あいつの笑顔を独り占めしたくて。
強引だって言われても良い。
あいつの隣には、いつでも俺がいたかったんだ。
Smile for me
2
講義が休講となり、俺は類の姿を探して高等部の非常階段へ向かった。
あいつが未だにあの非常階段へ通うにはわけがある。 他でもない、牧野のため。 今はもう大学も辞めてしまった牧野が、未だよく顔を出すのがその非常階段で・・・・・。
非常階段を上がっていくと、案の定類の姿が見えた。 珍しく、声を上げて笑っている。 そしてその横には、やっぱり牧野が・・・・・・。
「あ、西門さん」 牧野が俺に気付き、そのはじけるような笑顔を俺に向けた。 「・・・・・類、今野教授が探してた。レポート提出してくれって」 俺の言葉に、類がああ、と頭をかいた。 「やば、忘れてた。わざわざ探しに来てくれたの?携帯に連絡してくれれば良いのに」 類の言葉に俺は肩を竦めた。 「お前、電源切ってるだろうが。たぶんここだろうって思ったから」 「ふーん。じゃあね、牧野、また」 「うん」 牧野に手を振り、その場を後にする類。 俺はそれを見送り・・・・・ くるりと牧野に向き直った。 「な、なに?」 「何?お前は、何してんの?」 「え・・・・・。今日は休みだから、ここで休んでたんだけど」 しれっとそんなことを言う牧野に、溜息が出る。 「休みのときは知らせろって、言っただろ?」 「だって、西門さんは今日大学でしょ?」 「お前は土曜も日曜も仕事だろうが!だから、俺がお前に合わせるって言ってんのに」 「・・・・・講義が終わるころ、メールしようかなって思ってたんだけど・・・・・・」 意外な言葉に、俺は一瞬呆けた顔になる。 「俺に・・・・・・?」 「うん。その後、すぐに会えるかと思って、ここにいたんだけど・・・・・・。ダメだった?」
―――やられた。
こいつは超がつくほど鈍感なくせに、時々こういうかわいいことを言い出したりするんだ。 それも、無自覚なままその大きな瞳で俺を見上げて・・・・・。
そのままうっかり、牧野のペースに嵌りそうになり、はっとする。 「お、お前な、それなら何で類と会ってたりするんだよ?」 「何でって・・・・・。ここで寝てたら、類がきたの。ここは、類もよく来る場所だし、別に珍しいことじゃ・・・・・」 「ちょっと待て。お前、ここで寝てたのか?」 「え?うん。本読んでたんだけど、気付いたら寝ちゃってて・・・・・。目が覚めたら、隣に類がいたの」 「・・・・・お前なあ、男の隣で無防備に寝たりすんなよ!」 「そんなこと言ったって・・・・・・。大体、そんなのいつものことだし、類だって気にしてないよ」 牧野の言葉に、俺は再び溜息をつく。
―――やっぱりこいつは何もわかってない。類の気持ちも、俺の気持ちも・・・・・・
「西門さん?」 牧野が、不思議そうに俺の顔を覗き込む。 突然牧野の顔が間近に迫り、俺は柄にもなくドキッとして目を逸らした。 「あ、あのな、これからはここに来る前にメールしろよ」 「どうして?」 「どうしても。心配しなくても、俺はちゃんと卒業できっから。俺は、もっとお前と会いたい」 その言葉に、牧野の頬が見る間に染まる。 そんな牧野がかわいくて、思わずその肩を引き寄せ、抱きしめる。 「そういう顔を、他のやつに見せたくないんだよ」 「そ、そういう顔って・・・・・?」 「かわいくて・・・・・抱きしめたくなるような顔」 「そんな顔、してない・・・・・・」 「してる」 牧野の髪をそっと指に絡め、耳の後ろを掠めるように触れると、牧野の肩がぴくりと震え、耳まで真っ赤になった牧野がそろりと顔を上げる。 「・・・・・類の前で、寝たりするなよ。類と2人きりになったりするな。それから・・・・・・」 「まだあるの?」 照れたように、呆れたように上目遣いで俺を見る。 「あんなふうに、類の隣で笑うなよ・・・・・・」
牧野の頬に、そっと手を添える。
「お前の笑顔は・・・・・・俺だけのもんだ・・・・・」
牧野が何か言うより前に、その唇を塞ぐ。
長く、甘いキス。
漸く唇を離すころには牧野の瞳は潤んでいて。
「・・・・・我侭」 「良いさ、そう言われても。お前を・・・・独り占めできるなら」 「・・・・・じゃあ、あたしも我侭言っていい・・・・・?」 「ん?」 「西門さんの笑顔も・・・・・・あたしだけに見せて?」
恥ずかしそうにそう言った牧野にちょっと驚いて。
だけど嬉しくて。
もう一度、牧野の唇にキスをした。
「そんな我侭なら、いくらだって聞いてやる・・・・・」
そうして俺は、牧野の体を抱きしめた・・・・・・。
fin.
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