You are my treasury.
やっと手に入れた俺だけの宝物。もう誰にも渡さない。そう誓ったはずなのに・・・
「快斗君、おっはよ〜!!」
何でこいつがここにいるんだよ!?
「おはよう、快斗」
にっこりと超絶に可愛い笑顔を見せてくれたのは毛利蘭。俺の最愛の恋人だ。
今日は、その蘭との記念すべき初デートだっていうのに!何でこいつ・・・鈴木園子が蘭の隣にいる
んだ?
「あらァ、なんでこいつがここにいるんだって言わんばかりの顔ね」
園子が、にやりと意地の悪い笑みを浮かべる。
「はは・・・いや、別に・・・」
「ごめんね、快斗。今日、園子京極さんとデートのはずだったんだけど、京極さん急に来れなくなっち
ゃったらしくて・・・」
「お世話になってる空手の先生が怪我して、臨時で空手教室の子供たちに教えることになったのよ。仕
方ないわよね。真さん、そういうこと断れるタイプじゃないし」
「それで、もし良かったら一緒にって、誘ったの。大勢のほうが楽しいし」
蘭が屈託なく笑う。
・・・俺は、2人きりのほうが良かったんだけど・・・でも、蘭のこういうお人好しのところも好きだ
し。仕様がねえな。
「トロピカルランドに来るのって久しぶり!そういえば、蘭と中学生のとき来たよね」
「うん。新しいアトラクション、出来たんだよね。楽しみ♪」
蘭と園子が楽しそうに話しながら、先を歩く。
・・・別に良いんだけどよ。今日は俺と蘭のデートだってこと、忘れてね―か・・・?
そんなことを思いながら。それでも表情には出さずに2人の少し後を歩き、トロピカルランドに向かう。
―――思えばここまで長い道のりだったよな。蘭と園子の通う女子高と、俺の通う男子校は隣同士。
蘭の事を知ったのは、同じクラスのやろうどもが騒いでるのを聞いてから。休み時間の度に隣が見える
廊下に鈴なりになっていた奴ら。最初は全然興味なんかなかったんだ。女の子に興味がなかったわけじゃ
ねえけど、アイドルに群がる一般人って感じでいやだった。それが、ある日そいつらの隙間から垣間見
えた人物を見たことで、変わっちまった。さらさらの長い髪を揺らしながら歩く少女。ふわりとした笑
顔はまるで花のようで・・・。
「おいっ、あれ、だれ?」
「ああ?なんだよ、快斗おめえも彼女に目え付けてんのか?彼女は競争率高いぜ?」
「んなこと良いから教えろよ!」
「毛利蘭。1年生だよ。可愛いだろ?」
毛利蘭・・・。その名前は俺の胸に深く刻まれた。それからというもの、どうにかして蘭に近づこう
と、偶然を装い待ち伏せしたり、ストーカーのように尾行してみたり・・・。でも、なかなか話し掛け
ることが出来なかったんだ。
きっかけはいつものように蘭の後をつけていた時。一瞬の隙をつき、蘭に襲い掛かったふとどきモノ
がいたんだ。それを俺が助け・・・ようとしたのだが。いや、最初に一発殴ってやったのは俺だけど、
その後また起き上がったそいつを倒したのは、蘭本人だった。
「ありがとう、助けてくれて」
呆気に取られていた俺に、蘭はそう言ってふわりと微笑んだ。
―――そういえば、彼女空手やってんだっけ・・・。
あれから3ヶ月・・・漸く、友達から恋人へ昇格することが出来た俺。だけど蘭の人気は半端じゃなか
ったから、俺はずいぶんいやみを言われたりいやがらせをされたりした。が、そんなことでめげるよう
な俺ではない!はずなんだが・・・。俺は忘れていたんだ。蘭は男だけではなく、女の子にも人気があ
るってことを・・・。特にこの鈴木園子は、いつも蘭にべったりだ。京極真という恋人がいるにもかか
わらず、蘭に近づく男どもを追い払うことにかけちゃあ右に出るものはいないってぐらいだ。おかげで
俺も今まで何度邪魔されたことか・・・。
