「だから、卒業式にお腹大きいのは勘弁って言ってたのに」
あたしは、自分のお腹を見おろしため息をついた。
「大丈夫。まだそんなに目立たないから」
類がくすくすと笑う。
妊娠6カ月。
普通のドレスを着るにはぎりぎりといったところ。
卒業式用の袴はお腹を隠せるので問題なかったが、プロム用のドレスはさすがにきつい気がして出るのはやめようかと思っていたのだけれど。
「つくしが出ないプロムなんて、行っても意味ない」
卒業したのだけれど、特別に大学のプロムに招待されているF3。
出席するのを迷っていたあたしに類がそう言った。
「俺らのパートナーはつくしって決まってるんだから」
「腹がでかくたって、堂々としてりゃあいいんだよ」
と言うあきらと総二郎。
そして極めつけは、耳元で囁かれた甘い言葉。
「どんな格好してたって、つくしが一番きれいだよ」
もう、こうなったら出るしかない。
相変わらずダンスは苦手だけれど。
それでも、あきらの素晴らしいコーチのおかげで、だいぶ様にはなってきた。
「ずいぶん上達したよ。それならどんなとこ出たって恥ずかしくない。もっと自信持て」
プロムの会場で、トップバッターで踊り始めたあたしとあきら。
あきらが優しい笑顔であたしを見つめる。
その笑顔にときめいているのはあたしだけじゃなく。
相変わらず外野の視線が痛い。
「―――お見合いの話が、ずいぶんあるって」
「総二郎に聞いたのか?まあな。母親がいろいろうるさくって。けど実はあの人、つくしの大ファンだから」
くすりと笑うあきら。
「ええ?」
「マジで。類と離婚しないかって、密かに期待してるんだぜ。それが無理なら、優と快を妹たちの婿にって」
「婿!うわ、双子同士の結婚なんてすごそう。見てみたい気もするなあ」
「だろ?妹たちも優と快好きだし。そうなったら楽しいぜ、きっと」
最近ちょっとずつおしゃべりが増えてきて、ますますかわいい盛りの双子たち。
そんな双子たちのまだ見ぬ未来の姿に、あたしたちは胸をときめかせていた。
「あいつらが結婚したら、俺とおまえは親戚になるわけだ。それもいいかもな。もっと近い存在になれる」
そう言って魅惑の笑みを浮かべたかと思うと、あっと言う暇もなく、チュッと頬にキスされて。
思わず頬を赤らめれば、後ろからグイと腰を引き寄せられる。
「パートナーチェンジだぜ」
そう言ってにやりと笑ったのは総二郎だった・・・・・。
「あきらの妹たちと結婚?そりゃあすごそうだけど、年離れすぎだろ」
あたしを優雅にエスコートする総二郎が目を瞬かせる。
「そうでもないよ。最近、そのくらいの年の差は珍しくないって」
「ふーん。なら、今度生まれてくる子が女だったらうちの弟の嫁に来る?」
「総二郎の、じゃないの?」
あたしの言葉に、楽しそうに笑う総二郎。
少年のようなその笑顔に、周囲でため息が漏れる。
プレイボーイ振りもなりをひそめて久しいけれど。
この人を世間の女性が放っておくはずなくて。
「俺はつくしオンリーだよ。言っただろ?ずっとそばにいるって。外野は勝手に騒いでるだけ。気にすんなよ」
そう言ってあたしを見つめる瞳はどこまでも甘くって。
「―――あんまり甘やかされると、1人じゃ立てなくなりそうで怖いよ」
そう言って苦笑すると、腰を強く引き寄せられ、体を密着させられる。
「そうしたら、俺がこうして支えてやる。お前を1人になんかしねえよ」
そうして、額に優しいキスが落ちてくる。
F2からの続けざまのキスに、集められる嫉妬の視線にさらに熱がこもる。
「総二郎、そろそろ代わって」
いつの間にか傍へやってきた類とチェンジ。
代わった途端、ぎゅうっと抱きしめられる。
「類ってば、ダンスは?」
恥ずかしくなって声を上げると、類の甘い声が耳をくすぐった。
「適当でいいよ。動きすぎると赤ちゃんに悪い」
「そんなに激しくないから、大丈夫だけど・・・・・」
「いいんだ、こうやってくっついてたいから。だいたい、最近のあいつらは遠慮がなさすぎる。俺の前でも平気でキスするんだから」
「挨拶みたいな感じになってるんだよ。おかげで優も快もキス大好きだもん」
かわいい双子からのキスは、あたしや類にだけじゃなくって、ほとんど誰にでも。
家では双子のお世話係が家政婦の間で取り合いになってるんだとか。
「―――けど、あの子らが一番好きなのはやっぱりつくしだよ。こないだ俺がつくしにキスしたら、快の奴めちゃくちゃ怒ってたもん」
類の言葉に、あたしもその時のことを思い出して吹き出す。
「ああ、あれ。おかしかった!顔真っ赤にして類追いかけまわして。優まで泣き出しちゃって」
「笑い事じゃなくって、またライバルが増えるのかと思ってちょっとぞっとした」
「あのね、母親と息子って永遠の恋人なんだって」
あたしが言うと、類はちょっと複雑そうにあたしを見つめ―――
「さすがに敵わない気もするけど―――でも、この位置を譲る気はないからね。ずっと一生・・・・・つくしの隣は、俺の特等席だよ」
そうして落ちてくる、優しいキス。
その瞬間、聞こえてきた気がした。
ダンスのスローな音楽に負けないくらいの、楽しそうなHappy Beatが・・・・・。
fin.
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