The goddess of the victory 2
「何でこんな話引き受けたりしたんだよ?」
蘭をリビングに通し、開口1番、新一は不機嫌そうに言った。
「だってえ・・・志保さんが、新一が負けると思ってるのか?っていうからァ・・・」
蘭はちょっとふくれっつらでそう反論する。その表情がなんとも可愛らしく、全員が見惚れていたが
・・・その視線にイライラとしながら新一は志保を睨んだ。
「オメエなあ・・・。こんな危険な状況でこいつをここに置くのかよ?」
「危険?どうして?」
蘭がキョトンとして聞く。それを見て志保はクスクスと笑い、
「安心して。もちろんこのゲームが終わるまで蘭さんに手を出すことは禁止よ。監視役を園子さんにお
願いしたわ。彼女も夕方には来るはずよ」
「園子ォ?」
新一があからさまに嫌そうな顔をする。
「なんかスゲエうるさそうだな」
「賑やかで良いじゃない?今日から夏休みだし。家に帰らなくても良いと言う人はここに泊り込んだら
どうかしら?」
との志保の言葉に真っ先に返事をしたのは快斗。
「俺はOKだぜ。新一のことを気にしないで蘭ちゃんに会えるんだかんな」
「もちろん俺もや。大阪に帰る時間惜しいしな。メールやのうて直接蘭ちゃんと話せるんやし」
とにこにこしてるのは平次。
「僕も大丈夫ですよ。泊れるような用意をとのことでしたからね。ちゃんと用意できてます」
と深が言えば智明もニコニコと頷き、
「もちろん僕も。どうせ1人暮らしですからね。蘭さんの手料理が食べれるならぜひ、泊らせてもらい
ますよ」
と、言うわけで、あっさり全員が泊っていくことになり、新一はまた、大きく溜息をついたのだった
・・・。のんきににこにこしているのは蘭で、
「なんか修学旅行みたいだね。楽しくなりそう」
などと言って、更に新一の気を重くさせていた。
その日の夕方、新一の家に園子がやってきた。
「いらっしゃい園子。今、夕食の用意してるところなの。2階の奥の客間がわたしと園子の部屋だから」
「じゃ、荷物置いて着たら手伝うわね。待ってて」
「あ、ゆっくりしてて良いよ?わたし1人でも平気だから」
その言葉を聞き、園子はおもむろに蘭に抱きついた。
「蘭ってば可愛い。いいのよ、手伝いたいんだから」
「何やってんだよ、オメエは」
仏頂面で出てきたのは新一だった。
「あら新一君。アハハ、思った通り機嫌悪そうねえ。安心して、あなたのライバルたちには蘭に手だし
させないから。ま、新一君も例外じゃないけどね」
と言って、園子は楽しそうに笑った。
「志保にも釘さされたよ。ゲームが終わるまでは恋人だってこと忘れろってな」
「そういうことね。うふふ、楽しそうよねえ。誰が勝つのかしら」
「バーロー、んなもん俺が勝つに決まってんじゃねえか」
「はあ、相変わらずの自信ね。でも蘭、他の人が勝ったらその人とハワイに行くのよ?分かってるの?」
「うん。大丈夫。新一きっと勝つから。ね?」
と言って、ニッコリ笑って自分を見る蘭が愛しくて・・・新一は思わず蘭を抱き寄せようとしたが・・・
「はい、ストップ」
と言って、2人の間に入ったのはもちろん園子。
「全く油断もすきもないわね。こりゃ、見張り甲斐がありそうだわ。ところで他の人たちは?」
「くじ引きで割り当てられた部屋で、ゲームを始めてるわ」
「へェ。誰と誰が同室?」
「えっとね、服部君は白馬君と一緒。快斗君が新出先生と一緒よ」
「で、新一君は1人?」
「うん。でも、同室って言っても1部屋がかなり広いから、中で仕切ってあって、1人1部屋みたいな
ものだけど」
「なるほどね。んじゃ、わたし荷物置いて来るわね」
園子が行ってしまうと新一は蘭の髪にそっと触れた。
「蘭、大丈夫か?後2週間・・・7人分のめし作んなきゃなんねーんだぜ?」
「大丈夫よ。園子が手伝ってくれるし」
