Triangle vol.4

 1月2日。3人で過ごす最後の日・・・。

 蘭が起きてリビングに入ると、もう新一と快斗が起きてそこにいた。
「おはよう、蘭ちゃん」
 快斗がにっこり笑う。
「今日は、俺と快斗でお雑煮作ったんだ。食べるだろ?」
 と新一。蘭は吃驚して目を丸くした。
「え?2人で作ったの?すごいね!」
「ずっと2人で交代して飯作ってたからな。一応これでも一通り出来るんだぜ?」
「そういうこと。で、これ食ったら出かけよう」
「どこに?」
 と、不思議そうな顔をする蘭に、2人はにっと笑う。
「すげえ良いとこ。きっと蘭ちゃんも気に入るぜ?」
 と快斗が言えば、新一も
「どこに行くかはついてからのお楽しみってことで」
 といたずらっぽく笑ったのだった。蘭は、首を捻るばかりだが・・・楽しそうな2人を見て、くすっ
と笑った。
 ―――この2人と一緒なら、きっとどこでも楽しいよね。
 そんなことを考えて・・・。


 蘭がおいしそうにお雑煮を食べる姿を見て、2人は顔を見合わせ満足そうに微笑んでいた。
 2人で密かに話して決めたこと。それは、今日1日は喧嘩をせずにいようという事だった。蘭に楽し
んでもらうため、2人で協力しようと、約束したのだった。
「―――そろそろ来る頃じゃねえ?」
 と、新一が壁の時計を見上げて言った。
「そうだな。俺、ちょっと見てくるよ」
 快斗がリビングを出て行くのを見て、蘭は首を傾げる。
「何が来るの?」
「車、頼んでたんだ」
「車?」
「そ。あとで蘭ちゃんにも紹介するよ」
 さっぱりわからない、という顔をしている蘭を、楽しそうに見詰め、新一は微笑んだ。
 そこへ快斗が戻ってきた。
「今、用意してるみてえ。こっちも準備しようぜ」
「ああ」
 蘭は、首を捻りながらも食べ終わった食器をキッチンへ片し、着替えをするために部屋へ戻った。


「やあ、君が蘭くんか。はじめまして」
 家の前で待っていたのはかっぷくの良い白髪頭に白い口ひげを生やした初老の男性だった。
「あ、はじめまして、毛利蘭です」
 挨拶をされて、蘭も慌てて頭を下げる。
「蘭ちゃん、この人は隣に住んでる阿笠博士。俺らが小さい頃から世話になってる人だよ」
 と、新一が紹介してくれる。
「博士?」
「そ、っつってもなんだか怪しげなもんばっか発明してるへんてこな博士だけどな」
 と、快斗がニヤニヤしながら言うと、博士は顔を顰め、
「快斗くん、そりゃあないじゃろう」
 と言った。
「けど、本当のことだろう?」
 と、今度は新一が言ったので、博士はますますしかめっ面になる。
 そのやり取りを聞いて、蘭がぷっと吹き出した。
「あ、ごめんなさい、博士。すっごく仲良いんですね、2人と」
「あ、ああ、まあそうじゃな・・・」
 いきなり笑われて目を丸くしていた博士だが、蘭の笑顔を見ているうちに自分もふっと笑い、
「2人の言っていたとおり、素敵なお嬢さんだのう」
 と言ったので、蘭はぴたりと笑うのを止め、かあっと顔を赤らめた。
「だろ?」
 と快斗が言い、新一も微笑む。
「さ、それじゃあ行こうぜ」
 4人で車に乗り込み、早速出発。だが、どこへ行くのか・・・?


 「ここは?」
 着いた先には、たくさんの温室が並んでいた。中には色とりどりの花が咲き乱れ、その花のいい匂い
が外まで届いていた。
「すごい花・・・」
 蘭が目を丸くする。
「だろ?と言っても俺らも来るのは今日が初めてなんだけどさ。実は博士に教えてもらったんだ。この
場所」
 と、快斗が楽しそうに言った。
「さ、入ろう」
 新一がみんなを促す。
 4人で温室のひとつに入る。中にはきれいな蘭の花が咲いていた。
「わあ、わたし、こんなにいろんな蘭を見るの初めて!きれい・・・」
 蘭が瞳をきらきら輝かせながらきょろきょろと花を見て回った。
「ねえ、でもここ入っても良いの?」
「もちろんじゃよ。ここの持ち主の人とは知り合いでな。今日、ぜひ見せてもらいたいと言ったら、快
く承諾してくれたんじゃ」
「博士にそんな知り合いがいるとは思わなかったよ」
 と、新一が意外そうに言う。快斗も同じ気持ちらしい。そんな2人を見て、蘭は博士が2人にとって
本当に信頼できる人物なのだと知った。
 4人は心ゆくまで蘭の花を見て回り、他の温室にも入ったりして楽しんだ。
 そんな楽しい時間もあっという間に過ぎ、いつの間にかもう日が傾き始めていた。
「げっ、もうこんな時間かよ」
 快斗が時計を見て言った。
「来るのに、だいぶ時間かかったもんな。蘭ちゃん、おなかすいてないか?ここへ来る前に、車の中で
サンドイッチ食べたきりだろ」
 と新一が言った。蘭はにっこり笑って、
「わたしは平気だけど・・・。3人の方がおなかすいてるんじゃない?」
 と言った。新一、快斗、博士は顔を見合わせると、苦笑いして頷いた。
「そうだな。なんかこの辺で食っていこうか」
 という新一の言葉にみんなが頷き、温室を後にしたのだった。

