右腕に微かな重みを感じ、目を覚ます。
横になるだけのつもりが、いつの間にか本当に眠ってしまっていた。
ゆっくりと頭を巡らし、ベッドに突っ伏すようにして寝ているその人物を目に入れ、あたしは思わずがばっと体を起こした。
あたしの右腕にちょうど頭を乗せるようにして寝ていた美作さん。
あたしが体を起こすと、その瞼を開いた。
「ん・・・・・なんだ、起きたのか?」
目をこすりつつ体を起こす美作さん。
あたしはドキドキと早鐘を打つ胸を押さえるように、布団を引っ張り上げた。
「な・・・・・なんで美作さんがここで寝てんの?」
「なんでって・・・・・。お前が、1人じゃ心細いって言ってたから」
「ずっと・・・・・ついててくれたの?」
「ああ。寝ちまったけどな。安心しろ、何もしてねえから」
にやりと笑ってあたしを見る目は、ちょっと意地悪で。
それが余計にあたしの胸を締め付ける。
「どうせ・・・・・」
「は?」
「どうせ、あたしなんか相手に変な気なんか起きないって言うんでしょ?美作さんは」
あたしの言葉に、美作さんが目を丸くする。
「何言ってんだよ?」
「美作さんにとっては、あたしなんか女じゃないもんね」
なんでだかわからない。
急に熱いものが胸に込み上げてきて、止めることができなかった。
布団を握る手に、ギュッと力を込める。
「あたしがすぐ傍で寝てたって、何も感じないんでしょ?妹みたいだって、そう言ってたし。でも、あたしは美作さんのことお兄ちゃんみたいだなんて思ったこと一度もない。あたしは―――」
「おい、牧野?」
「あたしは―――美作さんが、好きなのに―――」
気付いたら、涙が頬を伝っていた。
美作さんが、驚いた顔であたしを見てる。
「お前・・・・・だって、お前には総二郎と類が・・・・・」
戸惑ったように美作さんが言うのに、あたしは首を横に振る。
「あの2人のことは、友達以上には思えないの。すごく大事な人たちだけど・・・・・。あたしは、美作さんが好きなの」
じっとあたしを見つめる美作さん。
どうやって断ろうか考えているみたいで、なんだか胸が苦しくなる。
「・・・・・ごめん、急に。美作さんがあたしのことそんな風に見てないってわかってるのに―――」
「なんで?」
「え?」
「なんでそうやって決めつける?俺がお前を女として見てないって、誰が言った?」
あたしは驚いて美作さんの顔を見た。
「だって・・・・・」
「お前が、あの2人に挟まれて困ってるみたいだったから」
なんとなくバツが悪そうに顔をしかめる美作さん。
「言えないだろ、俺も牧野が好きだなんて」
言われた言葉が信じられなくて。
ぽかんと、馬鹿みたいに口を開けていた。
「ずっと・・・・・好きだったよ、おれだって。でも、お前を困らせたくなかった。お前が俺のとこに来て安心するんならおれはそれでいいと思ったんだ。お前の兄貴役でいいって。まさか―――おまえがそんな風に思っててくれてたなんて知らなかった。ごめんな、俺が言った言葉で傷つけて」
優しく、あたしの頭をなでる美作さんの温かい手。
涙が、止まらなかった。
「泣くなよ・・・・・。お前の涙には、弱いんだ」
困ったように苦笑する美作さん。
あたしは慌てて手の甲で涙を拭った。
「ごめ・・・・・だって、うれしくて・・・・・」
そんなあたしを見つめる瞳が、甘く潤む。
「俺も・・・・・うれしいよ」
そっと、頬に添えられる掌。
ドキッとして顔を上げれば、すぐ間近に美作さんのきれいな顔。
心臓の音が、聞こえちゃうんじゃないかと思うくらいあたしは緊張してしまって。
そんなあたしを優しく包み込むように、美作さんの手が優しくあたしの髪をなで、唇が重ねられた。
優しく、甘く。
何度も繰り返されるキスに、酔いしれそうになった時―――
「お前ら、何してんだよ!?」
突然割って入ってきた声に驚き、美作さんから離れようとして、逆に抱き寄せられてしまった。
部屋の入り口を見ると、そこにはいつの間にか入ってきていた西門さんと花沢類。
「あきら、これどういうこと?」
2人の鋭い視線が突き刺さる。
だけど美作さんは相変わらず落ち着いていて。
「どういうことって、こういうことだよ」
そう言って肩をすくめる。
「俺も、牧野に惚れてる」
「んなことは知ってる。だから、牧野が最近お前の家に入り浸ってるって聞いて心配で」
「牧野も俺が好き。おれたちは晴れて恋人同士ってわけだ」
にやりと不敵な笑みを浮かべる美作さんに、西門さんは体をわなわなと震わせ、花沢類は眉間に皺を寄せ、あたしたちを睨みつけた。
「ふざけんなよ!」
「俺たちはいたって真剣だぜ?なあ、牧野」
その言葉にあたしは頷き―――
そろそろとベッドから離れようとする美作さんの動きに合わせ、ゆっくりとベッドを下りる。
「ずっと自分の気持ちかくして牧野の兄貴役気取ってたくせに、いまさら―――」
あたしがベッドから降りたと見ると、美作さんは突然あたしの手を握ったまま全速力で走りだした。
呆気にとられている2人の横をすり抜け、廊下を駆けていく。
「おい!待てよ!」
「牧野!!」
「悪いな、後で埋め合わせはしてやるよ!こいつだけは、譲れねえんだ!」
晴れやかな笑顔とともに響き渡る美作さんの声。
うれしくて。
知らずに、笑顔が浮かんでた。
「ごめん!あたし―――美作さんが大好きなの!」
そう2人に向かって叫び。
そのまま2人、光の煌く夜の街へと駆けて行ったのだった・・・・・。
fin.
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