***ずっとずっと 〜類つく〜***



 『ごめん、クリスマス、帰れそうもない』

 携帯電話の向こう側。
 今頃N.Yにいるだろう花沢類の声に、あたしは気持ちが凹んでいくのを止めることができなくて。

 だけど、それを声には出さないようわざと明るい声を出した。

 「しょうがないよ。あたしもちょうどバイト入ってたし。お仕事、頑張ってね」

 本当は、バイトなんてない。
 その日は、1ヶ月も前から休みを取ると宣言していた。

 『クリスマスは彼と過ごすから』
 なんて言っちゃって。
 今さら、それを取り消すことなんてできない・・・・・。


 結局クリスマスの朝はいつものように6時には起きて、家族の朝食をつくり、進を学校へ送り出し、両親を仕事へ送り出し・・・・・。

 残ったあたしは洗濯、掃除、それから店が開くまでの時間をTVを見てぼんやり過ごしてた。

 TVもクリスマス一色だ。  

 ―――早く、今日1日が過ぎてしまえばいいのに。

 不貞腐れ気味にそんなことを思った時。

 “ピンポーン”

 インターホンの音に、あたしはだるい足を引きずり、玄関へ。
「どなた?」
「―――田村と申します。牧野つくし様に、花沢類さまよりご伝言が―――」

 すべて聞き終える前に、あたしは慌ててドアを開けていた。

 そこに立っていたのは、類の秘書の田村さんで―――
「類の伝言て―――」
 あたしの言葉に、田村さんがにっこりと微笑む。
「すぐに、来てほしいとのことです」
 その言葉に、あたしは目を瞬かせた。
「は―――?すぐって、どこへ―――」
 戸惑うあたしをよそに、田村さんは後ろに控えていたもう1人のスーツ姿の男の人から大きな箱を受け取り、あたしにそれを差し出した。
「こちらへ、お召し替えいただけますか?」
「え―――」
 言われるままにあたしはそれを受け取ると、一度扉を閉め、その箱を開けてみた―――。


 着替えを終えたあたしは、外で待っていたリムジンに乗り込み、そのまま空港へ―――。

 そして花沢家の自家用ジェットに乗せられ、あっという間に日本脱出―――。

 「あの―――花沢類は―――」
 どうにも現実にまだついていけないあたしの言葉に、田村さんは相変わらず穏やかな笑顔を見せた。
「向こうでお待ちです」
「向こうって―――」
「もちろん、N.Yです」

 ―――やっぱり。

 わかってはいたけれど―――
 せめて事前に連絡してくるとか―――しないか。
 花沢類だもんね・・・・・。

 F4と関わってからというもの、こういう全く予想もつかない展開にはずいぶん慣れてきたつもりだったけれど―――  


 そしてようやくN.Yに着いた時にはあたしはすっかり熟睡していて。
 田村さんに笑顔で起こされたのだった・・・・・。


 下り立ったところにはまたリムジンが停まっていて。

 今度はそれに乗り込み、またどこかへ連れて行かれる。

 一体どこへ連れて行かれるのか。
 もう聞いても仕方ないと思い、あたしはどこかで待ってくれている類の姿を思い浮かべ、また瞼を閉じた。


 「―――でか」
 目の前に、突然現れた巨大なクリスマスツリー。
 眩いばかりの光にあふれ、あたしを見下ろしているそれを、あたしは呆然と見上げていた。
 すっかり暗くなった周りを一気に明るくするほどのそのツリーの下に、誰かが立っているのが見えた。

 穏やかな笑みを浮かべ、あたしを見つめているその人に向かって、あたしは迷うことなく駆け出していた―――。

 「類!!」
 胸に飛び込んだあたしを、ぎゅうっと抱きしめてくれた類。
「牧野―――会いたかった」
 いつもよりも甘く響く声が、耳をくすぐった。
「びっくりした―――」
「驚かせようと思って―――でも、俺の方が驚かされた」
 その言葉に、あたしは類の顔を見上げる。
「なんで?」
「その格好―――すごく似合ってる。思ってたよりもずっと―――きれいだ」

 言われたセリフに、思わず赤くなる。

 サーモンピンクのシフォンドレス。
 何重にも重なった裾はアシメントリーなデザインになっている。
 胸元には濃いピンクの薔薇のコサージュと、首にはベルベットのリボンチョーカー。
 肩には大判の同系色のピンクのストール。
 ふわりとした印象のドレスは花の妖精みたいなかわいらしい感じ。
 すごく素敵なドレスだけどあたしに似合うのかなって、自信がなかったのに。

 類の言葉に、あたしは嬉しくて―――でも素直になれなくて、上目遣いに類を見つめる。
「ここに来るまで―――ずっと不安だったんだから。本当に類が、あたしを待っててくれてるのかって。何も言ってくれないんだもん」
「ごめん。本当は俺が日本に行きたかったけど―――どうしても間に合わなくて。田村に無理言って、迎えに行ってもらった。今日は―――やっぱりどうしても会いたかったから」
「―――わがまま」

 でも、そんなわがままも嬉しい。

 いたずらっ子みたいに笑って、あたしを抱きしめてくれる類。

 そのぬくもりを離したくなくて、あたしも類に抱きついて。

 「―――その格好じゃ、冷えちゃうね。もう行こう」
 あたしの体を抱きしめながら、類がくすりと笑う。
「どこへ?」
「俺のうち―――。そこで、2人だけでクリスマスパーティーしよう」

 そう言ったかと思ったら、類が突然あたしの体を横抱きに抱えるからあたしは驚いてその首にしがみつく。

 「わっ!?ちょっと、あたし歩けるよ!」
 それでも類はしれっとして。
「知ってる。でも、こうしたいんだ。今日はもう、絶対離さない―――」  

 そうして、唇に触れるだけのキス。

 それだけで、あたしは何も言えなくなる。

 だって、あたしも類と同じ気持ちだから。

 ずっとずっと、朝まで離さないで。

 2人きりで、クリスマスを迎えたいから―――

 ―――Merry Christmas&I Love you.....

 耳元で、囁いて―――



                      fin.









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