The goddess of the victory 1



 「なんやねん、このメンバー構成は」
 西の名探偵、服部平次がリビングに集まった面々を見て目を丸くした。
「知るかよ。志保が集めたんだよ」
 と、仏頂面で答えたのは東の名探偵工藤新一。
 ここ、新一の自宅のリビングに集まっている人間は全部で5人。その顔ぶれは、滅多に同じ空間では
会えないような顔ぶれで・・・。
 まずは東西の高校生名探偵の2人。そして怪盗キッドという裏の顔を持つ高校生黒羽快斗。そして快
斗をキッドだと信じて疑わない同じく高校生探偵の白馬深。最後に、この中では唯一成人している医師
の新出智明。
 阿笠博士の養女である志保がこのメンバーに声をかけたのは1週間前。「大事な話があるから」と言っ
てここ工藤家のリビングに5人を集めたのだが、一体何のために集めたのか、誰も聞いている人間はい
なかったのだ。
「で?肝心のあのねーちゃんはまだ来てへんのかいな」
「ああ・・・。全く何考えてんだか・・・」
 と言いながら、新一はどうにもいやな予感がして仕様がなかった。志保にその話を聞いたとき、新一
は不機嫌な顔を隠そうともせず
「何で俺んちで集まるんだよ?」
 と聞いたのだ。すると志保はクスッと笑い、
「あなたの家、広いから。それに・・・話を聞いたらそこで良かったと思うはずよ」
「はあ?」
「あなたにとって、とても重要な話だから・・・もしその日、また事件で呼び出されたりしていなくな
ったりしたら、きっと後悔することになるわよ」
 とまで言われて、承諾しないわけにも行かず・・・。


 メンバー全員が集まり、約束の正午になったとき・・・志保と博士が、連れ立って現れた。なにやら
、博士の手には大きな紙袋が・・・
「あら、ちゃんと集まったのね」
 と言って、志保がいつものようにシニカルな笑みを浮かべる。
「一体何のようだよ?」
 新一がイライラと聞く。
「ふふ、そんなに焦らないで。―――まずはこれを見て欲しいの」
 と言って、志保は阿笠博士の持っている袋から、箱を一つ取り出した。その箱から出てきたのは1枚の
CDで・・・。
「なんやそれ、なんかのゲームか?」
 と、平次が覗き込んで言うと、志保は頷き、
「ご名答。これは、わたしと博士が共同開発したネット通信専用のロールプレイングゲームよ。博士が
あるゲーム会社に依頼を受けたものなの」
「で?まさかそれを俺たちにやらせるために呼んだとか?」
 と言ったのは快斗。
「あら、よく分かったわね。その通りよ」
 と、志保がしれっと応えたので他の面々も呆気にとられた。
「大事な話って、そのゲームのことだったんですか?」
 さすがの白馬も目を丸くする。志保は楽しそうにクスクス笑い、
「心配しないで。ちゃんと賞金も用意してるわ。このゲームを1番最初にクリアできた人には賞金100万
円がゲーム会社から進呈されることになってるわ。2番目の人には50万円」
 賞金の話を聞いても5人の顔色は変わらず、訝しげな視線が志保に集中する。
「さっさといえよ。わざわざ俺たちを集めた理由、それだけじゃねえだろ?」
 新一が促すと、志保は肩を竦め、
「せっかちな人ね。―――このゲームはかなり難しいはずなのよ。一般の人が短期間でクリアするのは
難しいわ。でも半年後には製品化することが決まってるから、今月中には一度クリアしてみなければい
けないのよ。そのためにあなたたちを集めたの。でも只賞金出すからやってくれと言ってもやる気には
ならないでしょう?揃いも揃って一癖あるような人たちですからね」
 嫌味な志保の言葉に、ほぼ全員が顔を顰める。博士は横で冷や汗をかいていた。
「そこで、あなたたちが絶対にやる気を出す方法を考えたのよ」
 と言って、ニヤッと笑う志保。
 このとき、いやな予感がしたのは新一だけではないはずだ・・・。
「1番最初にこのゲームをクリアした人には副賞があるわ。とっておきのね」
「なんなんだよ?」
 新一がイライラと聞く。
「あなたにとっても最高の副賞だと思うわよ。ね?博士」
 いきなり振られた博士は情けない顔をして・・・それでも全員の“早く言えよ”と言う鋭い視線を受
け、仕方なく口を開く。
「ああ・・・その副賞はな・・・毛利蘭さんとのデート権じゃよ」
 その言葉に一同固まり・・・もちろん最初に言葉を発したのは新一で・・・
「な―――なんだよ!?それ!!」
「あら、最高でしょ?もちろんただのデートじゃないわ。行き先はハワイ。航空券もホテルの予約もも
う取ってあるわ」
「って、それ旅行じゃん」
 と、快斗が言う。
「そうね」
「ちょ、ちょっと待てよ!何でそれが副賞なんだよ?俺以外の人間がそれもらったって意味ねえだろ?
