***あなたのとなりで vol.3 〜総つく〜***



 
 扉が開く、と思った瞬間だった。

 突然手をつかまれ、ぐいっと引き寄せられた。
「わっ!?」
 思わずよろけ、気づけば丈三君に抱きしめられているような格好に。

 「つくし?お前何して―――」
 入ってきた西門さんの動きが、ぴたりと止まる。
「丈三―――てめえどういうつもりだ」
 西門さんの凄味の利いた言葉にも、丈三君はにやにやと笑みを崩さない。
「つくしさんが今朝のこと気にしてたみたいだから、心配ないって話してただけ」
「だったら、そこまで密着する必要ねえだろ」
 そう言って、西門さんがあたしの腕をぐっと引っ張った。
「つくしに触るな」
「こえーな。言われなくっても兄貴の嫁さんに手ぇ出したりしないって。けど兄貴もよく見てた方がいいぜ。つくしさん、俺に対する警戒心ってないみたいだから。少なくとも間違って俺の部屋に入ったりすると今度は何があるかわからないぜ」
 その不敵な笑みに。
 西門さんは今にもブチ切れそうだ。
「た、丈三君!」
「つくしさんも、これでわかったでしょ?こんなにつくしさんに惚れてんのに、俺の彼女なんかに手ぇ出すわけないって」
 その言葉に、思わず頬が熱くなり・・・・・
 西門さんを見上げてみれば、こちらもなんとなくバツが悪そうな顔であたしを見つめていたのだった・・・・・。


 「ったく・・・・・丈三のやつにしてやられるとはな」
 夜、家への帰り道を2人並んで歩きながら、西門さんが溜め息とともに呟いた。
「ごめん、ついぼーっとして・・・・・あたしが部屋を間違えたから」
「それだ。あいつは俺よりも女に手ぇ早いからな、気をつけろ」
「西門さんより・・・・・って相当だね」
「お前、それどういう意味」
 じろりと睨まれ。
 思わずぶっと吹き出す。
 それを見て、西門さんも苦笑する。
「俺も、悪かった。普段ならちょっとした物音でも目が覚める方なんだけど・・・・・」
「しょうがないよ。本当に忙しいから。結婚がこんなに大変だって思わなかった」
「ああ、けど…・・それでも俺はお前と結婚できるならどんなことでもできるって思えるよ」
「西門さん・・・・・」
 そこで、ふっと息を吐く西門さん。
「お前、そろそろそれやめろよ。来週には夫婦になるのに『西門さん』って」
「あ・・・・・」
「総でいいって言ってんのに」
「だって、慣れないし・・・・・」
「これから慣れればいいだろ?丈三の事は名前で呼ぶくせに」
 見上げれば、微かに拗ねたような瞳。
「・・・・・じゃあ、今度からそうって呼べるように頑張る。その代わり、約束して?」
「なにを?」
「・・・・・浮気、しないって」
 あたしの言葉に、目を丸くする西門さん・・・・・じゃなくて、総。
「今朝のこと、すごくショックだった。結婚は大変だなって、これから先やってけるのかなってすごく不安はあったけど、それでもあたしは総と一緒なら頑張れるって、だから早く一緒になりたいって思ってたのに。やっぱりあたしじゃ認めてもらえないのかって、そう思ったら悲しくて・・・・・。それに、丈三君の彼女の話も、疑うわけじゃないけど、やっぱり嫌だよ。たとえ間違いでも・・・・・総の隣には、いつでもあたしがいたい。他の人に・・・・・その場所だけは、譲れないの。だから総も、約束して。総の隣を、あたしにとっといてくれるって」
 一気にそう言ってしまってから、あたしは総の目が見れずに俯いた。

 恥ずかしくて、顔から火が出そうだった。

 普段なら、思っていてもなかなか言えないこと。

 きっと、これから先も面と向かって言うことなんかないだろう。

 でも、結婚前の今だからこそ、言っておきたかった・・・・・。

 「こっち向けよ、つくし」
 優しい声が降ってくる。
「やだ、無理。あたし今真赤だよ」
「かまわない」
「あたしがかまうの。恥ずかしいんだから」  

 その瞬間。  

 繋いでいた手をぐいっと引っ張られ、あたしは転びそうになる。
「わっ、ちょっと!」
 その拍子に、パッと顔をあげると目の前には優しい笑みを浮かべた総。
「よかった」
「―――何が」
「お前も、やきもちとか妬いたりするんだと思って」
「何よそれ」
「いつも俺ばっかり妬いてる気がしてたから。ちょっとホッとした。けど、そんな心配いらねえよ。おれにはお前だけ。ずっと・・・・・・。じゃなかったら、結婚したいなんて思わない」
「うん・・・・・」
「それから、お前のこともちゃんと信じてる。だけど、お前とおんなじで、俺もお前と他の奴が一緒にいるとこは見たくねえ。だから・・・・・もう部屋間違えたりすんなよ」
 その言葉に、思わず笑みが浮かぶ。
「うん」
「約束・・・・・俺は絶対、守るから」
「うん、あたしも」

 そうして、自然に唇が重なる。

 約束のキス。

 いつでも、あなたの隣には、あたしがいられますように・・・・・



                               fin.







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