***Bouquet vol.1 〜総つく〜***



 「そういや、静から招待状届いた?」
 俺の言葉に、牧野はきょとんと首を傾げた。
「招待状?なんの?」
「結婚式の」
 その言葉に、目を見開き驚く牧野。
「結婚式!?誰が?誰と!?」
「静が、フランス人と。同じ弁護士だって。何だ、知らなかったのか?」
「ぜんっぜん!静さんが・・・・・」
 言ったきり、黙ってしまった牧野。
 
 俺は、驚きのあまり固まってしまっている牧野の横顔を、ちらりと盗み見た。

 今日は、英徳の高等部の卒業式だった。
 牧野は無事就職先も決まり、相変わらずバイトに明け暮れる毎日。
 卒業式の後もバイトだという牧野を、車で送ると言って乗せたのだ。

 俺たちが高等部を卒業してから1年。
 あのプロムの日以降、牧野と司は会っていないらしい。
 司が強引に置いて行ったTV電話でたまに会話はしているらしいが、時間が合わないことが多いので、最近はそれもすれ違い気味だと牧野がこぼしていた。
 類は相変わらずそんな牧野たちを穏やかに見守っていた。
 いまいち本心を見せないあいつだけど・・・・・おそらくまだ牧野のことが好きなんだろう。
 3日とあけず牧野の家に顔を出しているという話を聞けば、そう思わずにいられなかった。

 そして俺はといえば、高等部を卒業してからというもの、退屈な毎日で・・・・・。
 高等部のときと大して変わらないはずなのに、どこかぽっかりと穴が開いてしまったような感覚。

 最初、それは幼馴染である司が抜けてしまったせいだと思っていた。
 でもそれは違うと気付いたのは、最近のこと。
 気付けば足が向いている高等部。
 自然と牧野を探していた。

 ふざけあったり、愚痴を聞いてやったり、からかったり・・・・・
 なんでもないやり取りが楽しくて。

 いつからか・・・・・
 俺の中に牧野が住んでいた。
 なくてはならない存在として・・・・・。

 類と2人で非常階段で楽しそうに話し込んでる姿を見ると、イライラした。
 『昨日も類が来た』と楽しそうに話す牧野に胸が痛んだ。
 寂しそうに司のことを話している姿を見れば、抱きしめてやりたくなった。

 叶うはずがない。

 そんな恋を、自分がするなんて・・・・・

 どんな女と付き合っても、俺の心の隙間は埋まらない。
 それを埋めることが出来るのは、牧野だけだ・・・・・。

 「今日当たり、届くんじゃないか?航空券も入ってたから、たぶん類やあきらも一緒に行くことになる」
「航空券って・・・・・どこで式挙げるの?」
「フランスに決まってるだろ」
 俺の言葉に、牧野はさらに目を丸くする。
「フランス!ひゃ〜〜〜・・・・ってことは、もしかして道明寺も行くの?」
 一瞬、ずきんと胸が痛む。
「ああ、たぶんな。あいつは忙しいから、大変だろうけど・・・・・。静の結婚式だ。多少無理してでも来るだろう」
「そっか・・・・・」
 もっと喜ぶかと思えば、なぜか複雑そうな表情で溜息をつく牧野。
「どうした?嬉しくねえのかよ。1年ぶりの再会だろ?」
「うん・・・・・。なんか、久しぶりすぎて・・・・・いろんなことがあったし、あいつと会うときは必ず何かが起こる気がするから・・・・・・本当に会えるのかなって」
「それでも、会いたいんだろ?」
「・・・・・どうかな」
 俯いたままの牧野。
「おい」
「だって、なんか・・・・・会えないことに慣れちゃって・・・・・」
 そのまま、窓の外に視線を移す牧野。
「・・・・・寂しいのにも、慣れてきちゃったかな」
 なんとなく声をかけることが出来なくなってしまい、俺はまた前を向き、運転に集中した・・・・・。

 「帰りも、迎えに来てやろうか?」
 バイト先に到着し、ドアを開けて降りる牧野に声をかける。
「え、いいよ。ここまで送ったもらえただけで十分。ありがとう、西門さん」
 にっこりと微笑む牧野がまぶしかった。
「ん・・・・・。じゃあな、がんばれよ」
 そう言ってまた車を走らせる。

 なんとなく落ち着かなかった。

 牧野が心変わりなんかするはずない。
 そう思うのに、さっきの牧野の表情が気になって・・・・・。

 そんなことを考えて溜息をついたとき、携帯の着信音が鳴り出した。
 一度車を路肩に寄せ、電話に出る。
「はい」
『あ、総二郎?』
 電話の相手は類だった。
「どうした?珍しいな、お前から電話なんて」
『今日、静から結婚式の招待状が届いたんだけど』
「ああ、俺んとこにも来たぜ」
『牧野のやつも、一緒に届いたんだ』
「は?何で・・・・・ああ、牧野の住所なんてしらねえか、あいつ引っ越してるし」
『うん。牧野に、渡してほしいって書いてあったんだけど・・・・・』
「ふうん」
『総二郎から、渡してくれない?』
 類の言葉に、俺は一瞬驚く。
「は?何で?お前しょっちゅう牧野の家行ってるだろうが」
『明日は行けない。会社の仕事、頼まれてて。だから、悪いけど』
「・・・・・わかった。これから取りに行けばいいか?」
『うん、じゃ』
 そこですぐに切れる電話。
 相変わらずマイペースなやつだ。
 けど・・・・・
 あいつが、牧野に関することを俺に譲るなんて・・・・・

 俺は、なんとなく落ち着かない気持ちで、類の家へ向かった・・・・・。







  

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