服部には和葉ちゃんがいるんだし、快斗には青子ちゃんが。白馬だって別に蘭のことなんか―――」
 焦って言う新一に、志保は意味ありげな視線を投げる。
「それはどうかしら?―――服部君、あなた最近蘭さんとメール交換してるらしいわね」
 と言うと、平次が目に見えてうろたえる。新一は唖然とし、
「―――なんだよ?それ?聞いてねえぞ」
「あ、いや、それはな工藤、その・・・」
「和葉さんも応援してくれてるらしいじゃない?」
「―――本当か?服部」
「いや、その・・・最近あの姉ちゃん、ごっついきれーになったしな・・・。なんや気になってしゃあ
ないねん・・・」
 と、平時が照れくさそうに顔を赤く(赤黒く?)して言う。
「か、和葉ちゃんは?」
「あいつはただの幼馴染や。あいつも・・・蘭ちゃんならしゃあないって言うてくれとるし・・・」
 突然の平次の告白に、新一は言葉もなかった。
「それから黒羽君。あなた、ここの所3日と空けず蘭さんに会いに行ってるそうじゃない?」
「な・・・快斗、テメエ!?」
 新一が快斗をジロリと睨む。快斗は冷や汗をかきつつ、
「え?えーと・・・」
 と何とか言葉を紡ぎ出そうとするが、うまくいかず、代りに志保が続けた。
「今月に入ってからは、2日、3日、6日、8日・・・それから昨日もあってるわね」
「2日、3日・・・?それって・・・俺が事件で呼び出されてる日じゃねえか」
「そうよ。どこで聞いてくるんだか、あなたが蘭さんの側にいないときを狙って会いに行ってるのね」
「快斗!」
 快斗はあきらめたように肩を竦め、
「しゃあねえだろ?好きになっちまったもんはさ」
 と言った。
「オメエ、青子ちゃんは?」
「あいつはただの幼馴染。青子だって納得してるぜ。っつーか、あいつも蘭ちゃんのファンだから。今
日新一の家に行くって言ったらスゲエ羨ましがってたもん。新一の家に行くってことは蘭ちゃんも来る
だろうからって。“青子も蘭ちゃんに会いたい〜”ってな」
 青子の声を真似て言う快斗に、新一は半ば呆れてしまった。
「あのなあ・・・」
「それから白馬君」
「僕は別に・・・」
 と否定しようとする深に、
「あの黄昏の館の事件以来、蘭さんのことをいろいろ調べてるらしいじゃない?」
 と、志保がニヤッと笑って言う。
「!それは・・・あのころ工藤新一が行方不明だって話だったから、彼女のことを調べれば何かわかる
かと―――」
「今はもう必要ないんじゃない?」
「そ、それは・・・」
「それに、蘭さんはあなたから何度か手紙をもらってるって話だけど?」
 そこまで言われて深はグッと詰まってしまった。
 いつもはあまり感情を表に出さない深の態度に、快斗も驚く。
「おい、まじかよ白馬?」
「―――美しい女性に興味を持つのは男として当然のことでしょう?」
 肩を竦め、開き直って言う深に、新一も呆然とする。
「―――で、最後は新出先生ね」
 全員の視線が智明に集中する。
「もうバスケ部の臨時コーチの必要はなくなっているはずなのに、毎日のように放課後になると帝丹高
校に現れてるそうね」
「それは、バスケ部のことが心配だからで・・・」
「ついでに空手部も覗いてるわけですか」
 と言ったのは新一だった。
「あら、知ってたの工藤君」
「まあな」
「それは・・・」
「あの“シャッフルロマンス”の代役を頼まれた時もずいぶん熱心に練習なさってたとか」
「あまり時間がなかったですし・・・」
「それにしては立ち稽古の時もあのラブシーンで熱のこもった演技をなさってたと聞きましたけど」
