My Little Angel 1


 ある日快斗が家に帰ると、なぜか自分のベッドに、小さな白い羽を背中につけた小さくて可愛い天
使が寝ていました。吃驚して起こしてみると、小さな天使はここに来たわけを話し出しました。
「悪魔を助けたの。すごくかわいそうだったから。でもそれが大天使様にばれて・・・天界を追放され
てしまったの」
 小さな天使は、大きな瞳に涙をいっぱいためて言いました。
「でもそのとき、天使長様が助け舟を出してくれて。人間を1人幸せにすることが出来たらもう1度天界
に戻ることを許すと言ってくださったの」
「その人間って・・・」
「うん。あなたのことよ」
 小さな天使は無邪気に笑って言いました。
「何で俺が選ばれたんだ?」
 快斗は不思議に思って聞きました。
「さあ。天使長様が適当に選ばれたから、らんは良く知らないわ」
「らん?」
「うん。わたしの名前よ。よろしくね」
 にっこり笑ったその顔があまりに可愛くて、快斗は思わず見惚れていました。
「快斗?どうしたの?」
「あ、い、いや・・・あれ?俺の名前、知ってんの?」
「うん。黒羽快斗、でしょう?快斗ってよんでも良い?」
「あ、うん・・・よろしく、らん」
こうして快斗と天使のらんの不思議な毎日が始まったのでした。


 ―――俺の家に、天使がやってきた。ちっちゃくて超絶に可愛い「らん」という名の天使だ。最初見
たときはさすがにびびった。背中についてる羽はどう見ても本物だったし、いよいよ俺も終わりかと思
ったもんだ。けど、らんと話している内に、なぜか楽しい気分になってきたんだ。不思議なもんだな。
らんの無邪気で可愛い笑顔を見てると、小さなことはどうでも良くなって来る。
「らん、おれが幸せになるにはどうすりゃいいんだ?」
 その夜快斗とらんは同じベッドの中で、一晩中話しこんでいた。
「さあ。らんにも分からない」
 らんはかわいらしく小首を傾げる。
「俺が選ばれたってことは、俺って不幸なのかな。確かに両親死んじゃってるし、貧乏だし、彼女もい
ねえけど。不幸だなんて思ったことねえぜ?」
「んん〜。良く分からないんだけど・・・天使長様も適当に選ばれてたから・・・ただ、本当に幸せだ
ったら選ばれなかったと思うよ?」
「そっか・・・。んで、俺が本当に幸せになったら、らんはその・・・天界に戻れんだな?」
「ん、そゆこと」
 ―――そっか・・・。なんとなくそれも寂しいような気がするよな。せっかくこうして会えたのに・
・・。
 と思いながら、快斗がらんを見ると、らんはにっこりと笑って見せた。
 ―――やっぱ可愛いなあ・・・。
 と、快斗が思った瞬間だった。
「てめえ、俺のらんに引っ付いてんじゃねえよ」
 低い唸るような声と共に、部屋の中につむじ風が起きたかと思うと、突然部屋の真中に1人の男が現
れたのだ。
 射るように快斗を睨む鋭い目。そして背中には黒い羽が・・・
「新一!」
 らんが、驚いて目を見開いた。
「らん!探したぜ」
 と、黒い羽の男が言った。快斗に向けられた鋭い視線はどこへやら、その格好に似合わない、優しい
眼差しでらんを見た。
「新一、どうしてここに?」
「らんに会いに来たに決まってんだろ?俺のせいで天界を追放されたって聞いて・・・」
「え?じゃあ、らんが助けた悪魔って・・・」
「うん、新一のことなの」
「・・・気安くらんなんて呼ぶんじゃねえよ、人間の分際で」
 新一は、険しい顔で快斗を見た。
 ―――こいつ、らんのこと・・・。
「新一ってば!そんな言い方しないで。それより、どうしてここが分かったの?」
 それに答えようと新一が口を開きかけたとき、再び部屋の中につむじ風が起こった。
「わたしが教えたのよ」
 と、静かな声と共に現れたのは、らんと同じ羽根、同じくらいの大きさで赤みがかった茶パツとどこ
か冷めた瞳の少女で・・・。
「哀!あなたがどうして・・・?」
「天使長様にあなたのお目付け役をおおせつかったのよ。あなたは見ていないと何をするか分からない
からってね」
 と、意外にも優しい眼差しをらんに向け、その少女―――哀は言った。
 らんはちょっと頬を膨らませ、
「もう、天使長様ってば・・・」
 と言った。その表情がまた超絶に可愛く・・・快斗がポーっと見惚れていると、それをギロリと新一
が睨んだ。
「この悪魔にここを教えたのは、ボディーガ−ドになるかもと思ったからよ」
「ボディーガード?」
「そう。天界と違って、ここには危険がいっぱいなのよ、らん。あなたはその辺の自覚が足りなすぎる
から。今だってそうやって平気で人間と同じベッドで寝ているし」
 哀が快斗をちらりと見た。
 ―――なんか、この子、苦手かも・・・。
 と、快斗が思っていると、哀の言葉にらんはきょとんとし、
「快斗と一緒に寝ちゃいけないの?」
 と聞いたのだった・・・。


