「蘭・・・」

「なあに?快斗」

「愛してるよ」

「わたしも」

「蘭」

「なあに?」

「結婚しよう」

「―――うん!!」
 
    
きみとちぇりーぱい
 
〜プロローグ〜
         快斗は、その日も愛しい妻の声で目を覚ました。
       「快斗、起きて。朝食できてるよ」
       「ん―・・・蘭、キスして」
    「はいはい」
      蘭はクスクス笑いながら、快斗の唇に優しくキスをした。と、突然腕を伸ばし蘭を抱き寄せる快斗。
    「!」
          蘭が驚いて唇を離す前に、その体を抱きこみ、深く口付ける。
          散々その可愛い唇を味わい尽くした後、やっと快斗は腕を緩めた。
          すっかり息の上がってしまった蘭が、潤んだ瞳で快斗を見る。
    「もう・・・」
    「へへ、おはよ、蘭。今日も可愛いぜ」
     しれっと言う快斗に、仕方なく蘭も苦笑いする。
    「ありがと。ね、顔洗ってきて。ご飯食べよ?」
    「OK」
     漸く快斗はベッドから出ると、顔を洗いに洗面所へ行った。蘭はキッチンへ行き、落としたばかりの
    コーヒーをカップに入れ2人分のカフェ・オ・レを作って食卓へ運んだ。快斗もやってきて、2人で席
    につく。
    「お、今日もうまそー。俺、蘭の作るスクランブルエッグ、すげー好き」
    「ふふ、ありがと。じゃ、いただきまーす」
    「いただきまーす」
     2人でこのマンションに住むようになって、2ヶ月が経っている。帝丹高校3年生でプロのマジシャ
    ンを目指している快斗と、同じく2年生で空手部に所属し今年の都大会では見事優勝を果たした蘭は、
    今年6月、快斗が18歳の誕生日を迎えたその日にめでたく入籍した新婚ほやほやのカップルである。
     この事を知っているのはお互いの親とごく親しい友人。そして学校の校長、教頭とお互いの担任の教
    師だけ。もちろん一緒に住んでいることも秘密なので登下校も別々にしている。
    「蘭、そろそろ時間じゃねーか?」
     と、快斗が壁にかけられた時計を見て言った。
    「あ、ホント。じゃ、行ってくるね」
    「おー、気をつけてな」
     と言って、快斗は蘭を玄関まで行って送り出した。
     蘭は、毎朝空手部の朝練で快斗よりも1時間くらい早く出ているのだ。
    「さて、やるか」
     と、1人呟きリビングに戻ると、テーブルの上にある皿を片付け、それを洗った。家での役割分担は
    、自然に決まってきていた。食事を作るのは蘭、後片付けは快斗、洗濯は蘭、お風呂掃除は快斗、部屋
    の掃除は2人で・・・という感じ。
     もちろん若い2人の結婚、反対されないわけがない。特に蘭の父親、小五郎はなかなか許してくれず
    ・・・。まあそれは最初に予測できたので、まず快斗は自分の母親に打ち明けた。一流のマジシャンだ
    った父が死に女手一つで快斗を育ててくれた母。驚きはしたものの、笑顔で許してくれたときは、心底
    感謝した。
     そして蘭の母、英理。10年前から別居している蘭の両親は英理が弁護士、小五郎が探偵をしている。
     英理ももちろん驚き、心配もした。でも2人の決意が固いと知り、許してくれたのだ。そして問題の
    小五郎・・・これはもう、頭ごなしに反対された。いきなり水をぶっ掛けられ、放り出され・・・。話
    をする暇など皆無だった。何度も何度も足を運んだが、全く相手にされず・・・。それが、急に話を聞
    いてくれると言い出したのは、快斗の誕生日の1週間前だった。どうやら英理が蘭の為に一肌脱いだら
    しいのだが・・・詳しいことは、英理も小五郎も未だに教えてはくれないのだった。
     とにかく話を聞いてくれると言う小五郎のもとへ行き、快斗は真剣に話をした。そして漸く小五郎の
    許しを得ることが出来たのだった・・・。
     学校のほうにも報告した。校長、教頭、そしてそれぞれの担任に・・・。皆一様に驚き、反対したも
    のの2人の親が認めており、しかも弁護士の英理が認めているのでは、渋々認めざるをえず・・・。そ
    して、晴れて2人は結婚することが出来たのだった。
     しかし、最初2人は一緒に住む予定ではなく・・・。とりあえず籍を入れて、式を挙げたり新居に2
    人で住むのは高校を卒業してから、と言っていたのだが、快斗の母親が、「結婚したら一緒にいるべき」
    と言い、快斗の死んだ父が生前仕事のために購入し、ほとんど使われていなかったマンションに住める
    ようにしてくれたのだ。それが今の新居、というわけだ。生活費などはまだ親に援助してもらっていた
    が、受験が終わり、快斗が大学へ進んだらアルバイトを始めるつもりだった。
     快斗は愛する蘭のためならどんなことでもするつもりだった。一緒にいられるのなら、家事をするの
    もいやだと思ったことはなかった。いや、それさえも幸せに感じる―――まさに、今2人は幸せの絶頂
    期にいるのだった・・・。


