きみとちぇりーぱい vol.1


 「―――ただいま・・・」
「お帰り、蘭」
 その日、部活を終え、帰ってきた蘭を快斗が玄関で迎えた。
「快斗、あの・・・」
「とりあえず、飯にしよう。今日は、俺が作ったから」
「え、快斗が?ホント?」
「なんだよ、その顔。俺だって飯くらい作れるぜ?蘭みたいにうまくはねえけどさ」
 冗談めかして言う快斗に、蘭は安心したように笑顔になる。
「ありがと・・・。じゃ、わたし着替えてくるね」
「ああ」
 部屋に入っていく蘭を見送り、快斗は小さく溜息をついた。
 あれから・・・蘭は、新一のことを快斗に説明してくれた。
 新一とは幼馴染で、新一がアメリカへ渡る小学校6年生の頃まで、本当に毎日のように遊んでいたこ
と。「結婚の約束」というのがよくある小さな子供の頃の話だということ。
 蘭がそのことを一生懸命快斗に説明している間、新一は終始ニヤニヤと笑い聞いていた。
「蘭にとっては子供の頃の他愛のない約束だったとしても、俺は本気だった。ずっとな。だからこそ、
日本に帰って来て、この高校に入ったんだ」
 新一はそう言い切って、快斗のことを睨みつけたのだ。
「俺は、必ずあんたから蘭を奪って見せる。必ず、な・・・」


 「うん、おいしい!!」
 蘭が、快斗の作った料理を食べて言った。
「マジ?」
「うん!すごくおいしいよ。快斗、料理上手なんだね?」
「あんまり褒めんなよ、俺、調子に乗るから」
「うふふ。だって本当においしいもん」
 花がほころぶように笑う蘭に、快斗は思わず見惚れていた。
 ―――あいつになんか、渡せるかよ・・・。
 そんなことを思いながらも、口には出さずに、夕食の時間は穏やかに過ぎていった・・・。
 夕食の後、居間に寝そべってテレビを見ていた快斗の隣に、蘭が紅茶を2人分入れて来て座った。
「はい、快斗」
「ああ、サンキュー」
 体を起こした快斗は、紅茶を一口飲んでから、蘭の肩を抱いた。蘭も、そのまま体を預けている。
「蘭・・・」
「ん?」
「俺・・・蘭のこと、信じてるから」
 蘭が、顔を上げて快斗を見た。
「快斗・・・」
「あいつのことは気にいらねえけど・・・。蘭の気持ちを、疑ったりはしねえから。だから、蘭も俺に
隠し事はしねえでくれよな」
「うん。約束する。わたし・・・快斗が大好きだよ」
「蘭・・・」
 2人は見つめあい、自然に唇を合わせた。何度も角度を変えながら、次第に深くなっていく口付けに
、蘭の息が上がってくる。
「んっ・・・ふ、んん・・・」
 切なげに眉を寄せる蘭の顔をそっと見つめ、漸くその唇を離す快斗。
 口を半ば開いて、荒い呼吸をしながら潤んだ瞳で、快斗を上目遣いで見つめる蘭。
 その表情に、快斗の体が熱くなる。
「蘭・・・」
 もう一度熱く囁いて、その唇を塞ごうとした、その時・・・

『Purrrrrrrrrrrrr・・・・・・・・』

 絶妙のタイミングで鳴り出す電話。
 ガクッと肩を落とした快斗を置いて、慌てて電話に出る蘭。
「はい、もしもし・・・あ、お母さん。うん、元気よ。・・・え?うん、知ってるけど・・・ええ?・
・・でも・・・・うん・・・うん・・・分かった・・・うん。じゃあね」
 電話を置いた蘭の表情は、どことなく曇っていた。
「どうした?蘭。電話。お義母さんから?」
「うん、そうなんだけど・・・」
 どうも、歯切れが悪い。
「なんだよ?どうしたんだ?―――俺に言えないこと?」
 自然と低くなる声に、蘭ははっと顔を上げる。
「ち、違うの。あの・・・新一のことで・・・」
 その名前を聞いた途端、快斗の顔が不機嫌に歪む。
「あいつが・・・何?」
「今度の日曜日、新一のところに、レモンパイを作って持ってってあげて欲しいって・・・」
「はァ?レモンパイ?何で?」
「新一の大好物なのよ、レモンパイ」
「そうじゃなくってさ、なんでそれを蘭が持っていくんだよ?」
「詳しいことはよく分からないんだけど、お母さんの仕事を手伝ってもらったんだって、新一に。それ
で、お礼は何が良いかって聞いたら、新一がわたしの作ったレモンパイが食べたいって・・・」
「お義母さんの仕事を手伝ったって、どういうことだよ?」
「詳しいことは新一から聞いてくれって」
「で、OKしたのか?」
「うん。だって、お母さん、約束しちゃったって言うし・・・。ごめんね、快斗」
 上目遣いで謝る蘭。
 快斗は溜息をついた。
「んな目で見んなよ。怒れなくなんだろ?」
「快斗・・・」
「日曜日・・・俺も行って良いんだろ?」
「うん!もちろん。ありがとう、快斗」
 嬉しそうに微笑む蘭に見惚れながらも、快斗はちぇっと舌打ちしてそっぽを向いた。
 蘭が、快斗の隣に座り、ちょこんとその肩に頭を乗せた。
「快斗、大好き・・・」
 満足そうに紅茶を飲む蘭を、ちょっと恨めしそうに見ていた快斗だったが・・・。
「ら〜ん」
 突然、何かを思いついたように満面の笑みを浮かべて蘭の肩を抱く。
 蘭は、快斗の何か企んでいるような声にはっとし、思わずあとずさる。
「な、何?快斗?」
「風呂、入ろう。一緒に」
「え・・・」
 蘭の顔が、一気に赤くなる。
 夫婦になってから、一緒にお風呂に入ったことはまだ1度しかない。とにかく蘭はそういうことを恥
ずかしがってしたがらないのだ。快斗がいくら誘っても、なんだかんだとはぐらかされていた。だが、
今日は・・・
「良いだろ?」
「で、でもわたし、その・・・」
 逃げ腰の蘭の体をしっかり捕まえ、迫る快斗。蘭も、今日は快斗に対して強く出れないので、本気で
焦っていた。
「俺たち夫婦だぜ?良いじゃん、それくらい。それとも蘭は、俺のこと愛してないわけ?」
「そ、そんなわけないじゃない!」
「だったら、良いだろ?蘭v」
 有無を言わさぬ笑顔。蘭は、溜息をつき、囁くように呟いた。
「―――分かったわよ」
「ん。いい子だ」
 快斗は蘭の頬に軽くキスをすると、そのまま蘭を抱き上げ、風呂場に向かったのだった・・・。


