*このお話は、「傍にいて」から続くお話になります。
こちらのお話だけでもお読みいただけますが、より詳しい内容をお知りになりたい場合は、「傍にいて」からお読みくださいませ♪
-soujirou-
その日俺は、待ち合わせの場所になかなか現われない牧野をちょっといらいらしながら待っていた。
なぜいらいらしているのかといえば、大学の講義もない今日、映画でも見に行こうと誘った俺に対し、あいつの答えは
「あ、その日類からフランスの本借りることになってるの。類のとこ寄ってから行くね」
というもので・・・・・。
ガキっぽいと思ってもあの2人の関係に嫉妬してしまうのは仕方がない。
で、10時に約束したはずなのに、10時半になってもまだ来なくて。
電話しようかと思ったのだが、もしまだ傍に類がいたらと思うと、それも躊躇われた。
でもさすがに遅すぎると思い携帯を手にしたとき、ちょうど着信音が鳴り始め、俺は電話に出た。
「もしもし」
『総二郎?』
「類?何だよ、牧野は?」
まさか、まだ一緒なのかと疑惑が頭をもたげる。
『―――すぐ、○○病院に来て』
真剣な類の声に、緊張が走る。
「なにか―――あったのか?」
『―――牧野が、襲われた』
考える間もなく、俺は走り出していた。
病院に着くと、受付で類が俺を待っていた。
「どういうことなんだ?」
勢い込んで聞く俺を、類は手で制し受付の前の椅子に座るように促した。
「―――病院から、俺の携帯に連絡があったんだ。たぶん、今朝牧野が俺に電話してきたときの履歴があって、それで俺にかけたんだと思うよ」
「で・・・・牧野は誰に?」
「それが、よくわからないらしい。俺の家を出たのが9時半ごろなんだけど・・・・・病院に運ばれたのが10時10分頃らしい。その40分の間に何があったのか・・・・・。牧野は、俺の家から駅に行くまでの途中の公園で倒れてたらしい。頭に、殴打された痕があったって」
「くそ・・・・・それで、今牧野は?」
「検査してるよ。何しろやられたのが頭だからね。ちゃんと精密検査しないと・・・・・」
「牧野と、話したのか?」
「いや・・・・・あ、あれ―――」
類が俺の後ろ側に視線を移し、俺もそっちのほうを見る。
エレベーターから、数人の医師や看護婦と一緒に牧野の乗ったベッドが運ばれてくるところだった。
「牧野!」
思わず駆け寄ると、牧野についていた看護婦の1人が俺を止めた。
「お知り合いですか?」
「そうです。どうなんですか?牧野は」
「検査の結果が出ないとわかりません。まだ意識が戻りませんので、お部屋のほうでお待ちください」
「総二郎、こっち」
類に腕を取られ、俺は類と一緒に牧野の病室へと向かった・・・・・。
類から連絡を受けた牧野の家族が駆けつけ、身の回りのものを置いていった。
ついていたいけれど仕事を休めないというので、後を俺が引き受けた。
その後、あきらもやってきたが、それでも牧野はまだ目を覚まさなかった。
「なあ、検査では頭の傷以外に異常は見つからなかったんだろう?何でまだ目を覚まさねえんだ?」
あきらが訝しげに首を傾げる。
「寝てるだけかもよ?ここのところバイトで忙しそうだったし」
類の言葉に、俺も頷いた。
「かもな。でも、それだったらゆっくりここで休ませたほうがいいって気がする。こいつはいつも無理しすぎるから」
そのときだった。
牧野の瞼が小さく震えたかと思うと、ゆっくり開いたのだった・・・・・。
「牧野」
俺の声に、ゆっくり視線をこちらに向ける牧野。
少し青白い顔色はしているものの、意識はしっかりしているように見えた。
「牧野、大丈夫?」
「襲ったやつのこと覚えてるか?」
類とあきらが寄ってくると、牧野が2人を見上げた。
「花沢類、美作さん・・・・・ここは?」
「病院だよ。頭を誰かに殴られたって。覚えてるか?」
そう聞いた俺を、戸惑ったように見つめる牧野。
「牧野?」
何かが、変だった。
確かに牧野は俺を見ているのに、その瞳は戸惑いに揺れ、まるで初めて見る人間を見ているようで・・・・・
「おい、牧野・・・・・?」
「・・・・・あなた、誰・・・・・?」
不安に揺れる牧野の瞳に、初めて見る俺の姿が映っていた・・・・・。
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