「あいつはあてになんねーだろ?やったことねえんだから」
「そんなことないよ。それに・・・」
「それに?」
「2週間・・・新一の側にずっといられるもん」
ほんのり頬を染めて言う蘭。新一は、頭に一気に血が上って行くのを感じ・・・
―――今なら、誰も見てねえし・・・
そっと、蘭の頬に手を添え、その唇に自分のそれを近づけた―――。
「はい、そこまで!」
階段を下りてきながらこちらをジロリと睨みつけてるのは、快斗だった・・・。
「あにしてんだよ?蘭ちゃんに手ェ出すのは禁止だろ?恋人同士も今は関係ねえはずだぜ?」
「―――っるせーな、わーってるよ・・・」
苦虫を噛み潰したような顔で、蘭から離れる新一。
「ほんとに油断もすきもねーな。新一が1人部屋なんて、絶対危険だと思うんだけどなあ」
「せやなあ。工藤やったらなんとか園子の姉ちゃんまいて、蘭ちゃんを連れ込みそうやしなあ」
と、いつのまにか階段の上に現れた平次が言う。
「おめえらなあ・・・」
「大丈夫だよ、2人とも。わたし、新一の部屋に1人で行ったりしないから」
と、蘭がにっこり笑って言う。その言葉に3人とも驚いたような顔になる。
「え、ほんとに?蘭ちゃん」
「ほんまか?」
「蘭?」
「うん。だって、志保さんにも園子にも釘指されてるし・・・。わたしだって、新一に失格になってほ
しくないから」
その言葉に3人は、複雑な表情だ。
―――何だかんだ言っても、新一のためかよ。
―――何やおもろないなあ・・・。
―――俺のためってのは嬉しいけど・・・。
「お待たせ、蘭。―――あれ、どうしたの?いつのまにか服部くんと黒羽くん・・・だっけ?まで出て
きて」
エプロン姿で戻ってきた園子が、その場にいた人間の顔を見回し首を傾げる。
「あ、園子。なんでもないの。じゃ、行こうか」
蘭と園子がキッチンへ入っていくのを見送り、3人は同時にため息をついた。
「何や、長い2週間になりそうやなあ」
「だな。けど俺はゼッテー負けねえぜ?こう見えてもゲームは得意なんだ。2週間もここにいるつもり、
ねえからな。1週間以内に勝負つけてやるぜ」
快斗が、にやっと笑い2人に挑戦的な視線を投げつける。
「バーロ、おめえらなんかに負けるかよ。蘭とデート・・・それもハワイ旅行なんてゼッテーさせねえ
からなっ」
新一がギロリと2人を睨みつけ、その場の温度が一気に下がる。
「ま、なんにせよ、はようゲーム終わらせるのが先やな。俺は部屋に戻るわ」
といって、平次が部屋に戻り、快斗も続いて戻る。
それを見て、新一も自分の部屋に戻ったのだった。
食事の時間。全員が集まって7人での賑やかな食卓・・・のはずなのだが、それぞれがお互いの顔色
を伺い、腹の内を探りあいながらの会話が続き・・・どこかぴりぴりとした雰囲気のうちに食事の時間
を終え、男どもが皆自分たちの部屋へ引き上げたときには園子は一気に疲れを感じ、大きくため息をつ
いたのだった。
「こんなのが2週間も続くわけ?ったく、冗談じゃないわね。せっかくの蘭とわたしの食事の味がちゃ
んとわからないじゃないの」
と園子が言うと、蘭はきょとんとして、
「そう?ご飯、おいしくなかった?園子」
「―――って、蘭、もしかしてあんた、食事の間中この場に漂ってた空気に気がつかなかったの?」
「空気って・・・?なんかあったの?」
首を傾げて目をぱちくりさせる蘭。園子は乾いた笑いを浮かべ、
「はは・・・こりゃ、この役目ができるのはあんたしかいないわ」
と言ったのだった・・・。
その後、風呂に入る順番を決め、風呂に入り終わったころ、蘭と園子はコーヒーを入れ、それぞれの
部屋に差し入れをしに行った。
まずは平次と深のいる部屋へ。
「お♪蘭ちゃんやないか、いらっしゃい」
先に平次が気づいて嬉しそうに声をあげた。
