***火花 vol.1 〜総つく〜***


 *このお話は、「導火線・総つく編」から続くお話になります。
 こちらのお話だけでもお読みいただけますが、より詳しい内容をお知りになりたい場合は、「導火線」からお読みくださいませ♪



 「冗談じゃねえよ」
 イライラとした気持ちを抑えきれずに、俺は吐き捨てるようにそう言った。
 牧野が、困ったように俺を見上げる。
 向い側に座っていた類は、俺とは対照的にニコニコと楽しそうに笑っていた。

 大学のカフェテリアで、俺と牧野、類とあきらは講義の後に落ち合い、お茶していた。

 「まあまあ、そんなに怒るなよ、総二郎。別に本当に類と牧野が結婚するわけじゃねえんだから」
 あきらが苦笑して言うのを、俺はむっとして睨む。
「当たり前だろ?ってか、振りだけだっていやだっつーの」
 俺の言葉に、類は肩をすくめる。
「けど確か、前に俺と牧野が付き合ってたとき、総二郎に同じことで協力したことがあったよね」
 にやりと笑って俺を見る。
「それは―――!」
「今は確かに総二郎と付き合ってるけど、まだ結婚したわけじゃないし。俺の見合い断るのに、牧野に協力してもらうくらい、いいでしょ?」
 類の言葉に、牧野が溜息をついて俺を見る。
「西門さん、あたしなら、大丈夫だから・・・・・」
「大丈夫、だって?」
 牧野の言葉に、俺は思わず声を荒げる。
「何が大丈夫なんだよ?類の両親に、類の恋人だって紹介されるんだぞ?見合いを断る為の口実ったって、もしそこで類の両親に気に入られてすぐに結婚なんて話になったらどうすんだよ!?」
「そんなこと、あるわけないじゃん。大丈夫だってば、その日だけのことなんだし。類が困ってるなら、あたしは協力したい」
 そう言って、類の方を見る牧野。
 類が優しい笑みを牧野に向け、2人がしばし見詰め合う。
 その様子が、まるで本当の恋人同士のようにも見え―――

 そんな2人の姿を見ていられなくて、俺はがたんと音を立てて席を立った。
「勝手にしろよ。俺はもう帰る」
「西門さん!待ってよ!」
 後から慌てて牧野が追いかけてくる。
 俺は構わずそのままカフェテリアを後にした・・・・・。


 「ちょっと待ってってば!!」
 門を出たところで、牧野がぐいっと俺の腕を引っ張る。
「―――勝手にすればいいだろ?大事な類の頼みだもんな。お前が、断るわけねえよな」
「もう!何でそんな言い方するの?たった1日だけのことなんだから、協力してあげたっていいじゃない!」
「だから!そうすりゃあいいだろ?」
「何でそんなに怒ってるのよ!?」

 俺はその言葉にぴたりと足を止め、牧野のほうを振り返った。

 急に振り返り、牧野の顔をじっと見つめた俺を、牧野が目を見開いて見る。
「な、何?」
「・・・・・お前は、平気なのかよ?」
「え?」
「お前ら、言ってたよな。別れる時・・・・・お前らの気持ちが変わったわけじゃないって。お互いを好きな気持ちは変わらないんだって。それくらい好きな相手に・・・・・もしまた、本気でプロポーズされたら、どうする?」
「どうするって・・・・・何言ってんの?あたしはただ、類のお見合い断る口実のために、ご両親に会うだけだよ?プロポーズなんて・・・・・」
「類はまだ、お前を諦めてねえよ。前にも言ってただろ?両親に紹介したいって。そん時はまだお前ら付き合ってたからな。会えば確実に結婚の話になってただろ。今回だって、見合いを断るだけじゃない。お前らの結婚の話になるはずだ。もし両親の前で類にプロポーズされたら・・・・・お前はどうするんだ?」
 俺の言葉に、牧野は戸惑った表情を見せた。
 考えてもなかったんだろう。
 だけど、俺はこの話を聞いたときから、その可能性を考えていた。

 以前、俺が牧野に同じことを頼んだとき。
 俺は、遠まわしに牧野にプロポーズをしているつもりだった。
 もちろん、そんな遠まわしなやり方は牧野には通用しないけれど・・・・・。

 「そんなこと・・・・・断るに決まってるよ」
「両親の前でか?」
「それは・・・・・わからない。でも、後でちゃんと断るよ。当たり前でしょ?類だって、それは分かってくれるはず。たとえ類がまだあたしのことを思ってくれてたとしても・・・・・・あたしたちを嵌めるような事、するわけないよ」
 牧野の手が、俺の手にそっと触れた。

 牧野が、じっと俺を見上げる。

 「西門さん?何をそんなに心配してるの?あたしは、類と結婚するためにいくんじゃないよ?ただ、類にはたくさん感謝してるから・・・・・何か役に立てるなら、そうしたいと思ってるだけ」
 真っ直ぐに俺を見つめる瞳が、俺の気持ちを静めてくれるようだった。

 繋がれた手を引っ張り、牧野の体を抱きしめる。
「・・・・・ごめん」
「うん・・・・・」
「類には、俺も感謝してる・・・・・。ただ・・・・・お前のことに関しちゃ、黙って見てることが出来ねえんだ。お前たちの絆、いやってほど見て来てるから・・・・・」
 俺の言葉に、牧野がそろりと俺を見上げる。
「それでも、あたしが付き合ってるのは西門さんだよ?」
「・・・・・信じてるよ。お前のことも・・・・・類のことも」
 その言葉に、牧野が嬉しそうにふわりと微笑んだ。

 そっと触れるだけのキスをする。

 大丈夫。牧野は、ちゃんと戻ってくる。

 そう自分に言い聞かせるように・・・・・。




  

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