secret christmas 

  今日はクリスマスイヴ。街は派手なイルミネーションとクリスマスソング、そして恋
人達で溢れていた。
「いいなあ・・・」
 ポツリと呟く。
 蘭は1人、屋上で街の灯りを見つめていた。父親は蘭の計らい(企み?)で母の英理と2
人でレストランへ。コナンは少年探偵団と一緒に阿笠博士の家のクリスマスパーティに
出かけている。蘭が1人になると知り、残ると言っていたのを蘭が無理やり行かせてしま
ったのだ。
「今日は・・・コナン君とは過ごせないよ・・・」
「どうして?」
 突然後ろから声をかけられ、蘭は吃驚して振り向く。
「キッド!!」
 白い装束姿の怪盗キッドが、優しい笑みを浮かべ、蘭を見つめていた。
「どうして、彼とは過ごせないんだい?」
 繰り返される質問に、蘭は俯いた。
「―――責めてしまいそうで・・・怖いの。彼には守らなきゃならない秘密がある。そ
れがわかっているのに・・・。こんな日に2人きりになったらきっと責めてしまうから」
「だったら両親を会わせたりしなければ良いのに」
「だって・・・きっと2人とも本当は一緒にいたいと思ってるはずだから。それなのに、
意地を張って会おうとしない。だから・・・」
「―――損な性格だね」
 キッドが少し呆れたように言うと、蘭はちょっと笑い、
「そうかもね。それで・・・あなたはどうしてここにいるの?彼女を待たせてるんじゃ
ない?」
 蘭の言葉に、キッドはちょっと顔を歪める。
「俺にまで、気を使ってるの?」
「だって・・・待ってるんでしょう?彼女」
「彼女って誰だよ?俺は誰とも約束なんかしてないよ」
 少し怒ったように言うキッドに蘭は目を丸くする。
「今日は・・・蘭と一緒にいたくて、ここに来たんだけど?」
「―――嘘・・・」
「嘘なんてつかねえよ。蘭が、あの探偵君と一緒にいるようだったら黙って帰るつもり
だったけど」
「え・・・」
「でも・・・わかんねえな。蘭があいつのこと考えてるってだけでこんなに・・・嫉妬
しちまうんだから。一緒にいるところなんか見ちまったら、耐え切れなくて無理やり攫
って行っちまうかもしれない」
 キッドがにやっと不敵な笑みを浮かべる。蘭は頬を赤らめながらも拗ねたような表情
になり、
「もう、そんなことばっかり言って・・・」
 と言った。そんな蘭がかわいくて、くすくす笑いながら、その細い腰を抱き寄せる。
「だって俺、蘭のこと好きだもん」
「またそんな―――」
 と、言葉を続けようとした蘭の唇を、キッドのそれが塞ぐ。
 蘭の瞳が大きく見開かれる。
 触れるだけのキスのあと、キッドは蘭を真剣な眼差しで見つめた。
「嘘じゃ、ねえよ・・・。俺は蘭が好きだ・・・。その瞳も、唇も・・・蘭の全てが好
きだ。蘭が・・・あいつを好きでも・・・」
「キッド・・・わたし・・・」
 再び何か言おうとした蘭の唇を、もう一度塞ぐ。
 その先は、聞きたくない。何も、言わせない。もう止まれないんだ・・・。
 激しく、長い口付け。震える舌を絡めとり、貪るように続けられるキスに、蘭の体か
ら力が抜ける。
かくん、と膝が折れ、キッドの胸に寄りかかるようにして体を支える。苦しそうに顔を
歪める蘭を見て、ようやくキッドは唇を離す。
 潤んだ瞳が、キッドを見上げる。
「・・・ばか・・・」
「・・・かもな。叶わないってわかってるのに、こんなに好きになっちまうんだから」
「違うわよ!」
 自嘲気味に囁かれたキッドの言葉を遮るように、蘭が叫ぶ。
 キッドが驚いて蘭を見る。蘭は、怒ったような顔でキッドを見つめていた。
「蘭・・・?」
「もう・・・どうして勝手に決めちゃうのよ・・・。わたしだって、キッドのこと・・
・」
 そこまで言って、蘭は頬を染め、俯いた。キッドは信じられないような想いで、蘭を
見つめる。
「俺のこと・・・なんだよ?蘭が好きなのは、あいつだろ?だから今日だって・・・」
「・・・好き、だった。でも・・・あなたに惹かれてしまったの。だから・・・余計に
今日は彼とは居られなかった。彼のことを責めて・・・そして、あなたへの想いも隠せ
なくなると思ったから・・・」
「ら・・・ん・・・」
「でも・・・こんな想いを抱えてるの、わたしだけだと思ってた・・・。あなたには、
可愛い彼女がいるから・・・」
「俺だって!・・・俺だけだと思ってた。好きなのは・・・。蘭はずっとあいつのこと
しか考えてないんだと・・・」
 蘭がキッドに視線を戻す。
 2人は見つめ合い、そしてどちらからともなく、またキスをした。今度は甘く、痺れ
るようなキス。
 唇が離れたとき、2人は同時にクスリと笑った。
「最高のクリスマスプレゼント、だな」
「あ、ごめん、わたしプレゼント何も用意してな―――」
 言いかけた蘭の唇を、キッドの指が塞ぐ。
「今、言ったろ?最高のクリスマスプレゼント、貰ったから良いんだよ」
「―――うん」
「今日は・・・ずっと側にいたいな・・・」
「あ、でも・・・」
 小五郎はわからないが、コナンはもう帰ってくるかもしれないのだ。
「わかってるよ。蘭は・・・どうするつもりだった?」
「え?」
「あいつが帰ってきたら・・・2人きりだろう?」
「・・・さっさと寝ちゃおうかなって・・・」
「そっか。じゃあ、そうしろよ」
「え・・・」
「蘭が寝ちゃったらあいつも寝るだろう。あいつが完全に寝ちまったら・・・もう1度
会いに行くよ、蘭の部屋に」
「―――うん」
 蘭が、嬉しそうにふわりと微笑む。キッドはそんな蘭をいとおしそうに見つめ、
「蘭まで、寝るなよ?」
「うん。待ってるから―――」
 再び、唇を合わせる。
 その瞬間、キッドは何かの気配を感じ取った。
「―――あいつが、帰ってきたらしいな」
「え?」
 蘭が、吃驚してキッドから離れる。
「今、階段を上がってくるところだ。じゃあ、俺は一旦退散するよ。―――蘭、忘れん
なよ?」
 キッドがいたずらっぽい笑みを浮かべ、ウィンクをすると、蘭も笑って頷いた。
「キッドこそ、忘れないでね」
「あたりまえだろ?―――じゃあな」
 キッドが蘭から離れると、蘭は後ろを向き、駆け出した。
 その後姿を見つめ、キッドもその場を離れる。
 
 ―――secret  christmas
 それは誰にも言えない秘密の時間。
 誰かを傷つけても、それでも会いたいと願う。
 どんな罰が待っていても、もう止めることはできない。
 本当の愛を知ってしまったから。
 その愛が罪なものでも、触れずにはいられない。
 お互い求めているものが一緒なら、
 きっとどこまでもいけるだろう。
 後ろを振り返らずに、どこまでも―――








                           Fin

キ蘭です。
こういう話、多いですよね。
どうしても好き系なお話ばっかり多くなっちゃうなあ。