってことは、また蘭に告白できねー。くっそー、告白できなく
ってもとりあえず会いて―よ・・・蘭・・・。
そんなことを思いながら新一は眠りに落ちていった・・・。
そして翌日。疲れていたにもかかわらず、8時に目が覚めた新一。原因は、いやな夢を見た所為で・・・。
―――最悪な夢・・・。何で園子が男になってて、蘭と付き合ってんだよ。蘭の奴、うっとりした目
で園子を見やがって・・・。
夢の中の2人に腹を立てつつ、新一は起き上がると決心した。
―――ゼッテ―邪魔してやる!蘭は俺のもんだっ。
さっさと着替え身支度を終えると、家を出て蘭の家へと向かったのだった。
「あれえ?新一?どうしたの?」
蘭はもうすっかり身支度を終えていた。
赤いカットソーにデニムのスカートというシンプルだが、スタイルの良い蘭には良く似合っていた。
大きく開いた胸元と、すらりと伸びたきれいな足に思わず目を奪われる。
「―――オメエ、その格好で行くのか?」
「え?うん。変?」
「変じゃねーけど・・・」
「で、新一はどうしたの?」
「―――俺も行く」
「え?だって―――」
「後ろからついてくから。んで、映画終わるまで外で待ってる」
いつになくムキになっている新一に、蘭は目をぱちくりさせていた・・・。
「ちょっとォ、なんで新一くんが来るのよォ」
駅で待っていた園子は、新一を見た途端仏頂面でそう言った。
「っるせーな。いいじゃねーかよ」
「今日はね、珍しく時間あるみたいなの。ダメかな?園子」
蘭が伺うように園子を見る。蘭には弱い園子。ハアッと溜息をつくと、
「・・・しょうがないわね。いいわよ、じゃあ」
と言った。
「ホント?ありがとう、園子」
ぱあっと嬉しそうに笑う蘭に見惚れる2人。
「・・・やっぱあんたにゃもったいないわ」
ボソッと呟く園子を、ジロッと睨む新一。
「さ、行こう蘭」
さっさと蘭の腕を取り先に行く園子。新一は何も言わず、その後をついていった。こうやって後ろに
ついて歩くのも、全く意味がないわけではない。その辺のナンパ野郎が近づこうとすると、新一が後ろ
から“近づくんじゃね―”という怒りのオーラを発し、ナンパ男をけん制しているのだ。その甲斐あっ
て、1度もナンパされることなく映画館にたどり着いたのだった。
「ね、新一、せっかくだからいっしょに見ない?」
と、蘭が新一に言う。園子が伺うようにジロッと新一を見ていた。
「いや、俺昨日あんま寝てねーし、また寝ちまうと思うから外にいるよ。映画終わったころにまた来る
からよ」
と、新一が穏やかに言った。
「そォ?じゃ、行って来るけど・・・」
「ああ、行ってこいよ」
いやに期限の良い新一に、怪訝な顔をする園子。
「な―んか企んでない?新一君」
「何の事だよ?別に何も企んでねーぜ」
「―――ふーん・・・。ま、いいわ。蘭、行きましょ」
2人が映画館の中に入っていくのを見送ってから、新一は近くのデパートへ入って行った。もちろん、
新一が映画を見ずに残ったのも考えあっての事。もうこうなったら、絶対今日中に告白してやろう、とい
う気になっていた。告白して、付き合ってしまえば園子も今までのように邪魔したりしないだろう・・・
多分。
「―――な―んか怪しいなァ」
パンフレットとジュースを買い、2人で席に落ち着くと園子が言い出した。
「え?何が?」
「あやつよ。あれはぜーっったい何か企んでるわよ」
「新一のこと?そんなこと、ないと思うけどなあ・・・。園子の考えすぎだよ」
「甘い!蘭ってば甘やかしすぎよ!」
「そ、そんなこと・・・」
「大体、今まで散々蘭を悲しませてきたんだから、もうちょっと痛い目見たっていいのよ」
「園子ってば・・・。私、もう平気よ?新一だって、きっとすごく辛かった筈だもん。それでも、わた
しのそばにいてくれた。わたしの元に帰って来てくれた。それだけで充分だよ」
そう言って蘭はきれいに、暗い中でも輝くように、本当にきれいに微笑んだのだ。園子はホウッと溜
息をつくと、
「―――ま、あんたがそう思ってんなら仕方ないけどさ・・・。ホント、あやつは幸せモノよね」
と言ったのだった。
本当は蘭の気持ちは痛いほど分かっていた。でも、蘭の親友として新一がいなかった間、どんなに蘭
が新一に会いたがっていたか、その気持ちを隠して耐えていたか、それを知っているだけにあっさりと
新一が蘭とくっついてしまうのが、許せなかったのだ。
