彼が帰ってくる。
約1年ぶり。
ずっとずっと待ってた。
この想いを伝えたくて・・・・・
「ちょっと先輩!」 大学のカフェテリアでランチをとっていると、突然後ろからどんと背中を叩かれ、あたしは思わず口の中のものを吹き出しそうになる。 「グッ・・・・・ちょっと、桜子!何すんの!」 振り向き、文句を言ってやると、後ろにいた桜子が、持っていた写真週刊誌をあたしの目の前に突きつけてきた。 「何よ、これ?」 「見ればわかります!」 そう言って、あたしの目の前にページを開いて見せる桜子。 そのページを見て・・・・・・ 文字通り、あたしは固まった。 「何、これ」 そこに映っていたのは、今年のお正月のときに撮ったらしい写真。 有名なお寺を背景に、初詣に訪れる人並み。 その中で一際目立つ長身の、着物姿も様になる目元の涼しげなイケメン、西門総二郎。 そしてその隣にいるのは、艶やかな赤い牡丹の柄の振袖を着て、髪をアップにした女の子・・・・・それは、牧野つくし、あたしだった・・・・・。
見出しには、「茶道界のプリンスに恋人発覚!」となっていた・・・・・。 「どういうことですか?いつの間に西門さんと?」 じっとりとあたしを睨む桜子。 そう言われても・・・・・ 「待ってよ、誤解だってば。確かに初詣は一緒に行ったけど・・・・・これ、美作さんも一緒だったんだよ。けど、途中ではぐれちゃったから・・・・・たぶんそのときに撮られたんだと思う。あたしと西門さんが、付き合うわけないじゃん」 あたしの言葉に、桜子もう〜んと考えつつ頷いた。 「そりゃそうですよね。あの西門さんが、先輩なんか相手にするわけ・・・・あ、いえいえこっちの話で。でも、先輩には花沢さんがいますもんね」 そう言ってにやりとする桜子に、あたしは頬が熱くなるのを感じた。 「な、何言ってんのよ、花沢類とだって別に付き合ってなんか・・・・・」 「帰ってらっしゃるんですよね?いつでしたっけ?」 「・・・・・明日・・・・・・」 「明日!?うわあ、楽しみ!空港まで迎えに行かれるとか?」 「う・・・・・・ま、まあ、一応・・・・・」 「いいですねえ!もしみんなで集まられたりするんでしたらわたしも呼んでくださいね!」 そう言うと、さっさとカフェテリアを後にして行ってしまった桜子。 「何あれ・・・・・」 呟き、テーブルに向き直ると、写真週刊誌が置かれたままになっていて・・・・・ 「置いてっちゃった、桜子。こんなのあたしも要らないのに・・・・・」 言いながら、それをぱらぱらと捲ってみる。
その途中。 ふと、手が止まる。
信じられないものを見てしまった気がした。
―――何、これ・・・・・
そこには、小さいながらもはっきりと写された写真。 薄茶色のサラ髪に、ビー玉のような瞳。 背の高いその人は、洗練されたスタイルで高級そうなスーツを身につけていた。 「花沢、類・・・・・?」 見間違えるはずもない。 今はフランスにいるはずの、あたしの大切な人。 ずっと帰ってくるのを待っていた、大好きな人・・・・・。
雑誌に写っていたのは、確かに花沢類だった。 そしてその隣にいるのは、凛とした感じの美女で、花沢類と微笑み、見詰め合っていた。 見出しは、『花沢物産子息、フランスで婚約か?』というもので・・・・・・
―――まさか・・・・・
あたしは、手が震えだすのにも気付かずその写真に見入っていた。 そのとき・・・・・ 「牧野、何してんだ?」 突然名前を呼ばれ、ビクリと震える。 振り向くと、そこには西門さんが立っていた・・・・・。 「何ビビッてんだよ?顔色悪いぜ。何見てるんだ?」 そう言って、あたしが見ていた雑誌をひょいと持ち上げる。 「あ、ちょっと・・・・・」 取り返そうとするあたしの手の届かない高さに掲げながら、それを見る西門さん。 そしてその写真を見つけたのか、顔を顰めた。 「なんだこりゃ。類が婚約?そんなわけねえじゃん」 「・・・・・でも、そこに写ってる人・・・・・」 「仕事の相手とかじゃねえの?何かの間違いだろ。大体、類は明日帰ってくるんだろ?お前に、迎えに来て欲しいってメールが来たって言ってたじゃねえか」 「うん・・・・・・そうだけど・・・・・」 そのメールが来たのは先週のこと。 突然帰国できることになったから、空港まで来て欲しいというものだった。あたしに、大事な話があるのだと・・・・・。 類にしては強引な内容に、西門さんと美作さんは『いよいよプロポーズか?』なんて言ってあたしを冷やかしたけれど・・・・・
その話がなんなのか、聞いていない。 もしかしたら、婚約が決まったことを話そうとしてる・・・・・? だとしたら、あたし・・・・・・・
「―――まさか、この期に及んで迎えに行かないとか、いわねえだろうな?」 西門さんの視線に、ぎくりとする。 「お前な・・・・・。明日は、何の日だか知ってるだろうが」 「・・・・・花沢類の、誕生日」 「そうだ。その誕生日に帰ってくる類に、1年前に言えなかったことを言うんじゃなかったのかよ?」 「そう、だけど・・・・・」 ずっと待ってた。 この想いを伝えたくて。 でも、もし花沢類の話というのが、この女性との婚約のことだとしたら・・・・・
とてもじゃないけど、あたしは自分の気持ちを伝えることなんて出来ない・・・・・
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