     「らーん、おっはよー」
     空手部の朝練を終え、蘭が自分の教室へ行くと、親友である園子が笑顔で言った。
    「おはよう、園子」
     蘭も笑顔で返し、園子のそばへ行った。園子は蘭と快斗の関係をしている人間の一人だった。
    「今朝、快斗さんに会ったわよ」
    「あ、ホント?」
    「うん。わたしは挨拶しただけだけど。相変わらず人気者よね、快斗さん。心配じゃない?」
    「え・・・全然心配じゃないって言えばうそになるけど・・・でも、信じてるもん」
     と、ニッコリ微笑む蘭を見て、園子は半ば呆れ顔で、
    「はいはいごちそうさま」
     と言ったのだった。
    「あ、そういえば、昨日1年にかなりイケメンの男の子が転校してきたらしいわよ」
    「ふーん、1年生のことまで良く知ってるね、園子」
    「そりゃあ、イイ男ゲットするためにはね。1年生だったら守備範囲だし」
     と笑う園子に、苦笑いする蘭だった。
     蘭が結婚すると言ったとき、園子は本当にビックリしていた。でも、反対したりはせず、ただ羨まし
    がり、そして応援してくれたのだ。
    「もしみんなにばれて、蘭が辛い思いをすることがあっても、わたしは蘭の味方よ?だから困ったこと
    があったら言ってねっ、絶対力になるからっ」
     と真剣な目をして蘭に言ってくれた。それが蘭には本当に、涙が出るほど嬉しかったのだ・・・。
     結婚していることを隠しながら通う学校。一応付き合っていることにはなってはいるものの、必要以
    上にべたべたしたりすることは出来ない。それでも2人はそんな高校生活を楽しんでいた。学校内で目
    があったり、姿を見つけたりするだけで幸せになれる毎日・・・。そんな充実した生活に、影を落とす
    存在が現れることなど、このときの2人は想像もしていなかったのだ・・・。


     3時間目の終わり、快斗は自分の教室の、自分の席に座っていた。
    「お、あれ毛利さんじゃん」
     と言ったのは、前の席に座っている山田。快斗と蘭が結婚していることは知らないが、付き合ってい
    ることは知っていた。 
     快斗がそっちを見ると、快斗の教室の窓から向かい側の校舎の廊下が見え、その2階、蘭のクラスの
    横の廊下を蘭が園子と歩いているところだった。
    「やっぱかわいいよなあ、彼女・・・。あ―あ、な―んで可愛い子にはみんなもう相手がいんのかね」
     しみじみと言う山田を見て苦笑いし、蘭に視線を戻す。園子と楽しそうに話しながら歩く蘭。快斗は
    蘭の笑顔が大好きだった。
     ―――あの顔見てると癒されるんだよなあ・・・。ん・・・?
     ふと、蘭の歩く廊下の先に立っていた男子生徒に目が行く。
    「あれえ?あいつ、なんだかおまえに似てねえか?あんなやつ、うちの高校にいたっけ?」
     と、山田もその男に気付いて言う。そう、その見慣れない男子生徒は快斗にそっくりだったのだ。そ
    して、男がじっと見つめているのは―――蘭だった。
     蘭が、男に気付き足を止める。男が、蘭を見て微笑んだ。蘭の目が、驚きに見開かれ―――その唇が
    何かを呟く。と、それが合図になったかのように、男が蘭に駆け寄り・・・なんと、蘭の身体をぎゅっ
    と抱きしめたのだ。
    「な!!」
     ガタンッと大きな音を立てて、快斗が席を立つ。
    「・・・んだよっ、あれ・・・!」
    「お、おい、快斗、落ち着けって・・・」
     快斗の顔が怒りに歪んだのを見て、山田が慌ててなだめようとする。が、快斗に山田の声は聞こえな
    い。
     蘭が真っ赤になって男から離れようとするが、男は離そうとせず、蘭の耳元で何か囁いた。蘭が驚い
    て、男の顔を見る。男はニヤッと笑いながら、蘭の頬に軽く自分の唇を触れたのだ。
    「!!―――んのやろォ!」
     頭に血が上り、そのまま教室を飛び出そうとした快斗の腕を誰かががしっと掴む。
    「!離せよ!」
     と言って、その手を振り解こうとする―――が、
    「黒羽、4時間目が始まるぞ。席につけ」
     と、厳しい声で言ったのは快斗の担任であり、4時間目の古典の教師である河村だった。がっしりと
    した河村に腕をつかまれ、快斗は仕方なく席に戻る。チラッと向かい側の校舎を見ると、もう蘭も男の
    姿もなくなっていた・・・。
     ―――クソッ、誰なんだあいつは!蘭の知ってるやつなのか・・・?何であんな・・・熱い目で蘭を
    見るんだよ!?何で、蘭はもっとちゃんと拒絶しねーんだよ!?
     もう快斗の頭には、授業の内容など入ってこなかった。先ほどの蘭と男のシーンで埋め尽くされ、今
    すぐ蘭のもとへ行きたい衝動を抑えるだけで精一杯だった・・・。


