足元に広がる黄色の絨毯。
踏みしめる度、かさかさと乾いた音が鳴り、秋が濃くなってきたとこを伝えているようだった。
つくしは銀杏並木を歩きながら、小さく溜め息をついた。
司が日本を離れ、2度目の秋。
司は相変わらず忙しいようで最近はまた電話で会話する回数も減ってきていた。
あと2年半。
自分は、本当に司を待っていていいんだろうかと、時折悩むことがあったが―――
「ねえねえ、君一人?」
突然後ろから肩を叩かれ、驚いて振り向く。
そこに立っていたのはいかにも軟派な感じの茶髪の男2人組。
つくしはそのまま2人を無視して行こうとしたが―――
「あ、ちょっと待ってよ」
「一緒にお茶しない?俺たち暇なんだよね〜」
甘ったるい誘い文句にぞっとして、つくしは顔を顰めた。
「悪いけど、急いでるから」
「え〜、そんな風に見えなかったけどな〜」
「そうそう、ぶらぶら暇持て余してるみたいに見えたよ。お茶くらい付き合ってよ」
ずうずうしいその言い方にカチンときて、声を上げようとしたとき―――
「きたねえ手で触るんじゃねえよ」
お腹に響くような、低い迫力のある声。
驚いて振り向けば、そこに立っていたのは―――
「こいつは、お前らには落とせねえよ。さっさと消えな」
ぎろりと高いところから睨まれ、軟派男2人は慌ててその場から立ち去ったのだった・・・・・。
「道明寺―――なんでここに?」
目の前の司は幻ではなく、周りを圧倒するようなその存在感で道行く人たちの注目を集めていた。
「仕事で、1日だけ来れることになったんだ」
「何で連絡してくれないのよ!」
思わずきっと睨みつけながら言うと、司はむっとしたように顔を顰めた。
「携帯に電話したけど、お前出なかっただろうが!着信見てねえのかよ?」
「え・・・・・」
言われて、慌てて携帯を取り出すと、確かに着信が・・・・・
「バイト中だったんだよ。マナーモードにしたままだったから・・・・・」
その言葉に、司は肩をすくめた。
「ああ、そんなこったろうと思ったよ。まったくお前は、相変わらずバイト漬けだな」
「だって・・・・・」
思わず反論しようとして。
司がストップをかけるようにつくしの前に手をかざした。
「喧嘩しに来たんじゃねえよ」
―――あんたが仕掛けてるんじゃない。
と言いそうになって、その言葉を飲み込む。
せっかく会いに来てくれたのに、喧嘩なんて。
そう思い直し、改めて久しぶりに見る司の姿を見直す。
「―――また、背が伸びた気がする」
つくしの言葉に、ふっと司が笑みを零す。
「まさか、ガキじゃあるまいし、もう成長期じゃねえよ」
「それほど、久しぶりだってことよ。あんたみたいに無駄にでかいやつ、そういないんだから」
「無駄って言うな。総二郎も類もでかいだろ?」
「あの2人はまた雰囲気違うし・・・・・。なんていうの?圧倒されるって言うか、思わず後ずさりしたくなるような雰囲気があるのよ」
「ふん?よくわかんねえけど、まあいいや。それより腹減ったんだけど、飯食いにいかねえか?」
「ちょっと、久しぶりに会ったっていうのにいきなり飯?相変わらずデリカシーないんだから」
呆れたように溜め息をつくつくし。
そんなつくしを見て、司は怒るよりも笑い出す。
「相変わらずは、お前だろ。久しぶりに会ってってのにさっきから眉間にずっと皺が寄ってるぜ」
「げっ」
思わず額に手を当てるつくし。
その姿を見て、更に司がおかしそうに笑う。
「まあでも、お前が変わってなくてほっとしたっつーか。これで涙でも流されたらぞっとするしな」
「何よそれ!失礼ね」
言いながら、つくしもおかしくなってきた。
久しぶりに会っても、相変わらずの2人。
確かに、ここで泣きながら抱きしめあったりしたら帰って気持ち悪いかも、と我ながら考えてしまったのだ。
「―――久しぶりに、お前んちの変な飯が食いてえな」
懐かしそうに目を細める司。
「変って何よ。あんたんちの食事のほうがよっぽど変だっつーの。言っとくけど、まずいと思ってもちゃんと残さず食べてよね。あたしが作るんだから」
「は?お前が?」
ちらりとつくしを見る。
「な、何よその目。おいしいんだから、あたしの料理!なんてったって愛情が―――」
思わず勢いで口走り、はっと手で口を押さえる。
が、時すでに遅し。
「愛情が、なんだって?」
にやりと、不敵な笑み。
「それは、もちろん俺に対する愛情だろうな?」
司の大きな手がつくしの細い手首を掴み、そっと体を引き寄せる。
「どういう意味よ?」
「今更、他のやつのためだなんて、言わせねえって事だよ」
腰に回された手がつくしの体をしっかりと抱きしめる。
「そんなこと、言わない」
「類にも、だぞ?」
「類は友達。信用しなさいよ」
「信用はしてる。ただ―――」
司の唇が、つくしの唇を塞ぐ。
「お前を他のやつに、触れさせたくないだけだ」
「―――わがまま」
ふわりと微笑むつくしに、もう一度口付けて。
その体をきつくきつく、抱きしめたのだった・・・・・。
fin.
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