***2009 Whiteday Special 類編 vol.2***



 -tsukushi-

 しびれるような甘いキスに酔いそうになり、思わずふらつくあたしを、類の腕が支える。
「・・・・・そんなによかった?」
「ばか」
「バッグ、落ちたよ」
 いつの間にか足元に落ちていたバッグを類が拾ってくれる。
「あ、ありがと」
 その瞬間、バッグから何かが落ちる。
「何か落ちたよ」
 類が拾い上げてくれたのはピンクの紙袋。
 あたしには見覚えのないものだった。
「なんだろう?そんなのあたし、入れた覚えない」
「・・・・・誰かからのプレゼント、じゃないの?」
 類が横目でちらりとあたしを見る。
「まさか・・・・誰かが間違って入れちゃったんじゃないかなあ。開けちゃまずいかな」
「いいんじゃない?開けなきゃ誰のかわかんないし」
「そうだよね。じゃ・・・・・」
 そう言ってその袋の口を開けてみる。
「あれ・・・・・?これって・・・・・・」
 入っていたものを出してみる。
「・・・・・ブラジャー?」
 類も目を丸くしてみてる。
 そう。入っていたのはブラジャーだった。しかも・・・・・
 さっき、類のベッドから見つけたものとお揃い・・・・・というか、セットだろう、これは。
「・・・・・やっぱり、総二郎のいたずらだよ。あ、ほら、手紙が入ってる」
 そう言って、類が紙袋の中から四ツ折にされた紙を取り出した。
「どれ?・・・・あ、ほんとだ。総二郎って書いてある」
 あたしはその紙を覗き込み、その下の方に描いてある名前を目に留めて言った。
「もう!人騒がせなんだから。今度会ったらぶん殴ってやんなくちゃ」
 そう言ってる傍で、なぜか類はその紙をじっと見つめている。
「類?どうかした?」
 あたしが類の顔を覗き込んでも、類はあたしを見ないでじっと紙を見つめたまま。
「類ってば、どうしたの?何か―――」
 そう言った途端、類がぱっと顔を上げた。
「―――これ、どういうこと?」
 そう言って、紙を突きつけられる。
 珍しく、怒った類の顔。
「へ?これ・・・・・・?」
 その紙を受け取り、書いてある内容を読んでみる。

 『ホワイトデーはこれであま〜いひと時を

  牧野にぴったりのサイズ選んどいてやったからがんばれよ!!』

 「これが・・・・・何か・・・・・?」
「何で、総二郎が牧野のサイズ知ってんの?」
「え・・・・・」
「胸のサイズ、分からなかったらこんなもの買えないよね。何でそれを総二郎が知ってるの?」

 ―――そういえば・・・・・

 そう思ってブラジャーのサイズを確認する。
「やだ、本当にぴったり・・・・・なんで?」
「聞いてるのは俺だよ。これどういうこと?」
 類の瞳に、嫉妬の炎が見え隠れしているようだった。
「し、知らないよ、そんなの」
 慌てて首を振る。
「・・・・・服の上からなんて、普通見たってわからない。それがわかるのは・・・・・・直に触れてるから?」
「な!何言ってんの!?そんなわけ・・・・・!!」
 その瞬間、類がすごい力であたしの手首を掴んだ。
「いたっ」
「・・・・・何もなかったって、確かめさせて」
「え・・・・・・?」
 次の瞬間、あたしの体はベッドに横たえられ、類が上から覆いかぶさる様にしてあたしを見つめていた。
「総二郎と・・・・・何もなかったって、言い切れる?」
「あ、当たり前じゃない。何であたしと西門さんが・・・・・!大体、西門さんはあたしのことなんて女として見てないんだから!」
「・・・・・それはどうかな。最近、よく一緒にいるとこ見るし。総二郎、最近夜遊びとかしてないみたいだし」
「そ、そんなの知らないよ。あたしとは関係ないじゃない。一緒にいるのは、西門さんが最近まじめに講義受けてることが多いからで・・・・・・」
「牧野の存在が・・・・・そうさせてるんじゃない?」
 相変わらず類の目は怒っていて・・・・・・
 どう言ったらいいか頭をフル回転させていると、突然携帯の着信音が鳴り響いた。
 ベッドの横に落ちていたバッグから、類が携帯を出す。
 液晶画面にちらりと視線を走らせ、むっと顔を顰める。
「ほら、出れば?」
 ぽんと枕元に投げられ、そっとそれをとってみて見ると、液晶画面に『西門』の文字・・・・・。
「もしもし、西門さん!?これ、どういうこと!?」
 電話に出て、開口一番怒鳴ってやると、向こうでげらげらと笑う西門さんの声。
「ちょっと!笑い事じゃないんだから!ちゃんと説明してよ!あたしにも、類にも!」
『なんだよ、せっかくプレゼントしてやったのに』
「それが問題なの!大体あんなもの使わないし!何で西門さんがあたしのサイズなんか知ってんのよ!」
『ふーん・・・・・もしかしてそれでもめてた?』
 おそらく電話の向こうでニヤニヤしているであろう西門さんに、頭に来る。
「ちょっと――――あっ」
 突然、類があたしの手から携帯を取り上げた。
「総二郎。説明して」
 その声音は、あたしでもぞっとするほどの怒りを含んでいた・・・・・・。