2人が映画を見終わり、外に出るとさっき別れた時と同じ場所に、新一は立っていた。
「新一、お待たせ」
「よお、面白かったか?映画」
「うん、とっても。新一は?何してたの?」
「俺はその辺ぶらぶらしてたよ。で?この後どうするんだ?」
「この後はお昼ごはん食べに行って、それから買い物!実は今日、わたしの好きなブランドショップで
バーゲンやってるのよ。で、それに行くのよね?蘭」
「うん」
「ふーん。じゃ、俺も付き合うよ」
新一はニッと笑うと、また2人の後について歩き出した。その間にも、ナンパ男たちを威嚇しながら
・・・。
―――ふん、見てろよ、園子。今日はゼッテ―蘭から離れね―からな。
実は今日は、新一の携帯電話の電源は切られていたのだ。今日は、何が何でも告白して蘭と恋人同士
になるために・・・。
その後3人はパスタレストランに入り、昼食を食べてから、園子のお気に入りのブランドショップへ
と向かった。店内で2人が買い物をしている間、また新一は外で待っていた。店はガラス張りになって
いるので、中の様子は良く見えた。
園子が、あれもこれも手に取り、試着しては戻したり、悩んだりしている。
―――忙しい女だな。
蘭はというと、やはり何着か手にとって見ては、よく見比べ悩んで戻したり、また手に取ったりとや
っている。
―――・・・可愛いなあ、やっぱ・・・。
眉間に皺を寄せて悩んでいる姿も、新一から見れば可愛くて仕方がないのだ。
園子がなにやら手に持って、蘭の側にやって来た。蘭にそれを渡し、試着室を指差す。どうやら何か
試着させようとしているらしいが・・・。園子のニヤニヤした顔に、新一は何かいやな予感がしていた。
しばらくして、試着室から蘭が顔を覗かせる。なんだか頬を赤らめ、困ったような顔をして・・・。
―――なんだ?
新一が不思議に思って見ていると、園子が無理やり試着室の扉を大きく開け放った。
―――!!な・・・なんだありゃあ!
新一は思わず目をむいた。
蘭が着ていたのは黒い光沢のあるワンピースで・・・。ハイネックだが、胸の谷間のところが大きく
丸く切り抜かれたようなデザインで、裾にはかなり深くスリットが入っている。
シンプルだが、かなり大胆なそれを着た蘭は、超絶に色っぽく・・・。
新一はぽかんと口を開けたまま、しばらく動くことが出来ずにいた。
ふと、蘭がこちらを見た。新一ははっと我に返る。園子もこちらを見てニヤニヤしている。気付くと
、通りすがりの男たちの何人かが、足を止めて蘭の姿に見惚れていた。
新一は慌てて店に入り、急いで試着室の扉を半分ほど閉めた。
「し、新一?」
「ちょっとォ、何すんの、新一君」
「バーロー、オメエ何考えてんだ、こんなもん蘭に着せやがって」
「あら、似合ってたじゃない。蘭ってスタイル良いからさあ、こういうの似合うのよね。どう?今度あ
れ着てうちのパーティ出ない?」
「え・・・」
「ぜっっったいダメだ!!」
新一の剣幕に、園子は仕方ないといった感じで肩を竦める。
「分かったわよォ。良いと思ったんだけどなあ。パーティの華になること間違い無しなのに」
「るせー。蘭、着替えろよ」
「あ、うん」
蘭は試着室のドアを閉めると、自分の服に着替え、出てきた。
「―――あーあ、もったいない」
と、園子はまだぶつぶつ言っている。
「あんな大人っぽいの、まだわたしには早いよ」
と、蘭は苦笑いしている。
―――すげー似合ってたけど・・・あんなもん着た蘭、もったいなくって人前になんか出せねーよ・・・。
「で?何にするかまだ決まんねーのか?」
と新一が聞くと、蘭は
「あ、あのね、良いなあと思ったのはあるんだけど、迷ってて・・・」
と言いながら、たくさん並んでいる服の中から、赤いワンピースを2着持ってきた。
「この2つね、色は同じなんだけど、デザインがちょっとちがくて・・・。ね、どっちが良いかなあ?」
蘭が持ってきたのは、1つはボートネックにノ―スリーブの特に飾りのないシンプルなもの。ミニ丈
で、ちょっとボディコンシャスなデザインだ。もう1つはキャミソール風のワンピースで、胸の部分の
切り替えでギャザーが寄せてあり、その真ん中に白いリボン。そしてミニ丈の裾には白いレースがあし
らわれた可愛いデザイン。
「なんか、色は同じでも、タイプが全然ちがくないか?」
