***Believe vol.4 〜総つく〜***



 
 「―――これはどういうことだ?つくし。説明してもらおうか」

 完全に怒ってる、総二郎のその目が怖かった。

 「どういうことって―――美作さんのうちに行ったら、類と会って―――で、久しぶりだし、話してたら長くなっちゃって・・・・・」
「で、ここで抱き合ってた?どういう流れでそんな展開になるんだ?お前、俺の妻だって自覚ないわけ?」
「あ、あるわよ。別に、抱き合ってたわけじゃなくて―――」
「俺が、抱きしめてただけ」

 平然と、穏やかにそう言う類を、じろりと総二郎が睨みつける。

 「類、お前―――何のつもりだ?つくしを、どうするつもりだった?」
 総二郎の言葉に、肩をすくめる類。
「つくしが、ずいぶん凹んでるみたいだったから、慰めようとしただけ。本来なら夫の仕事だと思うけど、総二郎は忙しいみたいだし。俺なら、その役目ができると思った。牧野―――つくしが望むなら、俺は何でもするよ」
「てめ・・・・・」
 総二郎が、類につかみかかる。

 あたしははっとして、総二郎の腕をつかんだ。
「ちょっと!やめてよ!」
「何でもするって?このままつくしをかっさらってでも行くつもりかよ!」
「つくしがそれを望むならね。もし、つくしがそれを望んだとしたら、それは総二郎のせいでもあるんじゃないの?」

 類の言葉に、総二郎の瞳が一瞬揺らぐ。

 冷静な類の瞳。

 その奥で、何を考えてる・・・・・?

 「―――つくし」
 総二郎の声に、あたしははっとして総二郎の方を見る。
「お前は―――どうしようと思ってた?このまま・・・・・類に着いて行くつもりだったのか?」
「そんなこと・・・・・」
「俺は忙しくて・・・・・お前の話をちゃんと聞いてやれてなかったかもしれない。だけど、お前とおふくろのことを心配してなかったわけじゃない。仲良くしてほしいとは思ってたけど・・・・・放って置いたつもりはなかった。似た者同士、急に素直になれって言っても無駄だと思って・・・・・・。そう思ってた俺は、間違ってたのか?」
「総二郎・・・・・」
「お前が、類を頼るほど―――俺は頼りない夫だったのか・・・・・?類だけじゃない。いつも、あきらを頼るよな。俺に言えないことでも、あきらには言える。友達として―――それは認めてきたつもりだけど」
 類から手を離し、あたしを見つめる総二郎の瞳にドキッとする。
「でも―――俺は、お前に何でも言ってほしい。もっとちゃんと、俺にわがままを―――」
「―――わがまま?」  

 ずっと、何かが引っ掛かっていた気がする。

 あたしは、総二郎に何を求めてた・・・・・?

 「あたしが、わがままを言えばよかったの?じゃあ総二郎は?」
 あたしの言葉に、総二郎が目を見開く。
「俺?」
「総二郎は、あたしに何でも言ってくれてた?仕事のこと―――あたしにはどうせわからないことだって、勝手にそう判断してあたしには何も言ってくれなかったじゃない。あたしはそんなに頼りにならない?そりゃあ、茶道の世界のこと、あたしにはまだ分からないことだらけだよ。だけど―――それでも、愚痴を言うこともできないような妻なの?あたしは、何のためにあの家にいるの?」
「つくし・・・・・」
「・・・・・お義母さまのこと、あたしは好きだよ。喧嘩したって、次の日の朝にはお互いちょっと反省して、歩み寄ろうとしてるのがわかるの。そのたびに、あたしは総二郎に嫁いでよかったって思えた。でも―――総二郎とは、結婚してからずっと、距離が離れていくような気がしてた。考えてること、悩んでること、何でも話してほしいのに、何も言ってくれない。あたしはそんなにダメな妻なのかって思ったら―――1日中あの家にいるのは息が詰まって」
「だからって、毎日のようにあきらの家へ行くのか?お前こそ、あきらに言うくらいなら俺に直接それを言えばいいじゃねえか!何でいつもあきらなんだよ?何で類に抱きしめられて抵抗もしねえんだよ?俺は、お前の夫じゃねえのかよ!?」

 あたしと総二郎が睨みあっている間で、類は退屈そうに大きなあくびをしていた。

 「―――眠くなってきたなあ。つくし、どうする?俺と一緒に来るなら待ってるけど?」
 その類を、総二郎がキッと睨む。
「誰が行くか!お前1人で行けよ!」
「決めるのは、つくしでしょ?夫婦なんて、紙切れ1枚の話だし。今の話だって、いまさら何言ってんだって話だよ。お前ら、毎日一緒にいて何話してたの?夫婦になって、距離が離れたって?そんなんで、一生やっていけるわけ?」
 いつになく厳しい類の言葉に、あたしと総二郎もすぐには言葉が出てこなかった。

 「―――一生、添い遂げるって、誓ったんじゃなかったの?俺はそれを聞いて、総二郎にならつくしを任せられるって思ったよ。2人がお互いを信じていれば、きっと大丈夫だろうって。茶道だろうがなんだろうが、つくしにはそんなこと関係ない。そんな狭い世界にとらわれる奴じゃないだろ?どうしてもっと言いたいこと総二郎に言わないのさ。何に気を使ってるの?総二郎だって。何のためにつくしと結婚したの?もっと、お互いを信じてぶつかって行きなよ」

 言う言葉がなかった。

 実際その通りで。

 何でこの人は、いつもなんでもわかってしまうんだろう。

 あたしたちが気付かなかった、本当に気持ちまで―――

 「類―――」
 総二郎が口を開くのに、類はそれを手で制した。
「付き合いきれないから、俺はもう行くけど―――。つくし」
「え?」
「本当に気が変わったら―――その時はいつでも、俺のところに来て。もちろん、そうなったら俺はつくしを離したりしないから、そのつもりでね」
 そう言ってにやりと笑う類を、複雑な表情で見る総二郎。
「―――お前、俺の味方なの、敵なの」
「俺は、つくしの味方。だから、つくしを悲しませるようなことをすれば俺の敵。幸せにしてくれるなら―――ずっと味方だよ」
 その言葉に総二郎はため息をついて。
「わかった―――。せいぜい、味方につけられるよう努力するよ」
「そうして。あ、それからつくし」
「何?」
「夫婦仲いいのもいいけど、あきらが寂しがるから、時々は遊びに行ってあげて」
「―――うん。ありがとう、類」

 笑顔で手を振り、そのまま行ってしまった類。

 「風みたいなやつだな」
 総二郎の言葉に、あたしも頷いた。
「でも、今日のは熱い風だった」
「ああ―――。あんな類、久しぶりに見たな。お前が絡むと・・・・・あいつは熱くなる奴なんだって、思い出したよ」  

 総二郎の手が、あたしの手をつかむ。

 「―――つくし」  

 総二郎の横顔を見上げる。

 「―――愛してる」

 ギュッと、握る手に力がこもる。

 「―――あたしも」

 「帰ろう」

 「うん・・・・・」

 大事なことは、いつでもあたしと総二郎の中にあるんだ。

 それを、時々は口にして、伝えなくちゃね・・・・・。

 「あきらのとこに行くのは、月1くらいにしとけ」

 「え―、少ない。せめて週一」

 「だめ。月2」

 「ケチ」

 「―――おれと一緒なら週一でもいい」

 きっと、うまくいく。

 そう言ってる類の姿が、見えた気がした―――。



                                                      fin.







お気に召しましたらクリックしていってくださいね♪