 いつもよりも賑やかな朝。
 当然だろう。1人暮らしだった快斗の部屋に、突然天使が2人(?)と悪魔が1匹(?)現れたのだから。
「しっかしせめえ部屋だな。きったねえし。おめえ掃除とかしてんのかよ?」
「っるせーな。1人暮らしにはこんなもんで充分なんだよ。おめえらが出てけば問題ないっつーの」
「快斗、らんがいると邪魔?」
 らんが、うるうるした瞳で快斗を見つめる。
「あ、いや、らんは良いんだよ。邪魔なのは、この悪魔のほうで―――」
「んだとお?」
「・・・広いか狭いかの問題ではなく、わたしは汚いのが嫌なんだけれど」
 哀の冷静な声が聞こえる。
「―――掃除なんて年に1回で充分だっつーの」
「快斗、掃除嫌いなの?」
 らんがきょとんとした表情で快斗を見る。
 ―――あ、今の顔可愛い。
「まあ・・・あまし好きではないな」
 と、快斗が正直に答えると、蘭は、なぜか満面の笑みを浮かべた。
 その笑顔に、快斗と新一が見惚れていると―――
「じゃ、らんがお掃除してあげる!!」
 と元気よく言ったのだった。
「え?掃除?」
「うん。らん、快斗のお手伝いしたいの。だめ?」
「い、いや、だめじゃねえけど・・・」
「じゃ、良い?早速今から・・・」
「あ、ちょっと待って。・・・その前にさ、朝飯くわねえか?」
「朝・・・飯?」
「そう。俺、朝はちゃんと食べねえとだめなたちでさ」
「ふーん、じゃ、らんが作ってあげるよv」
「え、マジ?作れんの?」
 なにせ蘭は人間の女の子でいうと6歳くらいの年にしか見えない。そんな小さな体で料理が出来るの
か・・・心配するのも無理からぬことで。だが、2人の会話を聞いていた新一はきっと快斗を睨み、
「おめえ、らんを馬鹿にしてんのか」
「馬鹿にしてんじゃねえよ、ただ、できんのかなって・・・」
「らんの手料理は大天使様のお墨付き。人間界のレストランあたりには負けないわよ?」
 クールに、なぜか勝ち誇ったように言う哀。
「へえ、そうなんだ。んじゃ作ってもらおうかな」
 快斗が言うと、らんは嬉しそうににっこりと笑い、
「まかせて!快斗たちは、そこに座ってて?すぐに作るからvv」
 そう言って、台所に向かったらん。
 ほどなく出来上がった朝食は、本当に絶品で、快斗は目を丸くした。
「美味い!!すげえな、らん。俺、こんなに美味い朝飯食ったのはじめてかも」
「ホント?良かったァ」
 らんは照れたように、頬を赤らめて笑った。
 その様子を見ていた新一は面白くなさそうだったが、とりあえずらんの作ったおいしい朝食を食べる
ことに専念することにしたのだった・・・。

「快斗、どこ行くの?」
 朝食の後、おもむろに着替えだした快斗を見て、蘭がきょとんとした顔をする。
「え?学校だよ。俺、高校生だからな。高校行かないと」
「そうなんだ・・・」
 らんはちょっと寂しそうな、残念そうな顔をしている。
「らん・・・ごめんな。終わったらすぐに帰るから」
「うん、大丈夫だよ。お掃除して待ってるね」
 そう言って、蘭は微笑んで見せた。
「ふん、早くいけよ」
 と、らんを見ていた新一が快斗に言う。
「うるせーな、わかってるよ。いいか、おめえは俺のもの勝手にいじんじゃねえぞ」
「頼まれたってさわんねえよ」
 バチバチと火花を散らせて睨み合う2人だったが・・・
「お取り込み中なんだけど、そろそろ行った方が良いんじゃなくて?」
 と、哀がボソッと言った。その声に快斗は我に帰り、
「やべっ、遅刻する!じゃあな、らん、3時半くらいまでには帰るから」
「はあい、いってらっしゃ〜い♪」
 らんが快斗を笑顔で送り出し、快斗も笑顔を返して出て行った。

