***いつも一緒に vol.1 〜あきつく〜***



 
 「で?類と2人でいるところを総二郎に見られて、総二郎に怒られたと」
 美作さんが、半ば呆れたように言う。
「怒られたっていうか・・・・・オーラがね、怖いんだよあの人。笑いながら青筋立ててるみたいな」
 あたしの言葉に、ぷっと吹き出す。
「あーわかるわかる。あいつってそうかもな。あいつ自分が惚れられることのが多いから、お前が自分に惚れないってことがまず頭に来るんだろうな。マジで口説いてんのに」
「笑い事じゃないよ。それで、花沢類は相変わらずだし。西門さんの前で平気でキスしてきたりするから、余計に怒らせてるのに・・・・・あれってわざとかな?」
「さあな。あいつもお前に関しちゃ感情的になるとこあるし。外野は見てておもろいけどな」
 肩をすくめて気のない様子でそう言う美作さん。
 なんとなく、その様子が憎たらしかった・・・・・。


 道明寺がN.Yへ行き、結局別れることを選択したあたしたち。

 最近になって、滋さんと婚約したと聞いた。

 ショックじゃなかったと言えば嘘になるけど、今は素直に2人を祝福したい気持ちのほうが大きかった。
 2人とも、あたしにとっては大事な人たちだから……。

 あたしの身の回りにも変化があり、高校を卒業したあたしのそばにはいつも花沢類がいて、そこへいつの間にか西門さんまで加わるようになった。
 2人の思いはうれしいのだけれど、あたしはどちらも選ぶことができなかった。
 2人とも、大事な仲間。
 失いたくはないけれど、それと恋愛感情は違うような気がして・・・・・

 そんなあたしが最近通っているのがここ、美作さんの家だった。

 上流階級には違いないけれど、他の家のような堅苦しさはなくて、かわいい双子の妹さんとおしゃべりしたり、可愛い美作さんのお母さんの手作りお菓子をいただいたり。
 賑やかであったかいこの家の雰囲気が好きだった。
 それでいてどこか現実離れしているこの家が、殺伐とした現実を忘れさせてくれていた。

 そしてそんなあたしをいつも呆れながらも温かく見守ってくれる人、美作あきら。
 ちょっと前に年上のマダムと別れたとかで、最近は家にいることが多かった。
 だから自然に、美作さんと2人でいることも多くなって・・・・・
 大人な彼といるのは何となく安心できた。
 何でも話せる人。
 そう思ってたんだけど・・・・・。  

 『もう1人妹ができたみたいだな』

 美作さんが何気なくそう言った言葉が、なぜかあたしの胸を締め付けた。

 お兄ちゃんがいたらこんな感じ?

 そりゃあこんな兄弟がいたら理想だけど。

 ふと、弟の進の姿が脳裏に浮かぶ。

 やっぱり違う。

 とてもそんなふうには思えない。

 あたしは、美作さんのことが・・・・・

 「牧野?どうした?」
 美作さんの声にはっとする。
「な、何でもない」
「顔、赤いぞ。熱があるんじゃねえのか?」 
 スッと、美作さんのきれいな手があたしの額に触れた。

 ドキンと心臓が高鳴り、顔が熱くなる。
「やっぱり、ちょっと熱いんじゃねえか?ベッド貸してやるから少し横になれば」
「え、でも・・・・・」
「それとももう帰るか?それなら送ってくけど」
 反射的に首を横に振っていた。

 ―――まだ、離れたくない・・・・・


 連れて行かれたのは客間の1つだった。

 高級ホテル並にきれいなその部屋の、天蓋付きのベッドにちょっと躊躇する。

 「横になってろよ。あとで起こしに来てやるから」
 そう言って部屋を出て行こうとする美作さんの腕を、思わず引っ張る。
「行っちゃうの?」
「は?」
 目を丸くしてあたしを見る美作さんに、あたしは慌てて手を離した。
「あ、その―――この部屋広すぎて、1人じゃちょっと心細いかなって」
「何しおらしいこと言ってんだよ。そんな玉じゃねえだろ?」
 こつんと頭を小突かれ、ふらりとよろける。
「ほら、とりあえず寝てろよ、いいな」
「・・・・・うん」
 素直に頷き、ベッドに向かう。
 あたしが横になったのを見届けると、美作さんはちょっと笑って見せ、部屋を出て行ってしまった・・・・・。

 布団を引き上げ、ギュッと目を閉じる。  

 美作さんは、あたしのことをただの友達としてしか見ていない。

 そんな当たり前の現実が、無性に悲しかった。

 何も考えたくなくて―――

 いつの間にか、あたしは眠りに落ちていた・・・・・。





  

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