The kiss of the secret 3


 「はあ〜っ」
 快斗は、教室で大きな溜息をついた。同じクラスの、中学から一緒だった男子が、気付いて快斗の側
に来る。
「どうしたんだよ?溜息なんかついて。今日ずっと変じゃなかったか?おまえ」
「別に、何でもねえよ」
 快斗はそっけなく答え、俯いた。
 ―――やべえよなあ・・・。何で俺、あんな事しちまったんだ?そりゃあ、他の奴に渡すつもりなん
てねえし、いずれ好きだってことは言おうと思ってたけどよ。でもいきなりあれじゃあ・・・蘭の奴、
何も言わずに飛び出してっちまったし、今朝も先に家を出てっちまったし・・・。どう思ったんだろう
?俺のこと・・・。   
 そのとき、勢いよく教室に入ってきた女の子が、友達のところへ駆け寄ると、
「ねえ、聞いて聞いて!すごいもの見ちゃった!」
 と興奮気味に話し始めた。
 快斗も、別に聞く気はなかったものの、その女の子の大きな声は自然に耳に入ってきていた。
「あのね、あの生徒会長の工藤先輩が、女の子に告白してたの!!」
 ―――告白、だって?あいつが?まさか・・・
 快斗の胸が、嫌な予感に溢れた。
「えー!!マジ!?で、誰よ、そのうらやましい女は!」
「それが、2年生みたいなんだけど、超可愛くってきれいな人なの!あの人だったら仕様がないなって
感じなんだけどォ。えっとね、名前は・・・たしか毛利とかって言ってたような・・・」
 ガタンッ
 突然大きな音を立てて快斗が席を立ち、教室にいた生徒たちが皆、びくっとする。
「お、おい、快斗・・・」
 快斗は、声をかけられたのにも気付かない様子で・・・怒りに体を震わせ、何も言わずに教室を出て
行ってしまった・・・。
「な、何?」
 話をしていた女の子がびっくりしたように言う。快斗と一緒にいた男子はちょっと溜息をつくと、
「その、毛利って人・・・たぶん、快斗の姉ちゃんだよ」
「ええ!?ほんとに?」
「ああ。快斗のシスコンは昔からだけど・・・それにしてもずいぶん怒ってたな」


 ―――あのヤロォ・・・蘭に、告白してただって?ふざけんなよ!蘭はわたさねえって、言っただろ
うが!!・・・蘭は、なんて答えたんだ?まさか・・・あいつと付き合うのか・・・?
 快斗はまっすぐに生徒会室に向かうと、そのドアをガラッと勢いよく開けた。
 中にいたのは、新一1人。窓際に立っていた新一は、ドアが開けられると、そちらを見た。
「よお、何か用か?」
「・・・蘭に、告白したってのは本当か」
 快斗が、怒りを押し殺したような低い声で聞くと、新一は目を見開いた。
「そんなこと、誰に聞いたんだ?」
「誰だっていいだろう?どうなんだよ!?」
「・・・本当だよ」
「!!」
 快斗はかーっとなり、新一の側へ駆け寄ると、勢いでその胸倉を掴んだ。
「てめえ!!」
「・・・離せよ。そんなことする権利、おめえにあんのか」
「!!」
「毛利が誰と付き合うか。それは毛利が決めることだろう?」
「んな事は分かってるよ!分かってっけど・・・」
「―――そんなに好きなのか、毛利のことが」
 新一の言葉に快斗はびくっと体を震わせ、新一から手を離した。
「・・・昨日、何かあったんだろう?毛利と」
「何で・・・」
「毛利の様子が変だった。・・・泣いてたぜ?」
「泣いてた・・・?」
 快斗は吃驚して新一を見た。
「ああ。でも・・・悔しいが、俺にあの涙は止められないらしい。止められるのは、きっと・・・」
「・・・・・」
「あんまり、泣かすなよ。俺はいつでも、横から掻っ攫うチャンスを狙ってるからな」
「―――させねえよ」
 快斗はちらりと新一を一瞥すると、見を翻し、生徒会室から出て行った。
「・・・たく。何で俺がキューピットみたいな役目しなきゃなんね―んだよ・・・」
 ボソッと言った新一の独り言は、誰にも聞こえることはなかった・・・。