「うん、そうなの。どっちも良いんだよね。こっちはシンプルで大人っぽいし、こっちは可愛くって・
・・。どっちにしよう?」
真剣に悩むその姿が可愛くて、新一はクスッと笑った。
「もうっ、笑ってないで新一も考えてよー」
「どっちも似合うと思うぜ」
「え・・・」
パッと蘭の頬が赤く染まる。
「バーゲンなんだろ?2つとも買っちまえば良いじゃねーか」
「そーよ、蘭!買っちゃえ、買っちゃえ!」
「でも・・・」
新一は、まだ悩んでいる蘭の手から片方のワンピースをひょいと取り上げると、さっさとレジの方へ
と歩いていく。
「え?ちょ、ちょっと新一?待ってよ」
「こっちは俺が買ってやるよ」
「ええ?そんなの、悪いよ」
蘭が驚いて目を見開く。
「良いんだよ。いつも俺、約束ドタキャンしちまってるからな。これはそのお詫び―――。すいません
、これください」
新一は、蘭が止めるのを無視して、さっさと会計を済ましてしまった。
「ほら、オメエも買えよ」
「あ、う、うん」
新一に急かされ、蘭はもう1つのワンピースをレジに出した。
―――ホントは両方買ってやっても良かったんだけど・・・それじゃ、こいつが気にしそうだしな・
・・。
「ドタキャンのお詫びねェ・・・。それならもう2,3着買ってもらっても良さそうだけど」
と、園子が横で呟いた。
「―――蘭が気にすんだろ?蘭がよけりゃ、いくらでも買ってやるよ」
「ふふん、大きく出たわね。さてはこのままピッタリついて回って、わたしと別れたら速告白、なんて
考えてない?」
ニヤッと笑って園子が言う。一瞬ドキッとした新一だが、そこは得意のポーカーフェイスで乗り切る。
「んなこと考えてね―よ。せっかくの休みだし、呼び出しもないから付き合ってるだけだよ」
「ふーん・・・?」
探るような目つきで、じっと新一を見ている園子。そこへ、会計を済ませた蘭がやって来た。
「ねェ、園子は何買うか決まったの?」
「それがさ〜、いまいち気に入ったのがなくって・・・。来週新作が出るのよね。そのときまた来よう
かなって」
「そうなんだ」
「んじゃ、行こうぜ。この中、人が多くてかなわね―よ」
と新一が言って、さっさと店を出て行く。
「な〜によ、勝手に入ってきたくせに」
新一に聞こえないよう、ボソッと言った園子の言葉に、蘭は苦笑いしながら店を出た。
「んで?これからどうすんだ?」
「そ〜ね〜。あ、そういやこの近くにおいしいケーキ屋さんが出来たのよね。行ってみない?」
と園子が言うと、甘いものが苦手な新一が、思わず顔を顰める。
「ケーキ〜?」
「あら、行きたくなければ別に帰っても良いのよ、新一くん?」
「園子ってば・・・。でも、どうする?新一」
「―――行くよ。甘さ控えめなやつとかあんだろ?」
「そうだね、多分。じゃ、3人でいこ」
園子と新一の水面下の攻防戦に全く気付かない蘭。ニコニコ嬉しそうに笑いながら先に立って歩き出
す。
「今日はずいぶんご機嫌ね、蘭。」
「ん?だって・・・3人で出かけるのなんか久しぶりでしょ?なんか嬉しくって・・・。ね、また今度
3人でトロピカルランド行こうよ」
素直な蘭の笑顔に、2人はちょっと顔を見合わせ・・・。
「そうね」
「ああ、いいよ」
と、ともにニッコリ笑って頷いた。
―――蘭には、敵わない・・・。
お互い、そんな気持ちで。
それから3人は、ケーキ屋さんでケーキを食べ(ちなみに園子が3個、蘭が2個、新一がかろうじて
1個食べた)、その後は本屋、雑貨や、ゲームセンターなどを渡り歩き、気がつくと外はもう暗くなっ
ていた。
「あ〜あ、もう1日が終わっちゃう。早いなあ。休みの日が終わるのは」
と、園子がしみじみと言ったとき、園子のバッグで、携帯電話の音が鳴り出した。
「―――は〜い。―――あ、お母様・・・。え?―――え〜?これから〜?―――は〜い、分かりまし
た」
「どうしたの?園子」
「なんか、急にお客様が見えて・・・これから外へ食事しに行くから、すぐに帰って来いって」
「あ、そうなんだ」
「ごめんね、蘭。夕食も一緒したかったのに・・・」
「仕方ないよ。気をつけて帰ってね」
園子は、思いっきり後ろ髪をひかれながらも、通りでタクシーを止めると、乗り込んでいってしまっ
た。園子に手を振る蘭の後ろで、新一はポーカーフェイスを保ちながらも、心の中で小さくガッツポー
ズを決めた。
―――おっしゃあ、これで邪魔者はいなくなったぜ!チャーンス!
