「ありがとう、花沢類」 いつも笑顔でそう言う牧野。 「あんたのありがとうは聞き飽きた」 そう笑って返せば安心したように微笑む。
司と別れた時もそうだった。 ただ黙って手を握っていただけだけど。 「ありがとう」 と言う牧野に俺は、いつものように言葉を返す。 「聞き飽きた」 と。 でもこの時の牧野は少し様子が違ってた。 「ごめんね」 涙に濡れた瞳で俺を見つめてた。 「なんで謝るの?」 俺の言葉にうつむく牧野。 「牧野?」 不思議に思って名前を呼んでも答えない牧野に何を言っていいのかわからず、俺は牧野の髪を撫でた。 「何か食べに行こう」 そう言って歩き出した俺の背中に、突然ふわりと柔らかい温もり。 牧野が俺の腰に手を回し、背中にしがみついていたのだ。 「牧野・・・・・?」 「こっち、見ないで。そのまま聞いて」 「・・・・・わかった」 「あたしね・・・・・花沢類が好きなの」 一瞬、時が止まったような気がした。
―――今、なんて?
「ごめん、ずっと応援してくれてたのに。でも、もう自分の気持ちに嘘つけなくて・・・・・。こんなこと言ったら困らせるってわかってるのに・・・・・」
俺が、何も言葉を発することができずにいると、腰に回っていた手が緩み、牧野が俺から離れた。 何も言わないことを拒否されていると思ったのか、牧野がそのまま離れていく気配に、俺は振り向き牧野の手を掴んだ。 「待てよ。このまま帰っちゃうつもり?」 「ごめん・・・・・今言ったこと忘れて」 「―――忘れてって、どういう意味?」 「困らせたくないの。明日になったら、いつものあたしに戻るから。友達に戻るから、だから―――」 考える余裕なんかなかった。 気がついたら、牧野を抱きしめてた。 突然のことに固まってしまってる牧野を力任せにかき抱く。 「忘れることなんか、出来ない。友達になんか、戻れないよ」 「花沢類―――」 「俺が忘れたら、あんたも忘れるの?明日になったらただの友達になって、俺のことを好きだって気持ちもなかったことにするの?」 「だって・・・・・」 「俺は、そんなのいやだ。牧野が言った一言一句だって忘れたくない」 牧野が、俺を見上げる。 「俺の気持ちは、聞いてくれないの?」 「だっ・・・・・て」 「言ったでしょ。俺は牧野が好きだって。ずっと好きだった。その俺の気持ちまでなかったことにするつもり?」 牧野の瞳から涙が溢れ落ちた。 「なかったことになんかさせない。やっとあんたを手に入れることができるのに、それを忘れたりなんかできるはずない」 「花沢類・・・・・」 「もう一回、言って・・・・・。俺のことが好きだって。忘れたり出来ないように・・・・・ちゃんと言って」 俺の言葉に、牧野は恥ずかしそうに頬を染めながらも、口を開いた。 「好きだよ。花沢類が、好き」 「・・・・・俺も、牧野が好きだよ」
お互いの瞳を見つめ合い、そのまま引き寄せられるように唇を重ねる。
何度も飽くことなくキスを繰り返し、お互いの気持ちを確かめるように抱きしめあった。
「夢、みたいだ」 「それは、あたしの方だよ。花沢類が、まだあたしのことを好きでいてくれたなんて思いもしなかったから・・・・・」 「俺、一度好きになると案外しつこいんだよ。総二郎にも言われたことがある。それに―――言ったでしょ?付き合うとか付き合わないとか関係なく、俺は牧野が好きなんだって。今までもこれからも、ずっと変わらない。ずっと、好きだよ」 「・・・・・ありがとう」 「また、ありがとう?」
「ありがとう」と「ごめんね」は、牧野の常套句だ。 だけど、たまにはそれ以外の言葉が欲しいと思うのは、我侭かな。 「ねえ牧野」 「何?」 「ありがとう以外の、お礼の言葉ってない?」 きょとんとした表情。
暫く考えて。
上目遣いで俺を見る。
「花沢類限定でもいい?」
「どんなの?」
「・・・・・大好きって」
「・・・・・それ、絶対俺専用ね」
そうしてまた俺は、牧野の唇に口付けた・・・・・。
fin.
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