 蘭は一人、とある公園にいた。
「―――懐かしい。この公園、昔は快斗と良く来てたなあ」
 
 ―――初めて快斗と話したのも、この公園だった。
 蘭が7歳、快斗が6歳のとき。2人の両親が再婚することが決まって、快斗と快斗の母が蘭の家にや
ってきたのだ。蘭は何も聞いていなかった。ショックで、何も言わずに家を飛び出した。
 前日の夜、小五郎は仏壇に飾ってある母、英理の写真に向かって話をしていた。トイレに起きて、そ
の光景を見た蘭は、なんとなく嬉しく思ったのだ。
 ―――お母さんが死んじゃっても、お父さんはお母さんが好きなんだ。
 だから翌日、知らない女の人を、「おまえの新しいお母さんだ」と紹介されたとき・・・すごく裏切
られたような気持ちになったのだ。
 ―――どうして?お父さんはお母さんがすきなんじゃないの?
 泣きながら公園にたどり着き、土管の中で膝を抱えていた蘭。そんな蘭を探してやってきたのは、快
斗だった。
「泣くなよ」
 泣きつづける蘭を、困ったように見る快斗。
「らん、お父さんをこまらせてるね。・・・きらわれちゃうかな」
 ぽつんと言った蘭の言葉に、快斗は首を振った。
「そんなこと絶対ないよ。おっちゃん、すげえ心配してたぜ?」
「ほんとに?」
 涙にぬれた目を向けると、快斗は優しく微笑んだ。
「おっちゃんは、らんのことが大好きなんだよ。らんのお母さんのことも大好きだって、おれとはじめ
てあったとき言ってたぜ?」
「でも・・・」
「おっちゃん、言ってたぜ?すきってきもちはへらないって。ふえるもんだって。らんのことも、らん
のお母さんのことも。それからおれの母さんのことも、すきなんだって」
「・・・ずっと、かわらないの?ずっと、お母さんのこと、好きなの?」
「かわらない。らんもかわらないだろう?おっちゃんのこと、きらいになったか?」
「ううん!すきだよ!」
 蘭は慌てて首を振った。快斗はにっこり笑うと、蘭の手を取った。
「いこう!おっちゃんしんぱいしてるよ」
「・・・うん」

 その後、蘭を探していた小五郎に会い、蘭はすごく心配をかけていたんだと知った。小五郎の目には
涙のあとがあった。そして、蘭を見つけると、小五郎は蘭を力いっぱい抱きしめた。「ごめんな、蘭」
と言った小五郎に、蘭は首を振ってしがみ付いた。「ごめんなさい、お父さん。大好きだよ」といいな
がら・・・。
 
