***君だけに vol.3 〜類つく〜***



 「類・・・・・牧野・・・・・。俺は認めねえぞ!俺が今まで何のために・・・・・!」
 司が肩を震わせ、俺たちを睨みつける。
 俺は、その視線を受け止めながら口を開いた。
「・・・・・ごめん、司。司ががんばってたのは知ってる。でも・・・・・それは牧野のためだけじゃないはずだよ。道明寺のため・・・・・自分のためでもあるだろ?司はもう、立派な道明寺の後継者だ」
「知った風な口を聞くな!」
「それでも・・・・・俺はもう、牧野を離すつもりはないよ」
「類、てめえ―――」

 司が、俺に掴みかかろうと1歩踏み出す。

 俺はその瞬間、牧野の手を握りなおし、走り出した。

 司の横をすり抜け、教会の前の通りを駆け抜ける。

 「待て!!」
 司の声が追いかけてくる。
 当然そんなの待てるわけがない。

 教会の前を通り過ぎようとした時―――
 総二郎とあきらが、呆気に取られてこちらを見ているの目に入った。
 そして―――

 「類!牧野さん!」

 教会からウェディングドレス姿で出てきたのは、静だった。
「静さん!ごめんなさい!」
 牧野の言葉に、静がふわりと微笑むのが見えた。
「牧野さん!受け取って!!」
 そう言って―――

 真っ白なブーケが、放り投げられた。

 牧野が手を伸ばし、ブーケをキャッチする。

 「類!牧野さん!幸せにね!」
 手を振る静。
 俺はそんな静に笑みを返し・・・・・
「おい!捕まんなよ!」
「そのまま日本まで逃げちまえ!!」
 総二郎とあきらの声が、俺たちを後押しした・・・・・。

 俺は牧野の手を握ったまま走り続け―――

 ちらりと振り向けば、牧野も懸命に俺の手を握り、走っていた。

 そして、その向こうにはあきらと総二郎に抑えられている司の姿が見えた。

 「お前ら、ふざけんな―――!」


 暫く走り続けた俺は、牧野の息が苦しそうに響き始めたのを感じ、足を緩めた。
 もう、司の姿はなかった。
 「・・・・・後悔、しない?」
 手を繋ぎ、ゆっくり歩きながら牧野の顔を見つめる。
 牧野が俺を見上げ、にっこりと微笑んだ。
「するわけ、ない。道明寺にはすごく悪いことしたって思うけど・・・・・。でも・・・・・もう、自分に嘘はつけない」
 揺ぎ無い、牧野の瞳。
 ずっと、見守ってきた牧野。
 司と一緒に幸せになるなら、それでいいと思ってた。

 だけど今は・・・・・・

 「幸せに、するよ」
 俺の言葉に、牧野が驚いて俺を見上げる。

 目の前には、小さな教会。
 おれたちはその前に立ち、お互いを見つめた。
「たとえ何があっても、もうこの手は離さない。俺がきっと幸せにしてみせるから・・・・・。俺に、ついてきて・・・・・」
「類・・・・・」
 牧野の大きな瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。

 「・・・・・愛してる・・・・・」
 そっとその体を抱きしめ、耳元に囁く。
「類・・・・・あたしも・・・・・愛してる・・・・・」
 涙声で紡がれる牧野の言葉。
 その言葉がゆっくりと俺の胸に響いてきたころ―――

 目の前の教会の鐘が、静かに鳴り始めた・・・・・。

 俺たちは自然に体を離すと、そのまま見つめあい―――

 ゆっくりと、唇を重ねた。

 鐘の音が鳴り終わるまで、何度も口付けながら。

 俺たちは、永遠の愛を誓った・・・・・。


                            fin.





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