     4時間目が終わるチャイムが鳴り終わる前に、快斗は教室を飛び出していた。それはまさに疾風のご
    とくー――目にもとまらぬ速さで、まだ教室にいた河村が、
    「今、何か通ったか・・・?」
     と呟くほどだった・・・。
    「蘭!!」
     その数秒後、快斗は蘭の教室の戸を勢いよく開け放った。クラス中の生徒たちの視線が快斗に集中す
    る。
    「か、快斗!?」
     蘭が目をぱちくりさせる。
     快斗はずんずんと教室の中に入り、蘭の腕を掴むと、そのまま教室の外へと連れ出した。
    「ちょ、ちょっと快斗!?どうしたの!?」
     わけがわからない蘭は、快斗に引っ張られながらそう聞いたが、快斗はただ無言のまま蘭の腕を引っ
    張り、先に立って歩いていた。そのまま屋上まで蘭を連れて行き、そこでやっと蘭の腕を離した。
    「―――どうしたの?快斗」
     いつもと様子の違う快斗に戸惑いながら、蘭が言った。
    「―――誰だよっ?」
     低く、絞り出すような声で快斗が言った。
    「え?」
    「誰なんだよ、あいつ!?」
    「あいつって―――」
    「さっき!廊下でオメエのこと抱きしめて、キスしたやつだよ!」
     怒鳴るようにそう言った快斗に、蘭はハッとした。
    「―――見て、たの・・・?」
    「―――偶然、な」
     低い声で言う快斗。その顔には表情がなかった。本気で、怒っているのだ。
    「あの―――」
     と蘭が口を開きかけた時―――
    「俺から説明しようか?蘭」
     という声が、屋上の入り口から聞こえ・・・
    「し、新一!」
     振り向いた蘭が、その人物―――さっき蘭を抱きしめた男に、驚いて言った。
     快斗は男を親しげに呼ぶ蘭に顔を顰め、その男を睨んだ。
    「どうして―――」
    「蘭に会いに行ったら、2人で教室出て行くのが見えたから、追っかけてきた―――。あんたが黒羽快
    斗?」
     その男はゆっくり近づいてくると、挑むような目で快斗を睨んだ。その視線を真っ直ぐに返しながら
    、快斗は言った。
    「なんだよ、テメエは」
    「俺は工藤新一。昨日、この学校に転校してきた」
    「―――1年か」
    「ああ」
    「蘭とどういう関係だ?」
     快斗が聞くと、新一はニヤッと笑い、
    「結婚の約束をした仲―――だよ」
          と言ったのだった。




      以前、日記でちょっとだけ紹介した小説です。一昔(二昔?)前にドラマでやってた「だんな様は
     18歳」風になっちゃいました。自分で快蘭新の小説やってて、どうしてもワンパターンになってしまう
     なあと思っているときに浮かんだお話です。「ああ、わたしが書きたかったのはこれなんだ」とか思って。
     そのときに題名も決まってしまいました。皆さんにも気に入っていただけると嬉しいな♪
     感想とかあったら、BBSのほうにバンバンくださいね!