 それから10年。蘭は新しい母親のことも大好きになり、快斗のことも大好きだった。もちろんそれは
、姉弟としてだと思っていた。ずっと、快斗を守れるような、いい姉になろうと思っていた。
 ―――でも、本当に守ってもらってたのはわたしだったのね。初めて会った時から・・・わたしはい
つも快斗に守ってもらってたんだ・・・。いつも、ぞばにいてわたしを見つめてくれていた。
 蘭の頬を涙が伝う。
「快斗・・・」
「蘭!!」
 蘭の小さな囁きに答えるように、快斗が蘭に向かって走ってきた。
「か・・・いと・・・」
 蘭が驚いて快斗を見つめる。
「どうしてここに・・・」
「・・・家に帰ったらいなかったから・・・ひょっとしてここかもしれないと思ったんだ。ここは、思
い出の場所だからな」
 快斗が優しく微笑む。あの日と同じ、快斗の笑顔・・・。
「快斗も、覚えてたんだ」
「あたりまえだろ?あの日、俺必死に蘭のこと探したんだぜ?」
「うん。そうだよね。快斗は、いつでもわたしのこと助けてくれた・・・」
「蘭・・・」
「わたし、快斗を守れるような、いいお姉さんになろうと思ってたのに・・・。出来なかったね」
「んなことねえよ。蘭は良い姉さんだったよ。でも、俺が・・・蘭のこと、姉弟として見れなかったんだ」
「快斗・・・」
「―――昨日はごめん、突然あんな事して。けど・・・あれが、俺の本当の気持ちだから・・・。蘭を
・・・他の男に渡すつもりはないから・・・」
 快斗が、蘭をじっと見詰める。蘭も、快斗の瞳を見つめた。
「・・・工藤、先輩に告白されたって・・・」
「知ってるの?」
「ああ・・・。なんて答えたんだ・・・?蘭は、あいつのこと、どう思ってる?」
「・・・先輩は、憧れの人だよ」
「憧れ?」
「うん。優しくて、頭が良くてスポーツも出来て・・・すごく素敵な人だと思ってる。でも・・・」
「でも?」
「でも、それだけ。・・・ちゃんと、断ったよ。好きな人がいるからって」
 蘭は、にっこり笑うと、いたずらっぽい視線を快斗に向けた。
「好きな人?って、誰だよ!?」
 快斗は途端に顔を顰めて言う。今まで、蘭の口から「好きな人」などという言葉は聞いたことがない。
 ―――そんな奴の存在、許して堪るかよ!
「わからないの?」
 蘭が、可笑しそうにくすくす笑う。
「分かるわけねえだろ?教えろよ。誰なんだよ、好きな奴って」
 いらいらと不機嫌そうに言う快斗を見て、蘭は溜息をついた。
「もう・・・そんな人、1人しかいないじゃない」
「だから、誰―――」
 突然蘭はすっと腕を快斗の首に回すと、唇を快斗の耳に寄せ、何かを囁いた。
「!!」
 快斗は目を見開き、蘭を見つめた。蘭は快斗から離れ、にっこりと満面の笑みを浮かべて快斗を見た。
「ら・・・ん・・・本当、か?俺、信じちまうぞ?」
「うん、本当。信じて?わたしのこと」
「蘭!!」
 快斗は、蘭の体を思い切り抱きしめた。
「蘭!好きだ、蘭・・・」
「快斗・・・わたしも、好きだよ・・・」
 蘭は、快斗の胸に顔を埋め、恥ずかしそうに呟いた。
「蘭・・・」
 快斗は、そっと蘭の頬に手を添えると、その唇にそっと口付けた。今度は、蘭も吃驚したりせずに、
黙って瞳を閉じていた。
 触れるだけのキスをした後、またすぐに深い口付けをする。まるで、離れられなくなってしまったよ
うに、2人は何度も口付けた。
 やがて、蘭が息苦しさに瞳を潤ませているのを見て、快斗は漸く蘭を抱く手を緩めた。
「・・・ごめん、やりすぎた」
 蘭の濡れた唇を指でなぞり、快斗がくすっと笑った。
「もう・・・」
「・・・かえろっか」
「うん。・・・夕飯、何がいい?」
 2人並んで歩き出しながら、蘭が言う。
「蘭が作ったものなら何でも」
 快斗が、蘭の手を握り、言った。
「んん〜〜〜。じゃ、魚料理?」
「うっ、それだけはやめろよな〜〜〜」
 快斗が心底嫌そうな顔をするので、蘭が思わず吹き出す。
「ら〜ん」
「あはは、ごめん、ごめん。でも・・・快斗が浮気したときには、これでとっちめちゃおうかな?」
「バーカ、浮気なんてするわけね―だろ?」
「ほんとに?」
「ああ。俺は一生、蘭以外の奴なんか好きになんね―よ」
 快斗の言葉に、蘭は目を見開き、頬を染めた。快斗の手に、力がこもる。
「約束、するよ」
「・・・うん」
 蘭は嬉しそうに微笑むと、快斗の手を、きゅっと握り返したのだった。

 もうすっかり暗くなってしまった帰り道、2人の姿だけが、明るく輝いて見えた・・・。


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 終わってしまいました〜。どうでした?最後はちょっと難しかったのですが・・・。
ちび快蘭まで出しちゃいました。自分的にもとても気に入ってるパラレルなので、いつかまた続きを書
いてみたいなあと思ってます。とりあえず、今は連載物が多いので。「B&S」で続きってのも良いかも、
とか思ってるんですが(この話自体「B&S」向きかも)。あれですね、この続きが読みたい人は、またキリ番
ゲットして頂くなんてのもありかな?「B&S」が良い人は、そちらでキリ番ゲット(笑)とか。
 とにかく、またこの2人に会えることを願って・・・。それではこの辺で♪