 ―――日曜日。
「でけえ家・・・」
 新一の家についた快斗と蘭。邸宅という言い方が相応しいような新一の家を見上げ、快斗は目を丸く
した。新一の家族についても蘭から聞いている。父親は有名な推理小説家で、母親は元女優。なるほど
、と納得するような家だった。
 蘭が、門に付いている呼び鈴を鳴らすと、ほどなく新一の声が聞こえた。
「開いてるから、入れよ」
 2人は、そのまま玄関のドアを開け、中に入った。
「いらっしゃい」
 と、新一が出迎える。
「あの、新一、これ・・・」
 と、蘭が焼いてきたレモンパイを差し出すと、
「サンキュー。上がってくれよ。まさか、これだけ置いてさっさと帰るわけじゃねえだろ?」
 新一が蘭を見て、にやっと笑う。
「え、でも・・・」
「話したい事もあるしさ、とにかく中に入ってくれよ」
 そう言いながら、新一はさっさと入っていってしまう。蘭は戸惑ったように快斗を見上げた。
「―――ああ言ってんだから、上がってくか」
 快斗が肩を竦めて言うと、蘭も頷き、2人は新一のあとについて行った。
「何飲む?蘭は紅茶だろ?」
 リビングのテーブルにつき、新一が2人の顔を見比べて言う。快斗は、新一の言葉に挑戦的なものを
感じ取りむっとしたが、表面上はポーカーフェイスを装っていた・・・。
「あ、お茶ならわたしが入れるよ」
「わりい。置いてあるところは昔と一緒だから」
「うん、分かった」
 蘭が行ってしまい、快斗と新一の2人だけになると、新一は快斗を見てにやりと笑った。
「なんだよ?」
「いや・・・親父さんと一緒でポーカーフェイスが得意なんだなと思ってな」
 新一の言葉に、快斗の表情が一瞬険しくなる。
「おめえ・・・俺の親父のことを・・・」
「ああ、知ってるよ。有名なマジシャンだろ?黒羽盗一って言ったか。あんたもマジシャン目指してる
んだって?」
「・・・・・」
「後継ぎってわけか?―――ついでにあっちのほうも引き継ぐのか?」
「―――あっち?」
「そう、あっち・・・。あんたの親父のもうひとつの顔だ」
 新一の瞳が、きらりと光った。
「・・・何のことだ」
「とぼけても無駄だぜ?とっくに調べはついてんだ。あんたの親父が、あの怪盗キッドだったってこと
はな!」
 快斗が、椅子をけって立ち上がる。『がたん!!』という大きな音が鳴り、トレイに3人分のカップ
を乗せて入って来た蘭が、びくっと立ち止まった。
「快斗?どうしたの?」
「!蘭・・・。いや、何でもねえよ」
 快斗は、いつものポーカーフェイスに戻り穏やかに微笑むと、椅子に座りなおした。
 新一は、そんな快斗を見て面白そうにニヤニヤと笑っている。
 ―――こいつ・・・一体何者なんだ・・・。どうして、誰も知らないはずの親父のことを・・・?
 今すぐ問いただしたかった。だが、蘭にはまだ聞かれていない。蘭の前で、まだそれを言うわけには
いかなかった。いずれは、言わなければならないことと、わかってはいたが・・・

 3人にレモンパイを切り分ける蘭を挟み、2人の男の間に緊迫した空気が流れ始めたいた・・・。



 

 やっと続きがかけました〜♪本当は12月にUPする予定だったんですけどね。クリスマス企画に時間
を取られ・・・。結局年が明けてしまいました。このお話は、とにかく快蘭のラブラブが描きたかった
んですけどね。予想以上に新一の意地悪さが目立ってますね(笑) 新一ファンの方ごめんなさい。
感想とかいただけたら嬉しいです〜♪
 それでは♪