-tsukushi-
しびれるような甘いキスに酔いそうになり、思わずふらつくあたしを、類の腕が支える。 「・・・・・そんなによかった?」 「ばか」 「バッグ、落ちたよ」 いつの間にか足元に落ちていたバッグを類が拾ってくれる。 「あ、ありがと」 その瞬間、バッグから何かが落ちる。 「何か落ちたよ」 類が拾い上げてくれたのはピンクの紙袋。 あたしには見覚えのないものだった。 「なんだろう?そんなのあたし、入れた覚えない」 「・・・・・誰かからのプレゼント、じゃないの?」 類が横目でちらりとあたしを見る。 「まさか・・・・誰かが間違って入れちゃったんじゃないかなあ。開けちゃまずいかな」 「いいんじゃない?開けなきゃ誰のかわかんないし」 「そうだよね。じゃ・・・・・」 そう言ってその袋の口を開けてみる。 「あれ・・・・・?これって・・・・・・」 入っていたものを出してみる。 「・・・・・ブラジャー?」 類も目を丸くしてみてる。 そう。入っていたのはブラジャーだった。しかも・・・・・ さっき、類のベッドから見つけたものとお揃い・・・・・というか、セットだろう、これは。 「・・・・・やっぱり、総二郎のいたずらだよ。あ、ほら、手紙が入ってる」 そう言って、類が紙袋の中から四ツ折にされた紙を取り出した。 「どれ?・・・・あ、ほんとだ。総二郎って書いてある」 あたしはその紙を覗き込み、その下の方に描いてある名前を目に留めて言った。 「もう!人騒がせなんだから。今度会ったらぶん殴ってやんなくちゃ」 そう言ってる傍で、なぜか類はその紙をじっと見つめている。 「類?どうかした?」 あたしが類の顔を覗き込んでも、類はあたしを見ないでじっと紙を見つめたまま。 「類ってば、どうしたの?何か―――」 そう言った途端、類がぱっと顔を上げた。 「―――これ、どういうこと?」 そう言って、紙を突きつけられる。 珍しく、怒った類の顔。 「へ?これ・・・・・・?」 その紙を受け取り、書いてある内容を読んでみる。
『ホワイトデーはこれであま〜いひと時を
牧野にぴったりのサイズ選んどいてやったからがんばれよ!!』
「これが・・・・・何か・・・・・?」 「何で、総二郎が牧野のサイズ知ってんの?」 「え・・・・・」 「胸のサイズ、分からなかったらこんなもの買えないよね。何でそれを総二郎が知ってるの?」
―――そういえば・・・・・
そう思ってブラジャーのサイズを確認する。 「やだ、本当にぴったり・・・・・なんで?」 「聞いてるのは俺だよ。これどういうこと?」 類の瞳に、嫉妬の炎が見え隠れしているようだった。 「し、知らないよ、そんなの」 慌てて首を振る。 「・・・・・服の上からなんて、普通見たってわからない。それがわかるのは・・・・・・直に触れてるから?」 「な!何言ってんの!?そんなわけ・・・・・!!」 その瞬間、類がすごい力であたしの手首を掴んだ。 「いたっ」 「・・・・・何もなかったって、確かめさせて」 「え・・・・・・?」 次の瞬間、あたしの体はベッドに横たえられ、類が上から覆いかぶさる様にしてあたしを見つめていた。 「総二郎と・・・・・何もなかったって、言い切れる?」 「あ、当たり前じゃない。何であたしと西門さんが・・・・・!大体、西門さんはあたしのことなんて女として見てないんだから!」 「・・・・・それはどうかな。最近、よく一緒にいるとこ見るし。総二郎、最近夜遊びとかしてないみたいだし」 「そ、そんなの知らないよ。あたしとは関係ないじゃない。一緒にいるのは、西門さんが最近まじめに講義受けてることが多いからで・・・・・・」 「牧野の存在が・・・・・そうさせてるんじゃない?」 