「快斗?どうかした?」
ちょっと後れて歩いていた俺を、蘭がくりんと振り返って見た。
「あ、なんでもねえよ」
慌てて蘭の隣に行く。園子がじろりと俺を睨んだが、ここは気付かない振りをしておく。
トロピカルランドにつき、俺たちは次々とアトラクションを楽しんだ。横に引っ付いている園子は邪
魔だったが、蘭の楽しそうな笑顔を見られただけでも来た甲斐があったってもんだ。
俺がそんな蘭に見惚れていると、園子が溜息をついた。
「?どしたの?園子」
蘭がきょとんとして聞く。
「やってらんないなと思ったのよ。あんた達すっかり2人の世界なんだもん」
「え・・・」
蘭が、ポッと頬を赤らめた。
「蘭が、好きな人が出来たって言ったときはびっくりしたけどさ、人の良い蘭のことだから騙されやし
ないかって心配だったのよね」
「そ、園子!」
ますます顔を赤くする蘭。
―――好きな人って・・・俺のこと、だよな・・・?うわ、すっげー嬉しいっ。蘭、俺のこと園子に
ちゃんと言ってたのかあ・・・。
俺が感動して蘭をじっと見詰めていると、園子は呆れたように俺を見た。
「でも、その相手がこうも蘭にべた惚れだとは・・・」
「な、なんだよ」
「騙される心配はなさそうだけど・・・違う意味で心配だわ」
「どういう意味だよ?」
「自分で気付いてないの?快斗君、さっきから蘭のこと見てる男どもを睨みまくってるじゃない」
―――そ、そうだっけ・・・?
俺は、ちょっと今までの自分の行動を思い起こしてみる。
・・・確かに、そうだったかも・・・けど、それも仕方ないだろ?横に俺がいるっつーのに、蘭のこ
とを見てく奴らが多すぎるんだよ。
「蘭は俺のものって感じがみえみえなのよ。言っとくけど、蘭はその辺すっごく鈍感だからね?」
―――それはわかってる。付き合う前、どんなに好きだってことを態度で示しても、気付かなかった
もんな・・・。
「ちょっと、園子・・・」
蘭が不本意そうに唇を尖らす。
「本当のことでしょ?中学の時だって、空手部の先輩もサッカー部やバスケ部のエースも、学校1の秀才
君も、人気ナンバー1のイケメンもみ―んな蘭に気があったのに、あんたってば全然気付かないんだから
・・・」
―――ちょっと待て。そんなにいたのかよ?
「あれは、園子の思い過ごしだよ。みんなそんなこと言ってなかったし・・・」
「・・・気付いてなかったのは、あんただけよ・・・。快斗君もね、気を付けないと気付いたらただの
友達に戻ってたなんてことになるかもよ?」
―――げっ、なんつー不吉なことを・・・
「そんなことないもん!」
園子の言葉に、蘭が珍しく大きな声で反論した。俺たちが吃驚して蘭を見ると、はっとしたように赤
くなり、
「あ・・・。えと、だから・・・わたしは、快斗のことただの友達なんて、思ってないから・・・」
と小さな声で言い、下を向いてしまった。
―――か、可愛いっ、可愛すぎるっ。ああ、抱きしめてえ・・・
「・・・今、抱きしめたいとか思ったでしょ?快斗君」
園子が、俺の心の中を読んだかのようににやりと笑って言った。
「蘭にぞっこんなのは分かるけど、あんまり束縛しないようにしてよね?」
「わかってるよ、んなこと」
「どうだかねえ・・・。でも、蘭は女子高だから、学校にいる間は安心とか思ってるでしょう」
「・・・別に」
ちょっと図星を指され、視線をそらす。・・・やべ、俺、完全に顔に出てんな。
「ふ〜ん・・・?でもね、安心するのは早いって知ってた?」
その言葉に、思わずぴたっと動きを止める。
「・・・どういう意味だよ?」
「何のこと?園子」
蘭が、きょとんと首を傾げて言う。
「蘭は気付いてないだろうけど。あのね、うちの校医の先生って男の人なのよ」
「新出先生のこと?」
