喫茶店に入った慎と岳は、4人がけのテーブルに向かい合って座った。
「で?話って?」
慎のぶっきらぼうな言葉に、岳はちょっと笑った。
「あんたっていつもそんなしゃべり方?顔はきれいなのにすげークール。兄貴と似てるような気もするけど、やっぱり正反対な気もするし」
「―――無駄なおしゃべりをしに来たんじゃねえよ」
「はいはい、わかったよ」
そう言って悪びれる様子もなく肩をすくめる岳。
オーダーしていたクリームソーダに口をつけ、ようやく口を開いた。
「―――おれさ、山口が好きなんだよね」
唐突に、ストレートに言われた言葉に慎は眼を瞬かせた。
「みんなにヤンクミなんて慕われてる姿ははっきり言ってちょっと興醒めな部分もあるんだけどさ、でもそう言われて張り切ってる姿とか、馬鹿正直なとことか、すげえ強いとことか・・・・・最初は兄貴に話聞いて興味持ってただけなのに、気が付いたら惚れてた。あんな女、他にいないって思ったらどんどんハマっていっちまって。今じゃ他の生徒と話してるとこみただけでも嫉妬してるよ」
そう言って笑う岳を見て。
慎は、久美子の言葉を思い出していた。
『―――あいつ顔は兄貴にそっくりだが性格はぜんぜん似てないぜ。一見、兄貴と同じ冷血漢みたいだけどさ。なんつーの?素直?元気?とにかくまだまだ子供って感じでさ。かーわいいったらないよ』
確かに、兄の律とは顔はそっくりなのに全く逆の印象を抱くのは不思議な感じだった。
「―――で、それを俺に言って、どうするつもりだ?」
慎の言葉に岳はくすりと笑い、からかうような視線を慎に向けた。
「あんたも、山口が好きなんだろ?そのために弁護士目指してる。すげえ、健気だよな」
―――前言撤回。やっぱりこいつは上杉に似てる。
「わざわざからかいに来たのか?」
「まさか。そうじゃなくて―――兄貴のこと、忠告しとこうと思って」
「上杉のこと?」
「ああ。兄貴のやつも、山口を狙ってっから」
「は?」
思わず顔をしかめる慎。
岳はぽりぽりと頭を掻いた。
「まあ、俺が挑発したせいもあるんだけど・・・・・。いきなりやる気出しちゃって、山口をモノにするなんて言い出しやがった」
「―――あいつが、山口を?」
「そ。兄貴のやつ、あれでも一応あんたのこと意識してんだよな。あんたには負けたくないって思ってるんだ。それから、弟の俺に馬鹿にされたってのも癪にさわったんだろうけど・・・・・。とにかく、兄貴には気をつけた方がいい。あいつ、結構過激な性格してっから、何するかわかんねえぜ」
その言葉に。
慎は妙な胸騒ぎを覚えたのだった・・・・・。
そのころ久美子の方は。
岳がどこにもいないので、仕方なく帰ろうと校門に向って歩いていた。
そんな久美子の目の前に現れたのは―――
「どうも」
「上杉?お前、こんなとこで何してんだ?」
不思議そうに首を傾げる久美子に、にこりと微笑んで見せたのは上杉律だ。
「授業が早く終わったから、岳を迎えに来たんだ」
「へえ、優しいとこもあるんだな。けど、上杉―――弟なら、もう帰っちまったぞ」
「帰った?1人で?」
「ああ。帰りも送って行くって言ったのに、あいつ・・・・・。照れてんのかね」
首を傾げる久美子。
律はそんな久美子を見つめながら何やら考え込んでいたが―――
「―――折角迎えに来たけど、それなら仕方ないな。あんた、時間ある?」
「は?あたし?」
「ああ。せっかくここまできてただ帰るのもなんだし。お茶でも付き合わないか?もちろん俺のおごりで」
優しい笑顔で久美子を見つめる律。
一方の久美子は、突然自分に優しくなった上杉に眉を顰めた。
「気持ちわりいな。どういう風の吹きまわしだ?言っとくけどあたしはおまえにあげられるようなもの何も持ってねえぞ?」
久美子の言葉に、律はぷっと吹き出した。
「そんなこと、あんたに期待してないよ。相変わらず面白い人だよな」
くすくすと笑う律。
久美子はそんな律を物珍しそうに眺めた。
「お前も、人並みに笑えるんだな」
その言葉に、律がぴたりと笑うのをやめる。
「その方がいいよ。笑ってるといくらか普通の若者に見える。もともと顔はいいんだし、もっとそうやって笑えばいいんだよ」
にこにこと、無邪気に笑いながら律の肩を叩く久美子。
律は何も言わず―――
ただ黙って、久美子を見つめていた・・・・・。
|