***朝までずっと 〜つかつく〜***



 『牧野つくしに、クリスマスは関係ねーな』

 西門さんの、冷やかすようなセリフがよみがえり、あたしは思わず思い切り地面を蹴飛ばした。
 「ふん!どーせね!」
 何人もの女の人とともに夜の街へ消えて行った西門&美作。
 『女と遊べるのもあと少しだから』と、彼らは彼らなりの大学生活をエンジョイ(古っ)してる。

 あたしは相変わらず、バイトに明け暮れる日々。
 婚約までした道明寺は今頃N.Yで頑張っているはずだから。
 あたしだけ、遊んでるわけにいかないもん。

 だけど今日はクリスマス。
 せめて今日だけは。
 声だけじゃなくって、その姿が見たいと。
 そう思うのは、罪じゃないよね・・・・・?

 すっかり部屋の隅に追いやられているTV電話を、帰ったらつけてみようとあたしは夜の道を急いだ。

 暗がりの中、いつものぼろアパートの姿が見えてきて、ようやくほっとする。

 そして。

 あたしは、足を止めた。

 目の前にいる人物に、言葉が出てこない。

 「おせーぞ。どこほっつき歩いてんだ」
 ふてぶてしい態度はいつものこと。
 だけど、声だけじゃない。
 映像だけじゃない、その姿が。
 今、目の前に―――

 「おい、何ぼーっとしてんだよ。せっかく会いに来てやってんのに、もっと嬉しそうな顔しろよ」
 ずんずんと近づいて来て、あたしの頭にその大きな掌を乗せる。

 ―――あったかい―――

 そしてようやく。

 あたしは、目の前の光景を受け止めて―――
 道明寺に抱きついた。
「お、おい」
 焦る道明寺の声。
 いつも偉そうなくせに、こういうときは可愛いんだから。
 ちょっとおかしくなって、くすりと笑う。
「―――メリークリスマス。プレゼント、ないよ」
 道明寺に抱きついたままそう言うあたし。
 道明寺の腕が、そっとあたしの背中を抱きしめた。
「いらねえよ。お前に会えたのが―――何よりのプレゼントだ。ずっと―――会いたかった」
「あたしも―――。離れてるのが、こんなに辛いって―――今日ほど思ったこと、ない。会いに来てくれて―――ありがとう」
「殊勝なこと言うなよ。調子狂う」

 そう言いながらも、あたしの背中をそっと撫でる道明寺の手は優しくて。

 いつまでもこのままでいたいと思ってしまう。

 だけど、さすがにそれは風邪をひきそう。
「ね―――うち、入る?暖房壊れてて寒いけど」
 と言うあたしの言葉に、道明寺はぷっと吹き出して。
「知ってる。さっき行ってみたら―――お前の家族が3人、震えながら飯食ってた。しょうがねえからメイプルのビュッフェに連れてって、部屋もとっといた。今頃楽しんでるはずだぜ」
「ええ!?本当に?」  

 ―――いつの間に。

 「せっかくのクリスマスだろ?俺たちだけ幸せになったんじゃ悪いからな」
 いたずらっぽくウィンクを決めて。
 それがあまりにもかっこよく見えて、見惚れてしまった。
「―――おれたちも、行こう」
「え―――どこへ?」
「2人きりになれるところ行って―――2人だけで、クリスマスパーティーするんだよ。まさか、他の予定入れてねえだろうな」
 途端に心配そうな顔をする道明寺。
「当たり前、でしょ。こんな時間に―――盛り上がってるところに水差しに行くほど、あたしも空気読めなくないっての」
「じゃあ、行こう。そこでケーキ食って、シャンパン飲んで、それから―――」
「それから?」
「それから―――朝までずっと、一緒にいよう。ずっと―――お前を、感じてたい」

 切ない瞳で、見つめるから。

 あたしも、意地を張れなくなる。

 ずっと一緒に。

 ずっと、あなただけを感じてたいよ―――。

 ―――メリークリスマス。

 こんなに切なくて、幸せなクリスマスは、初めて―――



                       fin.









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