「蘭さん?やあ、どうしたんですか?」
続いて深も嬉しそうににっこりと笑う。
「―――いつの間に、わたしってば透明人間になったのかしら?2人にはわたしが見えてないみたいな
んだけど」
と、じと目で2人を睨みつけながら園子が言うと
「何や、園子の姉ちゃんもおったんか?すまんすまん、気ィつかへんかったわ」
としれっとした顔で平次が言う。深はさすがに悪いと思ったのか、
「園子さん、すいません。蘭さんの影になって見えなかったものですから・・・」
「ハイハイ、そうでしょうよ。どうせわたしは蘭の影のような存在よね」
「い、いえ、そういうわけでは・・・」
深があせって言い訳すると、園子はにやりと笑った。
「へ〜え、白馬君でもそんな風にあせることあるのね。いいもの見たわ」
「もう、園子ってば!ご、ごめんね、白馬君。あの、コーヒー入れてきたから2人で飲んで?」
「おお、さっすが蘭ちゃんや、ありがとうな。んじゃ、一息入れるとすっか」
「ありがとう、蘭さん―――、園子さん、ちょうど一息入れようとしていたところで・・・」
「ふふん、ついでみたいに言ったわね」
「そ、園子!」
「ま、いいか。な〜んか思ったより白馬君もからかい甲斐有りそうだし♪明日からが楽しみ〜」
さあ次は黒羽君と新出先生ね♪と楽しそうに鼻歌を歌いながら出て行く園子の後ろを、まったく〜と
ため息をつきながら蘭が出て行く。
「なんかええなあ、いつも離れてる蘭ちゃんがこうしてひとつ屋根の下にいるいうだけでもわくわくす
るわ」
「能天気な人ですね。僕はそこまで楽観的になれないですよ」
「よう言うわ。蘭ちゃん見て鼻の下伸ばしとったくせに」
「なな、何を言うんですか!僕は別に・・・ただ、蘭さんと直接合うのは久しぶりなので、ちょっと頬
が緩んだだけですよ」
「―――さよけ」
平次はあきれたように横目で深の顔を見た。
―――案外わかりやすいやっちゃな。工藤のやつよりよっぽど扱いやすいかもしれん。
「蘭ちゃん!ナニナニ差し入れ?」
部屋に入ったとたん、いすから飛び降りて駆け寄ってきたのは快斗。そのまま蘭に抱きつきそうな勢
いだったが、後ろにいた園子に気付きはっと足を止める。
「あ・・・鈴木さんもいたのか」
「悪かったわね。邪魔者がいて。―――けど、新一君と同様、あなたも油断したらすぐ蘭に手ェ出しそ
うね。要注意だわ」
「そ、そんなことないって。俺がそんなことするわけねえじゃん。なあ蘭ちゃん?」
「あ、うん。そうだね」
つられて蘭が頷くと、
「あ〜もう、蘭ってば乗せられやすいんだから。黒羽君って新一君に似てるし。気をつけなきゃだめよ
?蘭」
という園子の言葉に、蘭はちょっと拗ねたような顔をする。
「わかってるってば・・・」
その上目使いの表情がかわいくて、思わず見惚れる快斗と、呆れたように快斗を見る園子。
その光景を見て、さっきから様子を伺っていた智明がくすくすと笑いだした。
「なんですか?新出先生」
と園子が聞くと、智明は相変わらず笑顔で
「いや、楽しい2週間になりそうだなあと思ってね」
と言った。
「のんきですねえ。先生も参加してるんでしょう?このゲームに」
「まあね。でも、僕の場合は“参加することに意義がある”と思ってますから」
と穏やかに笑う智明のところへ、蘭がコーヒーを持っていく。
「先生、どうぞ」
「やあ、ありがとう、蘭さん」
そう言って、蘭を見てやさしく微笑みかける・・・。
それを見て、快斗が顔を顰める。
―――この先生、案外油断できねえな・・・。あの新一が警戒していただけはあるな。ぜんぜん興味
ないような振りして・・・。蘭ちゃんを見るあの目はかなりマジだぜ。
「じゃ、二人ともがんばって。おやすみなさい」
蘭がにっこり笑って出て行くのを見送って・・・。
「―――さて、もうひとがんばりするか。蘭ちゃんの入れてくれたコーヒーでも飲んで」