 -rui-
 『よぉ、類。なんだよ、んな怒る事でもねえだろ?』
 能天気な総二郎の声に、さらにイライラが募る。
「いいから、答えてよ」
『わーかったよ。サイズはあれだ、こないだあきらと一緒に遊んでたとき、ちょうど牧野の弟に会ってさ、そんときに聞いた』
「何でそんなこと・・・・・」
『お前、牧野の家族とも仲良いんだろ?その話聞いて・・・・・な〜んかほのぼのしちまってるし、たまには変わった刺激があってもいいんじゃねえかと思って、思いついたんだわ。心配しなくても、俺と牧野の間にはなんにもねえよ』
「・・・・・それ、ほんと?」
『なんだよ、疑ってんの?』
「・・・・・最近、一緒にいること多いから。夜遊びもやめたって聞いたよ」
 俺の言葉に、総二郎が沈黙する。
 それは本当に最近感じてたこと。
 大学のカフェテリアで、牧野と総二郎が一緒にいるところによく遭遇するようになった。
 あきらも一緒にいることもあるけれど、総二郎と2人の確率が多いような気がして、気になっていたところだった・・・・・。
『へえ、さすが、牧野のことには目ざといな。ま・・・・・深く考えるなよ。今んとこ、特に意味はねえから』
「今のところ?」
『そういうことだ。今日はせっかくのホワイトデーだぜ?ちゃんと牧野に奉仕してやれよ。今度牧野に話聞くからな』
「・・・・・余計なお世話だよ」
 電話を切り、バッグに戻すとそれをベッドの横に置いた。
「あの・・・・・類?西門さん、なんだって?」
 牧野が心配そうな顔で俺を見上げる。
「・・・・・弟に聞いたって」
「進に?いつ・・・・・てか、あいつ、そんなこと勝手に教えて!」
 ベッドに横になった状態で怒り出す牧野。
 その牧野の頬に、そっと手を添えると途端に牧野の顔が赤く染まる。
「・・・・・すごく、心配なんだけど」
「な、何が?」
「総二郎のこと・・・・・あんまり、気を許さないで。2人きりに、ならないで」
「そんなこと言われても・・・・・・」
「牧野は、俺のものだから・・・・・他のやつには、触れさせたくない」
 そう言ってキスを落とせば、瞳が潤み、熱を持ち始める。
「・・・・・ホワイトデーのプレゼント、用意してたんだけど・・・・・・今は、こっちが先」
「こっちって・・・・・」
「牧野に、触れたい」
 そうしてもう一度キスを落とす。
 今度は深く、熱い口付けを・・・・・・


 気の済むまで牧野を愛して。
 そのまま眠ってしまった俺たち。
 翌日、目を覚ました牧野の左手の薬指には、ブルートパーズの石がはめ込まれた指輪が輝いていた・・・・・。





                                 fin.





お気に召しましたらクリックしていってくださいね♪