ヒトミは、しばらくその光景を信じられない思いで見ていた。 目の前には、ベッドにその身を投げ出し、ガーガーと大いびきをかく、恋人であり自身の高校の保険医でもある若月龍太郎。 今日は飲み会だと言っていた。 それは別に珍しい話ではなく、よく若い新任の教師を連れて飲みに行っているのだ。 そして夜中に帰ってくる。それもいつものこと。 この日、いつもと違っていたのはヒトミがまだ眠りについていなかったこと。それから、龍太郎が1人ではなかったことだった・・・。
ベッドに入ったものの、なかなか眠りにつけず、そのままベッドの枕もとのライトの下、マンガを読みふけっていたヒトミは、外で人の声がしたのに気づき、ふと顔を上げた。 枕もとの目覚まし時計は深夜2時を指していた。 ―――こんな時間に・・・もしかして、先生・・・? そう思ったヒトミはベッドから起き上がり、そっと窓を開け、ベランダから外を見た。 と、そこにはやはり龍太郎が・・・しかし、龍太郎は1人ではなく、龍太郎に肩を貸し、寄り添うように歩く人がいたのだ。派手な服、派手な髪の明らかに水商売風の女性が・・・。 ヒトミはショックのあまり、すぐに動くことが出来なかった。 龍太郎とその女性が、マンションのエントランスに入り、ヒトミの視界から消えた瞬間、ヒトミははっと我に返り、すぐに踵を返すと部屋を飛び出した。
龍太郎の部屋の前に着いたとき、あの女性がエントランスから出て行くのがちらりと目に入った。 強烈な香水の臭いが鼻をつく。 ヒトミはその臭いに顔をしかめながら、龍太郎の部屋のドアに手をかけた・・・。
ベッドの上の龍太郎の服は乱れ、その頬には真っ赤な口紅の跡が。 どのくらいその場にいたのか。いつ自分の部屋へ戻ったのか。
ヒトミはまったく覚えていなかった。 |