「ねェ、新一、これからどうする?どこかで食べてく?それとも帰る?」
蘭が新一に言う。
「え?ああ、そうだな。どっちでも良いぜ。蘭はどっちが良い?」
「うーん・・・。じゃあ、帰ろうか。新一の家で、何か作るよ。こないだ行った時、冷凍庫に鶏肉があ
ったし」
「でも、疲れてねーか?良いんだぜ、外で食ってっても」
「新一がそうしたいならそうするけど・・・。疲れてるのは新一もでしょ?」
と、蘭がニッコリ笑う。そんな蘭の優しさが嬉しくて、新一も笑った。
「―――サンキュ。じゃ、帰るか」
「うん」
2人は、仲良く肩を並べて歩き出した。
新一の家につき、蘭が作ったからあげとスープを2人で食べる。
「味、どう?急いで作ったから、いつもと違うかな」
蘭が心配そうに新一に聞くが、新一はから揚げをほおばりながら、
「うまいよ!いつもとおんなじ。オメエの作る料理はホント、うめ―よ」
と、笑顔で言う。蘭は少し照れながらも嬉しそうに笑った。
夕食を食べ終わり2人で片付けをした後、コーヒーを入れ、リビングで寛ぐ。
「今日は、楽しかったね」
と、蘭がコーヒーを一口飲んで言った。
「ああ、そうだな。―――蘭、あのさ」
「なあに?」
急に真剣な口調になった新一を、蘭が不思議そうな顔で見る。
「俺―――ずっとオメエに言いたかったことがあるんだけど・・・」
「うん?」
「俺は―――オメエが、好きだ」
蘭の瞳が、大きく見開かれる。
―――やっと言えたぜ!
「好きだよ、蘭。世界中の誰よりも、オメエのことが―――」
真っ直ぐに、蘭の瞳を見つめる。蘭は、目を見開いたまま、固まってしまっている。
そうしてどのくらい時間がたったか・・・。とうとう痺れを切らした新一が、口を開く。
「蘭?聞いてっか?」
「―――へ?あ、あ、うん、あの」
漸く我に帰った蘭の顔が、見る間に真っ赤に染まる。
「蘭―――返事が、聞きてえんだけど?」
新一が、優しく促す。
蘭は、真っ赤になりながらも、その口を開いた。
「わ、わたしも・・・わたしも、好きだよ。新一が・・・大好き・・・」
言った瞬間、蘭の大きな瞳から、涙が零れ落ちた。
「ら、蘭?」
新一が慌てて蘭の隣に来て座る。
「おい、泣くなよ」
優しく肩を抱いてやると、蘭は涙をぬぐいながら、新一を上目遣いで見つめた。
新一の胸がどきんと音を立てる。
「だって、嬉しいんだもん・・・。新一は、わたしのこと幼馴染としか思ってないんだと思ってたから
・・・」
「バ、バーロ、そんなわけねーだろ?好きでもねーやつに“待ってて欲しい”なんていわねーよ」
「だって・・・戻ってきてからだって、何も言ってくれなかったし・・・」
「そ、それは・・・俺だって言いたかったんだけど、なんかタイミング逃しちまってて・・・。大体、
2人きりになれること、あんましなかっただろ?学校じゃ園子がいつもそばにいたしよ」
「―――そうだっけ?」
「そーだよ!・・・ま、俺が事件で呼び出されて行っちまうからってのもあるけどよ」
と新一が言うと、蘭はクスッと笑って、
「そっちのほうが多かった気がするけど?」
と言った。
「う・・・。―――ごめんな、待たせて」
「ううん。すごく嬉しいよ。新一がそう言ってくれて」
蘭が優しく、花開くように笑う―――。
「蘭・・・」
新一の顔が、そっと近づいて・・・蘭も目を閉じ、2人の唇が触れようとした、その瞬間―――
『Prurururururu・・・』
まるで狙いすましたかのように、電話が鳴り出した。
蘭が、パッと体を離す。
―――!んだよ!良いとこだったのに!
