「お迎えにあがりました、つくしお嬢様」
まさかこのあたしが。
そんな風に呼ばれることがあるなんて、夢にも思わなかった。
一体何のドッキリだろうと。
呆然と立ち尽くすあたしに、目の前の人が言った。
「あなたは、菅野コンツェルンの跡取りでございます」
「菅野って―――ママの旧姓―――」
「菅野詩織様。菅野コンツェルンの会長の姪御様にあたります」
何が何だか分からない。
菅野コンツェルンなんて知らない。
ママは普通の主婦で。
口うるさいけれど、貧乏に負けない鉄の心の持ち主だ。
そんなママを尊敬してた。ずっと・・・・・
「会長の命により、つくしお嬢様をお迎えにあがりました。お車にお乗りください」
丁寧だけれど、有無を言わせぬ雰囲気。
あたしは促されるまま、目の前に止められたリムジンに乗り込んだのだった・・・・・。
「つくし」
目の前にいたのは、いつも見ているはずなのに、まるで初めて会うような―――ママの姿だった。
見るからに高そうな黒のフォーマルスーツに身を包んだママは、見たこともないような上品な化粧をして、あたしを見つめていた。
「ごめんね、つくし。今まで隠してて・・・・・」
「隠してって・・・・どういうこと?どうしてママそんな恰好してるの?」
「ママの従兄弟が亡くなってね」
「ママの―――いとこ―――?」
「つくしとは会ったことがないの。ママは―――パパと駆け落ち同然に家を飛び出していたから―――」
何が何だか分からない。
呆然と立ち尽くしあたしの前に立つママ。
その後ろから姿を現したのは、同じように黒いフォーマルにブラックタイという格好のパパと、学ラン姿の進だった。
「つくし、進も、あなたたちをおじいちゃんとおばあちゃんに会わせるから、いらっしゃい」
その言葉に、あたしは進むと顔を見合わせた。
おじいちゃんとおばあちゃんは、とうの昔に亡くなったって。
そう聞かされていた。
あたしは、進と一緒にママのあとについて歩き出した―――。
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