***White Wedding 〜花より男子・類つく〜***



 *このお話は、「White Christmas」の続編になります。


 「そろそろ来るころだねえ」
 店長がニコニコと笑う。
 あたしは時計を見て、時間を確認した。

 店が閉まるのは7時。
 それから後片付けをして、店を出るのは7時半ごろ。

 いつも閉店ごろに現われるのが、彼の常だった。

 クリスマスにバイトしていた洋菓子店でそのままバイトを続けているあたし。
 どこか父親にも似た感じのあるちょっとぼんやりした感じの、優しい店長。
 ここでバイトを始めてから、もう半年が過ぎようとしていた・・・・・。

 「おつかれ」
 いつものように現われた類。
 店長が奥から顔を出して軽く会釈する。
「・・・・・店長さんも、もう終わりだよね」
「うん、片付けが終わったら帰ると思うけど・・・・・何?店長に用事?」
 不思議に思って聞くと、類はちょっと頷いて微笑んだ。
「ん、ちょっと・・・・・。牧野、着替えておいでよ。ここで待ってるから」
「ん?うん、わかった」
 そう言ってあたしは店の奥へ入って行ったのだった・・・・・。

 
 着替え終わり、外へ出ると既に車に乗った類がそこで待っていた。

 「・・・・・店長と、何話してたの?」
 助手席に乗り込み、聞くと類はちらりと視線だけをあたしに向けた。
「ん?まだナイショ」
「ナイショって・・・・・なんか企んでる?」
 訝しげに聞くあたしの言葉に、くすくす笑う類。
「そのうち話すよ。今はまだダメ」
「なんで?」
「だから、まだ言えない」
「ふーんだ」
 ぷうっと頬を膨らませる。
 それを見て、ますますおかしそうに類が笑う。
 ツボに嵌ると、なかなか笑いが止まらないらしい。
「・・・・・来週」
「え?」
「日曜日、空けといて」
「日曜日?何かあるの?」
「日曜日になったら教えてあげる」
 にっこりとそう告げられたら、それ以上突っ込んで聞くことはできなかった・・・・・。


 そして翌週の日曜日。
 類に連れて来られたのは、海の見える白いコテージ風の別荘だった。

 「そっちの部屋で、着替えて来て。服が置いてあるから」
 そう言って示された部屋に入る。
 なんだか強引にここまでつれてこられてしまったけれど、類が何をしようとしているのかはまだ聞くことが出来ず・・・・・
 あたしは首を傾げつつ、とりあえず言われたとおり着替えようとテーブルの上にあった大きな箱を開けたのだった・・・・・・。


 「類!!」
 着替えを終えたあたしは、部屋を飛び出して類を探した。
リビングはがらんとして類の姿はなくなっていた。
 慌てて別荘の中を探し回り・・・・・

 漸く見つけたのは、海が目の前に広がる、広いテラスだった・・・・・。

 そこにいたのは、白いフォーマルのスーツに身を包んだ類。
 あたしに気付くと、嬉しそうに微笑んだ。
「すごい、きれいだよ」
「どうして・・・・・・」
 戸惑うあたしにゆっくり近づいてくる類。
 そして、手に持っていたブーケをあしらったヴェールをあたしの頭に乗せた。

 それは、シンプルだけどオーガンジーの素材がふわりと花のように広がったウェディングドレスと見事にマッチしていて・・・・・。

 「どうして?」
 もう一度聞くあたしの左手を取り、薬指にすっと指輪をはめた。
 プラチナ台に小ぶりだけれど本物のダイヤが載ったかわいいデザインの指輪。
 あたしは信じられない思いで類を見つめた。
「・・・・・結婚して欲しい」
「だけど、こんな、急に・・・・・あたし、まだ類の両親にも挨拶してないのに・・・・・・」
「報告はしたよ。好きな人がいるから、結婚しますって。それから、牧野の両親にも・・・・。すごく喜んでた」
 類の話に、あたしは呆気に取られて声も出ない。
「・・・・・牧野が迷ったり、逃げたりする余裕がないように、準備は万全。婚姻届も用意してあるよ。後は牧野のサインだけ」
 得意げに微笑む類。
「・・・・・こっち、来て」
 そう言って、手を引かれる。
 あたしはドレスの裾を踏まないよう、慌てて類についていく。

 「店長さんに、作ってもらったんだ」
 リビングに戻り、そこにあった大きな箱をゆっくりと開ける類。
 中から出てきたのは、真っ白いクリームとベビーピンクのクリームで作られたバラの花で彩られた、立派なウェディングケーキだった・・・・・・。
「すごい・・・・・・」
「でしょ?俺もまさかこんなに本格的なものつくってもらえると思ってなくて・・・・・。若い頃、イタリアの三ツ星でパティシエやってただけのことはあるね」
「ええ!!ほんとに?初耳!」
「牧野のためだったらって、喜んで作ってくれたんだ」
「店長が・・・・・・」
 いつの間にか、涙がこみ上げてきていた。
「・・・・・これから、いろいろ苦労させるかもしれない。だけど、俺は牧野にはいつも牧野らしくいて欲しいと思ってるし、変な形式とか、気にして欲しくない。牧野は牧野のやりたいように・・・・・・。俺は、どんな牧野でも好きだから」
 ゆっくりとあたしを見つめる瞳は、暖かくて、優しくて・・・・・。
「類・・・・・・ありがとう。嬉しいよ・・・・・」
「結婚・・・・・してくれる・・・・・・?」
 類の言葉に、あたしは微笑み、頷いた。

 ゆっくりと唇が重なる。

 耳元に囁かれる、甘い声。

 「ずっと、俺だけのものでいて・・・・・・・」

 静かな波の音がBGMとなり、あたしたちは幸せのヴェールに包まれながら、再び誓いもキスを交わしたのだった・・・・・・。



                                  fin.




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