*このお話は、「White Christmas」「White
Wedding」から続くお話になります。
「男の子がいいなあ」
「・・・・・なんで?俺は女がいい」
「そっちこそなんで?男の子、かわいいと思わない?」
「・・・・・つくしが、その子にばっかり構いそうでいやだ」
「・・・・・バカ」
「じゃ、つくしは何で?」
「・・・・・あたしも、おんなじ」
「俺にとって、つくしはいつでも一番だよ」
「・・・・・・あたしも」
White
Summer
白い砂浜を、類と手を繋いで歩く。
久しぶりの2人揃っての休日。
昨日の夜、突然思い立ったように 「海に行きたい」 と言い出した類。 すでに学生たちは夏休みに入っていて、きっと海はどこも込んでるんじゃないか。 そう危惧するあたしに。 「だったら、人のいないところへ行こう」 そう言って花沢家の自家用ヘリで連れてこられたのは、誰もいない南の島だった・・・・・。
「確かに人はいないけどね」 呆れるように呟いたあたしの隣で、類は嬉しそうに笑う。 「つくしと、2人きりになりたかったんだ。せっかく結婚したっていうのに家にいても使用人がいるし、仕事で帰りも遅くなる。たまの休みくらい、2人きりで過ごしたい。これって我侭?」 「・・・・・そんなことない。あたしも2人になりたかった」 「珍しく素直だね」 類の手が腰に回り、すばやく引き寄せられるとチュッと額にキスを落とされる。 「こんなに素敵なところにつれてきてもらったのに・・・・・。意地張ってたらもったいないと思ったの。だめ?」 「まさか」 にっこりと微笑み、今度は唇にキス。
まぶしいくらいの太陽の下、真っ青な海に真っ白は砂浜。
まるで天国にいるみたいだった。
「・・・・・体の調子はどう?」 あたしを抱きしめながら、耳元に囁く類。 くすぐったくて体を捩りながらも首を傾げる。 「体?」 「最近、疲れやすいだろ?休みを多くしたほうがいいんじゃないかと思って」 「ああ・・・・・ううん、大丈夫」 「本当に?顔色もよくないし、白井が食欲もないみたいだって心配してた」 白井さんは、花沢家の家政婦だ。 類が生まれる前から花沢にいる人で、家政婦の中で類のことを叱れるのは彼女くらいだって田村さんが言ってたっけ。 「大丈夫。具合が悪いわけじゃないの。そうじゃなくって・・・・・」 「何?」 「・・・・・赤ちゃんが・・・・・」
類の目が、大きく見開かれた。 「・・・・・ほんとに?」 「まだ病院には行ってないの。昨日、自分で検査薬を・・・・・。でももう2ヶ月遅れてるから、たぶん・・・・・」
そこまで言って、あたしはまた抱きしめられた。ふわりと、包み込むように。
「・・・・・驚いた」
「・・・・・産んでも、いい・・・・・?」
「当たり前だろ?嬉しいよ、すごく」 体を離し、あたしの目を真っ直ぐに覗き込む。 「まだ早いかなって、思ってたけど・・・・でも、牧野の子だったら、いつ生まれてもいいとも思ってた」 満面の笑みに、確信めいたものを感じてしまう。 「もしかして・・・・・狙ってた?」 「まさか。できてもいいとは思ってたけど。つくしは、嬉しくないの?2人の子供」 「嬉しくないわけ、ない」 あたしの言葉に、くすくす笑う類。 「ややこしい。素直に嬉しいって言えば」 「だって・・・・・あたしも、まだ早いかなって思ってたから。でもやっぱり嬉しくて・・・・・ちゃんと病院にいって確かめてから話そうと思ってたんだけど」 「冗談。俺も一緒に病院にいくよ。それに―――そうだ、ヘリなんか乗って大丈夫だった?帰るときは船にする?」 類の言葉に、あたしはぎょっとする。 「いや、船は酔うからだめ。大丈夫だよ、ヘリで。類、心配しすぎ」 「だって、妊娠初期って一番注意しなきゃいけない時期っていうじゃん。仕事も休んだほうが・・・・・」 「大丈夫だってば!もう、やっぱり言わなきゃよかった。美作さんの言うとおり―――」 「え?」 突然類の声が鋭くなって、あたしははっとする。
―――やばっ
「何であきら?あきらに言ったの?」 類の視線が鋭いものに変わり、あたしは慌てて類から離れようとしたけれど、類の腕がそうはさせてくれなくて――― 「つくし?」 「ち、違うの。薬局でこれ買ってたとき、偶然美作さんに会っちゃって。まだわからないから言わないでって言ったら、類はきっと心配して仕事やめろとか言い出すから、仕事したかったらギリギリまで黙ってたほうがいいかもなって・・・・・」 「・・・・・ふーん・・・・・・?」 相変わらずその目は鋭くて・・・・・ 「仕事、続けたいの?」 「できれば・・・・・。店長にはお世話になってるから」 「俺も、あの店長さんには感謝してるよ。でも・・・・・その体で、立ち仕事なんて」 「・・・・・体調の悪いときは、休むようにするから。店長さんとも相談してみる」 そう言って見上げるあたしを、類はじっと見つめて・・・・・ ふっと、優しく笑った。 「わかった。無理しないって約束して」 「うん」 「それから―――」 風で流されたあたしの髪を、類の指が絡める。 「もう、秘密はなしだよ」 その言葉に頷くあたしを優しく抱きしめて・・・・・・ 耳元で、囁いた・・・・・
「ずっと・・・・・この子もつくしも、丸ごと愛してる・・・・・」
fin.
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