***Promise vol.1 〜総つく〜***



*このお話は、「Fantasista」から続くお話になります。
 こちらのお話だけでもお読みいただけますが、より詳しい内容をお知りになりたい場合は、「Fantasista」からお読みくださいませ♪


 -tsukushi-

 「牧野さん、3番に電話入ってます」
「はーい」
 手近にあった電話に手を伸ばし、受話器を上げ3を押す。
「はい、牧野です」
 電話の向こうから聞こえて来たのは、聞き慣れた人の声。
「牧野?俺」
「美作さん?」
「ああ。仕事中に悪いな」
「ううん、良いけど。今日本?いつ帰って来たの?」
 3ヶ月前にインドへと出張のため旅立った美作さん。
 そろそろ帰って来る頃かなと思ってはいたけど、いつもなら帰って来る前にメールで連絡をくれるのだ。
「昨日だよ。急に決まったんだ。で、お前今日時間ある?」
「今日?うん、大丈夫だけど・・・・・」
 美作さんにしては珍しく、慌てた様子なのが気になった。
「じゃあ、そっちの仕事が終わる頃迎えに行くから待っててくれ」
「うん、わかった」
「じゃあな」
 そしてすぐに切れた電話。
「なんだろ・・・・・」
 なんだからしくない美作さんの様子に、胸騒ぎがした。
 一応西門さんに知らせようと思い、携帯を開いて見て、メールが来ていることに気付く。
「あれ?」
 送信者は美作さんだった。

 ―――「さっきの件、まだ総二郎には言うな」

 ますますわけがわからなかった。

 ―――いったい何があったんだろう・・・・・


 「困ったことになった」
 そう言って溜め息をついた美作さんは本当に困った顔をしていた。
 仕事が終わり、車で迎えに来た美作さんに連れて来られたのは、よく行くクラブだった。
「どうしたの?」
「お袋が、大変なことしてくれて」
「お母さんが?」
「―――俺の恋人だって言って、親父にお前の写真を見せたらしい」
「―――は?」
 思わず声が裏返る。
「なんで?」
「俺にも何がなんだか―――。親父が急に俺の縁談話を持ちかけてきたって。で、お袋はお前のことを思い出して―――。お袋もそうだけど、妹たちがお前のこと偉く気に入ってて。『おにいちゃまのお嫁さんはつくしおねえちゃまじゃないといや』何て言うもんだから、お袋もその気になって・・・・お前の写真を見せたらしい」
 美作さんの家には、何度かお邪魔したことがある。
 そのときに双子の妹さんや美作さんのお母さんとも会って話をして・・・・・。
 双子ちゃんが懐いてくれるのがあたしも嬉しくって、よくおしゃべりしたものだけど。
 まさかそんなことに・・・・・。
「で・・・・あたしはどうすればいいの?」
「俺も考えたんだけど・・・・・実は、明日親父も帰国することになってる」
「そうなの?」
「ああ。で・・・・親父に、一度会ってくれないか」
「ええ?」
 驚いて、美作さんの顔を見る。
「俺も、まだ結婚なんて考えてない。できれば縁談なんて遠慮したいんだけど・・・・・。親父に直接断るとなると、やっぱりそれなりの理由が要るだろ」
「って・・・・・正直に言えばいいじゃない。まだ結婚したくないって」
「何度も言ってるよ。けど、見合いくらいならいいだろうって言われるんだよ。すぐに結婚しなくてもいいからって。けど、すぐに結婚しなくても付き合うとしたら結婚を前提ってことになるだろ?それが煩わしい。俺はまだそんなこと考えたくねえ」
「で・・・・・」
「いっそのこと、これを利用してやろうかと思って」
 そう言って美作さんが真面目な顔をしてあたしを見るのに、あたしは呆気にとられた。
「今回だけでいいんだ。ちょっと協力してくれねえか?」
「無理だよ!そんなの・・・・・。本当に付き合ってるわけじゃないのに、そんな人を騙すような真似・・・・・」
「親父と会うのは、明日だけだから。で、家にお前を呼ぶことになってるんだ。そのときだけ、俺の恋人になってくれればいい」
「呼ぶことになってるって・・・・・もう、あたしの返事聞く前からそのつもりだったんじゃない」
 呆れて言うと、美作さんがふっといたずらっぽい笑みを浮かべた。
「ま、そういうことだ。頼むよ」
 人懐っこい笑みでそう言われて。
 美作さんにはいろいろお世話になってるし。
 そんなふうに頼まれれば、いやとは言えなくなってしまうあたし。
「本当に1日だけ、だからね」
「ああ、わかってる。それから、総二郎にはこのこと―――」
「黙ってたほうがいいかな」
「明日は何か約束あるのか?」
「ううん。明日は西門さん、お茶会の準備があるって言ってたから」
「なら、わざわざ言って心配させることもねえだろ」
 そう言って微笑む美作さんに、あたしも頷いた。
 
 西門さんは、最近忙しそうだった。
 茶道界という、あたしには無縁だと思っていた世界の人と付き合い始めて半年。
 何度か彼の家にも行っているけれど、未だに彼の母親とは折り合いが悪く―――って言うか、一方的に嫌われていて、まともに話したことすらない状況だった。

 何とかする、と西門さんは言っていたけれど・・・・・。

 「遅くなっちまったな。家まで送るから、乗ってけよ」
 店を出て、美作さんがあたしの肩を軽く押し、車へと歩いていく。
 そのとき―――

 「牧野?」
 突然後ろから聞こえてきた声に、あたしは驚いて振り向いた。

 あたしたちが出てきたクラブの、すぐ隣にあるホテル。
 その前で驚いてこっちを見ていたのは―――

 「西門さん?」

 ―――どうしてここに・・・・・

 西門さんの横には、髪の長いスレンダーな美女。
 その彼女が、呆然とあたしたちを見てる西門さんの腕に、自分の腕を絡めていた・・・・・





  

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