「・・・ねえ、哀」
 快斗が行ってしまった後、何かを考えているようだったらんが口を開いた。
「なあに?」
「らんも、学校にいけないかなあ」
「え?」
「何言ってんだよ、らん?」
 新一が、蘭の言葉を聞いて、その側に駆け寄る。
「だって・・・快斗が学校に行ってる間、らん、お掃除くらいしかしてあげられないじゃない。それだ
けじゃあ、快斗は幸せになれないでしょ?」
 と言うらんの瞳は真剣そのものだった。
「・・・そうね。出来ないことはないけれど」
「ホント?」
 蘭の顔が、パッと明るくなる。
「おい・・・」
「あなたは黙ってて。要するに、彼と同じ年頃の娘になればいいのよ。面倒な手続きはわたしがやって
あげる」
「ありがとう!哀!」
 蘭は、パッと哀に抱きつき、頬擦りした。
 哀はちょっと照れたような顔をしていたが、新一がじっと見ているのに気付くと、ひとつ咳払いをし
「そのかわり、条件があるわ」
「じょうけん?」
「ええ。その条件を呑めるのなら、明日からでも学校に行っていいわよ」
 と哀が言うと、らんはにっこりと微笑んで頷いた。
「うん!わかった。らん、哀との約束は必ず守るよ?」
「そうだったわね。じゃあ・・・」


「ただいまあ」
 快斗は学校から帰ると、そう言ってドアを開けた。
「快斗お帰りなさい!!」
 そう言って飛び出してきた人物を見て、快斗はギョッとする。
「???だ、誰だ?」
 そこに立っていたのは、快斗と同じ年くらいの、髪の長い美しい少女で・・・
「うふふv、わかんない?」
 と、にこにこ笑っている少女。
 その笑い方、仕草・・・まさか・・・
「らん、か・・・?」
「あたり!!さすが快斗!」
 少女―――らんはそう言うなり、がばっと快斗に抱きついてきた。
「うわっ、ら、らんっ」
 途端、快斗は真っ赤になる。それもそのはず。らんの体がぴったりと快斗にくっつき、その柔らかな
胸の感触を、嫌でも感じずにはいられないのだから・・・。
「らんっ、何してんだよ?そいつから離れろ!」
 と言って出てきたのはもちろん新一。
「らん、まずは彼にもちゃんと説明しないと」
 と、続いて哀が出てきたのだが・・・
「どうなってんだ?」
 快斗は驚いて目をぱちくりさせている。
 というのも、らんに続いて出てきた新一はなぜか6歳くらいの男の子の姿に、そして哀はらんと同じ
く高校生くらいの少女の姿になっていたからだ。


「らんが、あなたと同じ学校に行きたいと言ったのよ。あなたを幸せに導くためにね」
 哀が言った。
「それで、その姿になったの。わたしたち天使はいろんなものに姿を変えることが出来るわ。もちろん
透明人間のように姿を消すことだって出来る。でも、姿を消していても霊感の強い人間には見えてしま
うときがあるのよ」
「へえ、そうなんだ」
「だから、最もばれにくいこの姿になったの。でも、この姿でいられるのは1日10時間と決まってる
 わ。10時間を過ぎると、本来の姿に戻ってしまう」
「なるほど・・・。で?らんはわかったけど、どうしてあんたやこいつまで?」
 と、快斗は新一をちらりと見て言った。
「わたしは、もちろんらんについてるためよ。1人にしておけませんからね。らんは・・・」
「俺だって、本当はそのくらいの年の男になってらんについてようと思ったんだ!」
 新一が悔しそうに言った。
「けど・・・俺たち悪魔は人間の姿になるときは子供の姿と決まってるんだ」
「へえ、なんで?」
「そのほうが人間が油断するからだよ。人間て生き物はおめでたい奴が多いからな」
 と言って、にやっと笑った新一に、快斗はむっとする。
「・・・けど、その姿じゃ高校には入れねえぜ」
「分かってるさ。だから、姿を消してらんの側にいようと思ったのに・・・」
「だめよ」
 哀が、ぴしゃりと言った。
「さっきも言ったけれど、霊感の強い人にはその姿が見えることがあるのよ。それは悪魔も同じ。あな
たのような悪魔がらんにくっついていれば怪しむ人がいないとも限らない。そういう事態は避けたいの」
「ちぇっ」
 拗ねたようにそっぽを向く新一。小さな子供の姿で拗ねるその様は、かわいらしくもあったが・・・
「何じろじろ見てんだよ?てめえみたいな間抜けなやろーにらんはわたさねえからな」
 ―――やっぱ可愛くねえ・・・
 と、改めて快斗は思ったのだった・・・。






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 日記のほうで連載していた小説をちょこっと修正してまとめてみました。
とにかく可愛い蘭ちゃんを書いてみたいと思って、「エンジェルちび蘭」というキャラクターを思いつき
ました。しかしまた連載もの・・・。続きは、いつUPされるんでしょう?まあ、ゆっくりと、気長に待
って頂ければ・・・ね。というわけで、感想などありましたらBBSのほうでお待ちしております。
それでは♪