いつの間にか、目が追ってる。
輝くような笑顔。
その笑顔を自分のものに出来たら。
そう思って見つめているのは俺だけじゃない。
「どうしたの?西門さん。ボーっとして」
俺を覗き込む黒い瞳が、俺の心に真っ直ぐ入り込んでくる。
「・・・・・そろそろ、いいかなあと思ってさ」 「何が?」
「お前を、口説いても」
Smile for
me
「ありえないよ」 あたしの言葉に、優紀が目を瞬かせる。 「どうして?」 「だって、あの西門さんだよ?何であたし?絶対おかしいよ。冗談に決まってる」 「そうかなあ」 首を傾げる優紀。 「あたしは、結構お似合いだと思うけど」 「ちょっと優紀・・・・・」 思わず顔を引き攣らせるあたしに、優紀はにっこりと笑いかける。 「西門さん、最近つくしを見る目が優しくなったもん。つくしは、どうなの?」 「どうって?」 「西門さんのこと、どう思ってる?」 「あ、あたしは・・・・・」
―――そんなこと、考えたことなかった。
3ヶ月前、あたしは道明寺と別れた。 2年間、遠距離恋愛というものをしていたけれど、逢えないという現実は予想以上に辛く、あたしたちの心の距離は広がっていくばかりで、埋まることはなかった。
以来、あたしは大学を辞めてペットショップで働き始めた。 働きながら、トリマーの資格を取るために専門学校へも通う日々。 ペットショップのお給料だけでは苦しいため、夜は居酒屋でもバイトをしていた。
そんな中であたしは週に1度、F3と会う時間を作っていた。 それは、大学を辞める時の約束。 「大学を辞めても、俺たちと週に1度は会う時間を作って。1時間でもいい。一緒に食事をするだけでも。司と別れたからって、俺たちの関係は変わらないでしょ?」 穏やかだけど、いやとは言えなくなってしまうような、花沢類の言葉。 「俺と2人で、会ってくれてもいいけど」 そうとも言われ、あたしは躊躇してしまった。
花沢類を好きだけれど、それは恋愛感情とはやっぱり違う気がして。 だから、会うときは4人で。
そうして1年が経ったある日、西門さんに突然告白されたんだ。
『・・・・・そろそろ、いいかなあと思ってさ』 『お前を、口説いても』
にっこりと、いつものように見惚れるくらいきれいな顔で、不敵な笑みを浮かべて。
『気付かなかったのは、牧野くらいだよ』 花沢類にそう言われてしまった。 『総二郎が牧野を口説くなら、俺も参戦しようかな。立場は同じだし』 にっこりと微笑まれ、また固まってしまったあたし。
―――だって、急にそんなの、どうすりゃいいのよ?
「つくしは、つくしの思ったとおりにすればいいよ。無理に答えを出すことはないんじゃない?今まで通りF3と会って、じっくり付き合っていけばそのうち自然に答えは出るよ」 「・・・・・なんか、優紀ってば落ち着いちゃって。彼氏とうまくいってるんだね」 「えへへ、まあね」 ぺろりと舌を出し、照れ笑いをする優紀。 幸せそうな優紀が、なんだか羨ましかった。
道明寺との辛い恋が終わって。 今その思い出が漸く笑って話せるようになった。 そろそろ、次の恋をしてもいい時期なのかな・・・・・
「牧野!!」 後ろから声をかけられ、振り向くと西門さんが走ってくるところで。 「今日、休みだったって?何でいわねえんだよ」 「聞かれなかったし・・・・・。それに今日は、優紀と会う約束だったから」 「優紀ちゃんと?で、今帰り?」 「うん」 「じゃ、デートしようぜ」 にやりと、いつもの笑顔。 「デート?これから?」 「ああ。うまい飯食わせてやるよ」 そう言って、さりげなく車道側に立ってあたしの歩調に合わせてくれる。
この人のこういう立ち居振る舞いはさすがで、類もそうだけどやっぱり育ちの良さは争えない、と思わせる。 そして軽薄そうに見えて実は結構真面目なところが、きっと女性たちにとってはミステリアスで、魅力的に見えるんだろうな・・・・・。
「牧野?なんだよボーっとして。行くのか行かないのかはっきりしろよ」 あたしの顔を覗き込んでそう聞く西門さんに、あたしははっとして 「あ、ごめん。えっと・・・・・いいよ」 そう答えると、西門さんが嬉しそうに笑った。 少年のような笑顔に、なぜか胸が高鳴る。 「マジ?よし、じゃあ何食べたい?」 「何でもいいけど―――」 そう言った時、バッグの中の携帯が着信を告げた。 「あ、待って」 携帯を出して開くと、画面に表示された名前を見る。
―――花沢類
とりあえず出ようと通話ボタンを押すと、横から手が伸びてきて、ひょいと携帯を取り上げた。 「あ、ちょっと!」 止める間もなく、西門さんが携帯を耳に当て、口を開く。 「類か?俺。わりいけど、牧野は俺とデートだから、用事なら後にしろよ。じゃあな」 そう言って、とっとと切ってしまう西門さんを、呆然と見る。 「―――な、何してるの?」 「あのな」 突然、西門さんがずいっと顔を近づけてくるから、あたしは思わず後ずさる。 「な、なによ」 「類は、親友であっても今はライバルだ。お前といるときは特に。俺は、手え抜くつもりはねえからな。お前を手に入れるまで、あいつとはとことん戦うぜ」 いつもはクールな瞳が、今は熱い情熱を秘めているようだった。 じっと見つめたかと思うと、一瞬後にはふっと軽く微笑み、携帯をあたしの手に握らせると、もう片方の手を握った。 「さ、いこうぜ」 強引なようで、その手は優しくて。
あたしはそっと、携帯を開いてみた。
いつの間にか電源を切られてる携帯。
でも・・・・・・
あたしはそのまま、携帯をバッグにしまった。
何でだろう・・・・・
今日はこのまま、西門さんについて行きたい気分だった。
時折向けられる、彼の笑顔が、また見たくて。
その笑顔が、自分だけに向けられるものだといいのにと、いつの間にか期待している自分がいた・・・・・。
fin.
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