-rui-
「つくし、優のおむつ変えたよ」 快斗におっぱいを上げながらベッドでうとうとし始めていたつくしに声をかける。 俺の声にはっとしたように目を開けるつくし。 「あ、ありがと。快、寝ちゃってる・・・・・。このまま寝ててくれるかな」 そういいながら、ベビーベッドまでそっと快斗を連れて行き、横たえる―――と、途端に目を開き、ぐずり始める快斗。 「うあ、ダメか。よーしよし、いい子ね〜」 「つくし、快は任せて、優におっぱい上げてよ。こっちもぐずり出しそう」 「わかった。じゃ、こっちよろしく」 そう言ってつくしは再びベッドに快斗を置き、俺の腕から優斗を受けとる。 「優はおとなしいよね〜」 「一卵性なのに、やっぱり性格は違うんだな。そういえば、あきらと総二郎ももうこの2人を完璧に見分けてたな」 「あ〜、そうだね」 双子は、幸運にも何の異常も見られず、体重も順調に増え、出産から10日後には無事母子揃って退院することが出来た。
その日にあわせて帰国した両親が、双子を離そうとせず、あの父親までがおむつ換えなんてものをやりだしたから、さすがに俺も驚いた。 無理やり仕事を調整してきたので、翌日の夜には日本を発たなければならず、残念そうに家を出たが・・・・・『来週も、絶対に会いに来るから』『つくしさん、無理しないで使用人に任せられることは任せてしまいなさい。気を張りすぎると体によくないわ』と言い残していくことを忘れなかった。
それからは毎日あきらと総二郎が顔を見せ、俺がいない間にも双子のおむつを変えたり、ミルクを作ったりというようなことを進んでやってくれるようで、つくしはとても助かっているようだった。 それについては俺も助かるし、夜、3時間おきにおっぱいを欲しがって泣く双子たちを目の当たりにすると、やはり子育ては大変なものだと実感せざるを得なかった・・・・・。
それでもつくしはなるべく使用人に頼らず、自分で何でもやろうとしてしまうところがあるから、そのたびに俺はつくしに言い聞かせていた。 「頼れるところは頼りな。双子なんだし、ここでつくしが倒れたりする方が子供にとっては不幸だよ。無理したって、いいことない。せっかく使用人がいるんだから、使ってやって」 その言葉に、つくしもちょっと照れたように笑った。 「うん、そうだね。つい、なんでも自分でやりたくなっちゃって・・・・・。悪いくせだよね。美作さんたちにも言われた。そうやってなんでも自分でやっちゃってたら使用人たちの立場がないって。ちゃんと仕事させてやれって」
漸く静かな寝息をたて始めた双子の姿を覗き込んで、2人方を寄せ合う。 「かわいい」 「うん」 「寝顔は天使だね」 「ほんと」 くすくすと、2人で笑い合う。 2人きりのときとはまた違う幸福感。 2人一緒に泣き出したり、同時におむつを汚したりしたときには笑ってなんかいられない状況にもなったりするけれど・・・・・ こうしてかわいらしい寝顔を見ていると、やっぱりこれ以上の幸せはないと思えてくる。 つくしと、俺の大事な宝物・・・・・。
-tsukushi- 「西門さん、いらっしゃい」 昼間、家に顔を出してくれた西門さん。 大学にも通う傍ら、時間のあるときは必ずうちに来てくれる。 「よ。あれ、双子寝てるのか?」 「ん。今寝たとこなの。コーヒー入れるよ」 小声でそう声をかけると、おもむろに肩を引き寄せられる。 「コーヒーも良いけど・・・・・。久しぶりに2人きりなんだから、もっと他のことがしてえな」 そう耳元で囁かれ、どきんと胸が鳴る。 「な、何言ってるの」 慌てて体を離そうとするあたしを見て、くすりと笑う。 「相変わらずかわいいやつ。そういう顔見せられると、キスしたくなるんだけど?」 そう言って顔を寄せてくる西門さん。 「ちょ、ちょっと―――」 もう少しで唇が触れそうになったとき――― 「何してんだよ!」 後ろからべりっと引き剥がされ、割って入ってきたのは美作さんだった。 「チッ、もう少しだったのに」 おもしろくなさそうに文句を言う西門さん。 美作さんは呆れたように西門さんを睨みつけた。 「バーカ。俺の目の前でさせるかっつーの。それよか、ここでしゃべってたら双子が起きちまう。向こうでコーヒー飲もうぜ」 それにはあたしたちも頷き、そっとその場を後にしたのだった・・・・・。
「つくし、ちゃんと寝れてるか?」 美作さんの言葉に頷く。 「うん、最近漸く夜も続けて寝てくれるようになって・・・・・。1ヶ月検診でも何も異常なかったし、ちょっとほっとしてるとこ」 「そうか。よかったな。ところで大学・・・・・。来年から復学か?」 大学復学は来年4月から。 そう予定していた。 「うん。なるべくなら普通に卒業したくて・・・・・。でもやっぱり単位足りないかな」 「夏休みを利用すれば何とかなるかも知れねえけど、無理はするなよ。類の親も、その辺は理解してくれてんだろ?」 西門さんが真剣な顔で言う。 「うん」 「大学の勉強も大切だけど、子供との時間も大切にしろってさ」 突然部屋の入り口の方で声がして振り向くと、類がコーヒーカップを手に入ってくるところだった。 「類!お帰りなさい」 「ただいま」 にっこりと微笑み、あたしの隣に座る。 「赤ちゃんの時期ってのは、親は大変だけど、あっという間に過ぎていくもんだから・・・・・今しかない時間を、無駄にするなって。大学へは、いつでも通える。後悔するようなことはしてくれるなって。経験者は語るってやつじゃない?」 類の言葉に、美作さんと西門さんも頷いた。 「そうだな。やろうと思えば勉強なんてどこでもできるわけだし。つくしは焦らず、マイペースでやれば良いんじゃねえ?」 「だよな。俺たちも協力するし。言っとくけど、お前らだけの天使だと思うなよ?あの双子が大きくなったら、ぜってえパパって呼ばせてやる」 にやりと笑う西門さんに、類は渋い顔をする。 「やめてよ、大きくなったとき『本当のパパは誰?』とか子供たちに聞かれたくない」 類の言葉に思わず噴出す。 「つくし」 「ごめん、だって・・・・・。本当に言いそうだと思って。でも、良いんじゃない?3人もパパがいるなんてすごい幸せものかも」 「だろ?それにきっと、司も入りたがるぜ。あいつ、子供みてえなとこがあるから意外といい遊び相手になるかもな」 西門さんの言葉に、美作さんが笑う。 「子供みたい、じゃなくてあいつは子供だよ。きっとあいつはパパってより同等・・・・・『司』って呼び捨てにされそうだな」 その言葉にみんなで笑い・・・・・ 「そんなふうにずっと・・・・・みんなと一緒にいられると良いな・・・・・」 ふと零したあたしの言葉に、3人があたしを優しい眼差しで見つめる。 「いるよ、ずっと」 「ああ、離れたくないのはこっちの方だぜ」 「頼まれたって、離れてやんねえよ。お前と・・・・・あの双子たちは、俺らの天使だからな・・・・・」
いつものように優しく微笑んでくれる人たち。 でも、いつもよりももっと優しく感じるのはきっと、新たに誕生した命が、とても愛しいものだから・・・・・。 新しく芽生えた愛情が、きっとあたしたちを優しくさせてる。 そしてこれからも、あたしたちをずっと繋いでいってくれる。 そんな気がした・・・・・。
fin.
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