クリスマスだから傍にいてほしいなんて、甘えたことを言うつもりはなかった。
彼は仕事で忙しいんだし。
実際、今は仕事でエジプトに行ってる。
もう、かれこれ半年は会っていないだろうか。
美作あきらという人と付き合い始めて、1年がたとうとしていた―――。
去年のクリスマス。
「好きだ」
そう言ってくれた美作さん。
道明寺と別れてからはずっと1人で。
仕事だけが生きがいだなんて強がっていたあたしは、23歳だった。
貿易関連の会社に勤めたこともあって、美作さんとは何かと会う機会もあり2人で飲みに行くこともあった。
だけどあたしは恋愛に臆病になってて。
美作さんとも一定の距離を保とうと、そう思っていたのに。
いとも簡単にその距離を飛び越えてきてしまった美作さんに、
あたしは白旗を上げるしかなかったんだ・・・・・。
この半年。
寂しくなかったかと言われれば嘘になるけど、道明寺をずっと待ち続けたあの時に比べれば、まだまだ―――
なんて思ってたんだけど。
街中に溢れるクリスマスのイルミネーションと、幸せそうに肩を寄せ合って歩く恋人たちの姿を見ていたら、やっぱり思い浮かぶのは美作さんの優しい笑顔で―――。
「―――早く帰ってこないと、浮気しちゃうんだから」
なんて、心にもないことを呟いた瞬間。
「それは聞き捨てならねえな」
すぐ後ろで聞こえた、聞き覚えのある柔らかい声。
すぐには振り向けなくて、あたしはその場に固まった。
「せっかくクリスマスに一緒に過ごしたくて帰って来たってのに、浮気宣言ってどういうことだよ?」
ふわりと、背中から抱きすくめられ。
彼の甘い香りに包まれる。
「―――帰って、来るなんて―――」
「早く、会いたくて―――帰ってこない方が良かったか?」
耳をくすぐる甘い声に、あたしは首を振る。
涙が、溢れてくる。
「嘘、だよ、浮気なんて―――」
「うん、知ってる」
優しい声に振り向けば、ずっと思い描いてた、彼の笑顔―――
「―――メリークリスマス。会いたかったよ、つくし―――」
「あたしも―――会いたかった―――あきら」
今度はあたしから。
首に腕を回し、ぎゅうっと抱きついて。
その耳元に、そっと囁いた。
「メリークリスマス―――愛してるっ」
街のイルミネーションが、2人を祝福しているみたいだった・・・・・。
fin.
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