 近くのレストランで食事をした後、車に乗って、家に向かう。その間中他愛のない会話が続き、楽し
い時間が過ぎていったが、誰も今日が最後だということに触れなかった。まるで、触れてしまえばそこ
で楽しい時間が終わってしまうような、そんな気さえしていた。
 家に着く頃には、すっかり暗くなり嫌でも今日の終わりを感じずにはいられなかった。

「博士、今日はありがとうございました。とっても楽しかったです」
 蘭が、博士に頭を下げた。
「いやいや、わしも楽しませてもらったよ。またぜひ、遊びに来るといい」
「はい、ぜひ・・・」
 博士の姿がなくなり、3人は暫く家には入らず、門の外に無言で立ち尽くしていた。

「風邪、引くぜ」
 始めに口を開いたのは新一だった。
「そうね。中に入ろう」
 蘭が頷き、門を開けた。
 3人で家の中に入り、リビングに向かう。
「コーヒー、入れるね。快斗くんはカフェオレ?」
 蘭が、上着を脱ぐと、キッチンへ入って行った。
「―――とうとう、来ちまったな」
 快斗が、ボソッと言う。いつもの明るい声とは違う、どこか元気のない声・・・。
「ああ―――。快斗、蘭ちゃんの前でそんな顔すんなよ?」
「わかってるよ。蘭ちゃんが戻ってきたらいつもの俺になるさ」
 やがて、蘭がトレイに3人分のカップを載せて戻ってきた。
 新一にはコーヒー、快斗にはカフェオレ、蘭は紅茶。この4日間で蘭が覚えた2人の好み。そして、
3人でのいつものお茶の時間。それも今日が最後・・・。 
 なんとなく、静かになってしまう3人。
「あのね」
 突然、蘭が口を開いた。2人が蘭のほうを見る。
「すっごく楽しかったよ、この4日間」
 にっこりと、本当に嬉しそうに微笑んだ蘭に、2人は見惚れていた。
「始めは緊張してたの。初めての仕事だし、うまくやれるかなって。でも、2人と話してたらそんな不
安も吹っ飛んじゃった。仕事だってこと忘れそうになるくらい楽しくって・・・時間があっという間に
過ぎて・・・」
 蘭の瞳に、涙が溢れた。
「ずっとね、ここにいれたらいいのにって・・・思うくらい楽しかった・・・」
「蘭ちゃん!!」
 2人が蘭の側に寄り、蘭の手を片方ずづ握り締めた。
「ありがと・・・。また、遊びに来てもいい?」
「当たり前だろ?いつでも大歓迎だよ」
「俺1人のときでも全然オッケーだから」
「おめえ、また抜け駆けしようとしてやがるな!」
 新一がじろりと快斗を睨み、快斗はいつものようにいたずらっぽい目をして蘭を見つめた。蘭は、嬉
しそうに2人を見つめ、ふわりと微笑んだ。
「2人に会えて・・・ここに来て、本当によかった。絶対、また遊びに来るからね」
 新一と快斗は、蘭の手を握る手に一層力を込めた。
 出来ることなら、このまま離したくない。このまま抱きしめて、自分だけのものにしてしまえたら・
・・。だが、それは蘭が望んでいることではない。蘭にとって、自分たちはあくまでも友達なのだから。
 それでも、少しは特別な存在だと思われていると、自惚れても良いのではないか?同じ屋根の下で4
日間一緒に過ごしてきたものとして・・・きっと、それくらいは許されるだろう。
 2人は顔を見合わせ、そっと笑みを交わした。
 ―――今は、この状態で満足しよう・・・。そのうち、きっと・・・
 そんな風に思って、熱い眼差しを蘭に向ける2人だった・・・。



 終わりました〜♪この後、番外編へ続きますが、とりあえずここでおしまいです。
あんまり盛り上がらなくてすいうません。思いつきで始めたこの企画、間に合わなかったらどうしよう
とやや焦りつつ書き上げました。どうにか間に合わせることができて良かったです〜。
皆様にも楽しんでいただければ幸いです。
それでは♪