 志保にさらっと言われ、言葉を無くす智明。それを聞いて顔色を変えたのは新一だけではなかった。
「というわけで・・・もちろん強制はしないけど。このゲームに参加したくなければ帰って頂いて結構
よ」
 とニッコリ笑う志保。全員相手の出方を伺うように視線を彷徨わせる。
「待てよ。このこと、蘭は知ってんのかよ?」
「ええ、もちろん。蘭さんの承諾済みよ」
「本当か?博士」
「あ、ああ。はじめはいやがっとったんだがなあ。志保君の“工藤君が勝つと思ってるのなら良いでし
ょう?”と言う一言で・・・」
 新一は深い溜息をついた。
「俺は参加するで。ゲームも面白そうやし、もう工藤にばれてもうたら何も遠慮する必要あらへんし」
 と平次が言うと、快斗も頷き
「そうだな。俺も参加する。蘭ちゃんとハワイ旅行なんてまたとない機会だし」
 と言ってニヤッと笑う。
「では僕も。堂々と蘭さんと旅行できるんですからね」
 と、白馬も頷いた。
「3人決定ね。後は新出先生と工藤君だけど?」
「俺がやらねえわけねえだろ?」
 とヤケクソ気味に言う新一。
「・・・じゃあ僕も参加しますよ。名探偵達相手じゃ勝ち目は薄そうですが・・・。1人だけ棄権する
んでは格好つかないですからね」
「これで全員参加ね。ところで、ゲームをする場所だけど・・・。工藤君、この家を提供していただけ
ない?」
 と言う志保の言葉に新一は目を丸くする。
「はあ?何でだよ?」
「さっきも言ったけれど、このゲームはかなり難しいの。この家の書斎には山ほど本があるでしょう。
きっと役に立つと思うわ。それに。これから自分の家に帰ってからやるとすると不公平になるでしょう
?特に服部君は」
「せやなあ。これから真っ直ぐ帰ってもゆうに3時間はかかるな」
「もちろんどうしても自宅でやりたいと言う人に、無理に留まれとは言わないけれど・・・。パソコン
のことならゲーム会社から人数分レンタルしてあるから心配要らないわ。それと・・・」
「それと?」
 新一がまだ何かあるのかと言わんばかりに聞く。
「これだけの人数が一緒に寝泊りすると、食事や洗濯なんかに困るでしょう?男の人ばかりで」
「まあ、そうだけど・・・なんだよ、オメエがやってくれるとか?」
 ちょっと嫌そうに言う新一に、いたずらっぽい視線を向けて志保は笑った。
「わたしよりももっと適任がいるでしょう?ここにいる全員が喜ぶ人が・・・」
「おい、まさか・・・」
「そう、そのまさか、よ。もうすぐ来るころだけど・・・」
 と言って、玄関のほうへ視線を移す。と同時に、チャイムの音が響いてきた。
「来たようね」
 新一が慌てて玄関に向かい、ドアを開ける―――。
「あ、新一。もう話聞いた?」
 そこに立っていたのは、予想通りの人物・・・そう、毛利蘭その人だったのだ・・・。


  


 
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 この作品は、キリ番5555をゲットされたモンブラン様のリクエストによるものです。
「蘭ちゃんとのデート権を賭けたお話」とのことで、「快斗以外の人を出して」というご要望がありま
したので、ちょっと考えまして・・・このようなメンバーになりました。
 深君をかいたのは初めてで・・・ちょっとキャラが掴みきれてません。イメージと違っていたらごめ
んなさい。そして、人数が多いため会話も多く、話も長くなってしまいました。いつまで続くか自分で
もまだ分かりませんが、楽しいお話にしたいと思ってます♪