一気に最悪な気分になった新一は、大股に歩いて行くと、乱暴に電話の受話器を取った。
「―――はい」
思いっきり不機嫌な声で電話に出る。
『あら、やっぱり家に帰ってたのね?蘭も一緒?』
と言ったのは、園子だった。
「―――オメエな・・・」
『で?告白は出来たの?』
「余計なお世話だよ!他に用がねえなら切るぞ?」
『何よお、せっかく2人きりにしてやったのに。告白したの?してないの?』
「―――したよ」
『―――な―んだ、しちゃったのか。つまんない。せっかく電話で邪魔してやろうと思ったのに。1歩
遅かったか』
―――充分邪魔してんだよ!!
「で?用はそれだけかよ?」
『あん、そう邪険にしないでよ。これでもわたし、心配してんだからね。蘭の親友として』
「そうかよ」
『今まで散々待たせたんだから、蘭のこと大事にしてやってよね』
新一は、その声にハッとした。今までのからかうような口調とは違う、本当に蘭を心配している園子
の声に・・・。
「―――ああ、分かってるよ」
『本当でしょうね?もしまた蘭を泣かせるようなことしたら、わたしが蘭を貰いますからね!』
「オメーな・・・」
『約束、してよね?絶対泣かさないって』
「ああ、ゼッテ―泣かさね―よ」
『じゃ、蘭に代わってくれる?』
「へ?あ、ああ」
新一は、蘭に受話器を差し出した。
「園子から」
「え?園子?」
蘭が不思議そうな顔をして、受話器を受け取った。
「もしもし、園子?―――うん―――うん―――ありがとう。―――え?どうして?―――でも、そん
な―――うん―――分かった、じゃあ、そうする―――うん、じゃ、また明日」
電話を切ると、蘭はちょっと考えるようなそぶりを見せてから、新一を振り返った。
「?園子の奴、なんだって?」
蘭の様子を不思議に思いながらも新一が聞く。
「うん、新一とうまくいって良かったねって。それから―――」
「それから?」
「あの、ね・・・今日はもう帰りなさいって・・・」
言いづらそうにそう言う蘭。
「な、なんだよ?それ!」
「その・・・あんまり2人でいると、新一が我慢できなくなるだろうからって・・・どういう意味かわ
かんないんだけど、わたしのためだからって・・・」
――――ああああんのあま〜〜〜っ余計なこと言いやがって・・・!!
怒りのあまりフルフルと震えだした新一に、ただごとでないことを感じ取ったのか、蘭は、そろそろ
と後ずさりながら、
「え、と、じゃあわたし、帰るね。もう遅いし・・・お父さんも心配するから・・・」
と言って、ソファに置いてあったバッグを取り、出口に向かおうとした。
「―――待てよ」
新一の低い声に、思わずビクッとして立ち止まる。
「な、何・・・?」
新一は、蘭に背を向けたまま1つ大きく溜息をつくと、
「送ってくよ」
と言って、振り向いた。蘭はちょっとホッとして、ニッコリ笑うと、
「うん。ありがとう」
と言った。新一は部屋の隅に置いてあった、今日買った蘭の服を手に取ると玄関に向かった。
「どうしたの?新一。さっきから溜息ばっかり」
蘭は、帰り道、口数が少ない新一を心配して言った。
「―――前途多難だな、と思ってさ」
「?何が?」
「きっと、これからも園子の奴がいろいろオメエの心配して俺たちにくっついて来るんだろうな、と思
ってよ」
と新一が言うと、蘭は嬉しそうに笑って、
「園子、本当に心配してくれてるんだよね。わたしって、良い友達もって幸せだよね」
「はは・・・そだな」
新一は、引きつったような笑顔を浮かべて言った。
「園子がいてくれたから、わたしは学校でも元気でいられたんだもん。感謝してるの。本当に」
新一は、蘭の顔を見つめた。
「新一がいて、園子がいて・・・素敵な友達と・・・素敵な恋人に会えて、すっごく幸せ」
頬を赤く染めて、恥ずかしそうに呟く蘭。新一はそんな蘭が愛しくて・・・
―――園子がいるから、蘭が元気でいられるってのは事実だしな・・・。ま、多少のことは目ェ瞑っ
てやるか・・・。
そう思うことにして、愛しい恋人の肩を抱いて、幸せをかみ締めながら歩くのだった・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この作品は、わたしの探していた小説を探してくださったミント様のリクエストによる作品です。
ちょっと書いたことのない組み合わせで、”できるかな?”って感じで始めたんですけど・・・何とか
出来上がりました!イメージと違っていたらごめんなさい〜。
園子は私も好きなキャラなので、またそのうち機会があれば書いてみたいです。
それでは!
おまけ、つくりました。