「そうですね。―――しかし、きみは本当に工藤君に似てるね。はじめ見たときは間違えそうだったよ」
2人が、仕切り越しに話をする。
「そうすか?けど、中身は違うでしょ?」
「そうだね。でも・・・案外似てる部分があるんじゃないかい?」
「蘭ちゃんを好きなとことか?」
快斗が笑って言うと、
「それもあるけど・・・なんていったらいいのかな。相反しているようで、似ていると言うか・・・も
っと根本的な部分で、とても似ているような気がするよ」
と穏やかに言う智明。
それを聞いて、快斗の笑いがぴたりと止まる。仕切り越しなので、顔は見えないが・・・
―――やっぱこの人、油断できねえ・・・。
「お、蘭。コーヒーか?」
蘭と園子が新一の部屋へ行くと、新一が嬉しそうに蘭を見た。
「うん。調子どう?」
「ああ、さすがに難しいよ。けど、今のところ順調だし・・・ゼッテー勝ってやるよ」
と言って、にやっと笑った。
「あの志保さんと博士が考えたゲームだもんねー。一般の人がやって、果たしてクリアできるの?」
と、ひょいとゲーム画面を覗いて園子が言う。
「さーな。志保のやつもひねくれてっからな。そう簡単にはクリアできねえよ」
「へェ。わたしじゃ絶対無理だな」
「―――ところで、このコーヒー。あいつらのとこにも持ってったのか?」
と、新一がじと目で聞く。
「うん。みんな結構仲良くやってるみたいね」
と、蘭がニコニコして言うと、
「あいつらに、なんかされなかっただろうな?」
と新一。蘭がきょとんとしている横で、園子が呆れたように言った。
「わたしが一緒にいるのに、なんかされるわけないでしょう?まったく・・・。でも、まあ注意しとか
ないと危ない人たちばっかよね。筆頭は黒羽君ね。蘭、のせられやすいからあの手のお調子者には注意
しないと」
「えー?でも、快斗くん優しくって良い人だよ?新一がいないときとか、遊びに来てくれるから寂しい
思いしなくてすんでるし」
その言葉に新一が顔色を変える。
「おめえなあ、俺以外の男といてそんなに楽しいのかよ?」
「だって・・・ほんとは新一とずっと一緒にいたいけど、無理でしょう?わたし、探偵してる新一も好
きだし。でもやっぱりちょっと寂しいの・・・。そんな時快斗くんが来て、いろんな話してくれると時
間があっという間に過ぎてくれるから、寂しいって思う時間が短くてすむんだもん」
「あらら、こりゃあがんばんないと、ほんとに蘭を奪われかねないわよ?新一君」
と、園子が楽しそうに言う。
「っせーな。んなことさせっかよ。あいつらに蘭はわたさね―よ」
「ま、せいぜいがんばってね。蘭、行こう」
「あ、うん。新一がんばってね。お休み」
「おやすみ」
2人が出て行ってしまうと、新一はコーヒーを一口飲み、またゲームに向かった。
―――快斗はアクションが派手だから目立つけどな・・・。他の奴等だって油断は出来ねーんだぜ?
園子。大体俺の目を盗んで蘭に近づこうなんて、考えること自体とんでもね―っての。見てろよ。必ず
勝って、二度とあいつ等が蘭に近づけねえようにしてやっからな。
新一は不敵な笑みを浮かべつつ、ゲームを進めていくのだった・・・。
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うわ〜〜、疲れた。人がたくさん出てくる話って疲れますね〜。
誰がどの台詞言ってるか、ちゃんとわかります?話自体は短いのに登場人物が多いから、台詞が多くな
っちゃうんですよね。いよいよ次回で終わる予定なんですが・・・。どうなることやら。
とりあえず、蘭ちゃん出番多いようで台詞少ないし。平次や深君には、ちょっとおいしい思いもしても
らいたいと思ってるんですが。予定は未定ということで・・・当てにしないで待っててくださいね〜♪
