***うでまくら 〜つかつく〜***



 朝の眩しい光で目が覚める。
 腕に軽いしびれを感じて隣を見ると、穏やかな寝息をたてる牧野がいた。
 愛しい女の寝顔に思わず顔も綻ぶ。
 そっとその髪に触れようとした瞬間―――

 「・・・・・類」
 呼ばれたその名前に固まる。
「おい・・・・・牧野!おい!起きろ!」
「・・・・・んー?・・・・・」
 牧野が目をこすりながら体を起こす。
「・・・・・お前、ふざけんなよ」
「は?何言ってんの?」
「今、お前類の名前呼んだだろ」
「は?」
 牧野は驚いたように目を瞬かせる。
「なんのこと?」
「類の名前だよ!今、呼んでただろうが!」
 思わず怒鳴ってしまうと、牧野が顔をしかめる。
「いきなり怒鳴らないでよ!意味分かんない!」
「だから!寝言だよ!」
「知らないっつーの!類の名前なんて・・・・・ん?」
 突然何か思い出したように言葉を切る牧野。
「・・・・・あいつの夢、見てたのか?」
「うーん・・・・・ていうか」
 歯切れが悪い。
 やはり2人の間には何かあるんじゃないかと疑惑が頭をもたげる。

 「おい」
「・・・・・そっか、わかった」
「なにがだよ?勝手に1人で納得すんなよ」
「違うよ」
「だから、何が!」
 イライラして、ついまた声を荒げてしまうと、牧野がまた顔をしかめる。
「いちいち大きな声出さないでよ。あのね、確かに夢は見てたけど、花沢類の夢じゃないわよ」
「じゃあ―――」
「あんたよ」
「は?」
 思わず間抜けな声が出る。
「じゃ、なんで・・・・・」
「あんたが、夢の中で言ったのよ。結婚式であたしのヘアメイクを担当する人間が気に入らないって。どうせならF3の誰かにやらせたいけど誰がいいかって聞くから、答えたの」
「それが、類?」
「そ。別に深い意味なんてないわよ。ただ、花沢類には髪切ってもらったりしたこともあったから、出てきたんだと思う」
 淡々と冷静に話す牧野を見ていたら、だんだんと俺も落ち着いてきた。

 ―――そうだった・・・・・こいつは、もう来月には俺と結婚するんだ。

 その準備が忙しくて、なかなか2人の時間が持てなくて・・・・・
 漸くこうして2人きりになれたっていうのに、俺は何をやってるんだ。

 俺は、拗ねたような表情で俺を見上げていた牧野をそっと抱きしめると、その黒髪に口付けた。
「・・・・・ごめん」
「道明寺・・・・・?」
「離れてた時間が長すぎたから・・・・・つい、余計な心配する癖がついちまった」
 その言葉に、牧野は小さく笑うと俺の背中に腕を回してキュッとしがみついた。
「ばか」
 声に、甘さが滲む。
「4年も待ってたんだよ?今更なんの心配すんのよ」
「・・・・・だな」
「だよ。・・・・・そんなにあたしが信用出来ないの?」
「信じてるよ、お前のことは」
「ほんと?」
「ああ」
「じゃ、許してあげる」
 クスクスと笑う牧野。
 こいつの笑顔を見るだけで、ほっとする。
 仕事をしている時には味わえない安心感だ。
 牧野を抱きしめる腕に力を込める。

「絶対、お前を幸せにするから」
「うん」
「ずっと・・・・・俺の側にいてくれ・・・・・」

 その言葉に、牧野が俺の背中に回した手にキュッと力を込めた。
 「うん」

「愛してる・・・・・」
「あたしも・・・・・愛してる・・・・・」

 そしてまた、2人の幸せな時間が始まる・・・・・









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