相変わらず類の目は怒っていて・・・・・・ どう言ったらいいか頭をフル回転させていると、突然携帯の着信音が鳴り響いた。 ベッドの横に落ちていたバッグから、類が携帯を出す。 液晶画面にちらりと視線を走らせ、むっと顔を顰める。 「ほら、出れば?」 ぽんと枕元に投げられ、そっとそれをとってみて見ると、液晶画面に『西門』の文字・・・・・。 「もしもし、西門さん!?これ、どういうこと!?」 電話に出て、開口一番怒鳴ってやると、向こうでげらげらと笑う西門さんの声。 「ちょっと!笑い事じゃないんだから!ちゃんと説明してよ!あたしにも、類にも!」 『なんだよ、せっかくプレゼントしてやったのに』 「それが問題なの!大体あんなもの使わないし!何で西門さんがあたしのサイズなんか知ってんのよ!」 『ふーん・・・・・もしかしてそれでもめてた?』 おそらく電話の向こうでニヤニヤしているであろう西門さんに、頭に来る。 「ちょっと――――あっ」 突然、類があたしの手から携帯を取り上げた。 「総二郎。説明して」 その声音は、あたしでもぞっとするほどの怒りを含んでいた・・・・・・。
-rui- 『よぉ、類。なんだよ、んな怒る事でもねえだろ?』 能天気な総二郎の声に、さらにイライラが募る。 「いいから、答えてよ」 『わーかったよ。サイズはあれだ、こないだあきらと一緒に遊んでたとき、ちょうど牧野の弟に会ってさ、そんときに聞いた』 「何でそんなこと・・・・・」 『お前、牧野の家族とも仲良いんだろ?その話聞いて・・・・・な〜んかほのぼのしちまってるし、たまには変わった刺激があってもいいんじゃねえかと思って、思いついたんだわ。心配しなくても、俺と牧野の間にはなんにもねえよ』 「・・・・・それ、ほんと?」 『なんだよ、疑ってんの?』 「・・・・・最近、一緒にいること多いから。夜遊びもやめたって聞いたよ」 俺の言葉に、総二郎が沈黙する。 それは本当に最近感じてたこと。 大学のカフェテリアで、牧野と総二郎が一緒にいるところによく遭遇するようになった。 あきらも一緒にいることもあるけれど、総二郎と2人の確率が多いような気がして、気になっていたところだった・・・・・。 『へえ、さすが、牧野のことには目ざといな。ま・・・・・深く考えるなよ。今んとこ、特に意味はねえから』 「今のところ?」 『そういうことだ。今日はせっかくのホワイトデーだぜ?ちゃんと牧野に奉仕してやれよ。今度牧野に話聞くからな』 「・・・・・余計なお世話だよ」 電話を切り、バッグに戻すとそれをベッドの横に置いた。 「あの・・・・・類?西門さん、なんだって?」 牧野が心配そうな顔で俺を見上げる。 「・・・・・弟に聞いたって」 「進に?いつ・・・・・てか、あいつ、そんなこと勝手に教えて!」 ベッドに横になった状態で怒り出す牧野。 その牧野の頬に、そっと手を添えると途端に牧野の顔が赤く染まる。 「・・・・・すごく、心配なんだけど」 「な、何が?」 「総二郎のこと・・・・・あんまり、気を許さないで。2人きりに、ならないで」 「そんなこと言われても・・・・・・」 「牧野は、俺のものだから・・・・・他のやつには、触れさせたくない」 そう言ってキスを落とせば、瞳が潤み、熱を持ち始める。 「・・・・・ホワイトデーのプレゼント、用意してたんだけど・・・・・・今は、こっちが先」 「こっちって・・・・・」 「牧野に、触れたい」 そうしてもう一度キスを落とす。 今度は深く、熱い口付けを・・・・・・
気の済むまで牧野を愛して。 そのまま眠ってしまった俺たち。 翌日、目を覚ました牧野の左手の薬指には、ブルートパーズの石がはめ込まれた指輪が輝いていた・・・・・。
fin.
|