「そ。その新出先生って、結構若くて格好良いんだけど、わたしの勘じゃあ彼、蘭に気があると思うのよ」
「ええ?そんなことないよォ」
蘭が呆れたように言う。そんな蘭を園子は横目で見て、
「快斗君が見たら、きっとわたしの言ってることが正しいって思うわよ?」
「だって・・・」
「あのね、新出先生って毎日必ずうちの教室の前通るし、外で体育の授業があるときは保健室の窓から
ちらちら外見てるし、大体廊下で会った時に蘭に向けるあの笑顔!あれは絶対蘭に気があるわよ」
園子の力説に、蘭は思わずあとずさる。
「おい、それ本当か?」
黙って聞いていた快斗言うと、園子はにやりと笑い、
「もちろん。蘭の大親友の園子様が言ってんだから間違いないって」
と言った。
「それから今うちのクラスに来てる、教育実習の大学生も、蘭狙いだと思うわよ?」
「ええ?嘘お」
「嘘じゃないって。ったく蘭は鈍いんだから。あの大学生と新出先生、目が合うと火花散ってるわよ?」
それを聞いて、快斗の顔が引きつる。
―――なんだよ、それ?保健の校医に教育実習生だと?実習生はともかく・・・もし蘭の具合が悪く
なって1人で保健室なんか行くことになったらどうすんだ?めちゃめちゃあぶねえじゃねえか!!
そんな快斗の心理を読み取ったのか、園子が不敵な笑みを浮かべ、快斗を見る。
「ふふふ・・・今すっごく焦ってるでしょう?快斗君」
「あのなあ・・・」
「言っとくけど、今の話は全部本当だからね?いくら快斗君でも学校の中までは入って来れないもんね
え。どうする?」
完璧に面白がっている・・・。
「どうするって・・・なんか方法があるのかよ?」
「そうねえ。ど―――してもって言うのなら、この園子様が協力してあげても良いけどォ?」
―――こ、こいつ・・・
「でも、ただじゃねえ・・・」
「〜〜〜どうすりゃ良いんだよっ!?」
快斗の言葉に、園子はしてやったりと満足そうに微笑んだ。
「学校の側に、蘭とわたしが良く行くおいしいケーキ屋さんがあるのよ」
「・・・で?それ奢れば良いのか?」
「そう。そこ喫茶店になってるから、お茶つきでね。それを毎週金曜日に」
「ま、毎週!?」
「あら、当然でしょう?蘭を狼の魔の手から守るんだもの、それくらい。何よ、嫌なの?」
「嫌ってわけじゃあ・・・」
「・・・そう言えば、2年の受け持ちの数学の先生も蘭に気があるって話だったなあ・・・」
園子が、思い出すように遠い目をする。
―――っくそ―――!!
「わーったよ!!」
「やったvvさっすが快斗君!良かったね、蘭。毎週あそこのケーキ食べれるわよ」
「もう、園子ってば・・・。快斗?」
「え?」
「そんなに心配しなくっても、わたしは他の男の人を好きになったりしないよ?」
頬を桜色に染めながら、上目遣いに言う蘭。
――――っっっ!もう限界だっ!
「蘭!!」
快斗は、たまらず蘭を抱きしめた。
「ちょ、ちょっと快斗!」
蘭が真っ赤になって離れようとするが、快斗はますます腕に力を込め、蘭をしっかりと抱きこんだ。
「蘭のこと、信じてるよ。けど、相手がどんな手を使ってくるかわかんねえからな。大丈夫、ケーキぐ
らい蘭のためならいくらだって奢ってやる!」
「―――その言葉、確かに聞いたわよ?」
―――げっ、こいつがいるの忘れてた!
「その顔・・・わたしの存在、忘れてたわね」
「い、いやあ・・・」
「ふっ・・・今日はこの辺で帰ってあげようかと思ったんだけど・・・。気が変わったわ。このまま夜
までばっちり付き合ってあげる」
にっこりと笑う園子に、快斗はさーっと青くなる。
「え・・・べ、別に無理に付き合ってくれなくても・・・」
と弱々しく抵抗してみるが、
「あら、遠慮しないで?時間はたーっぷりあるから」
「・・・・・」
「さ、次のアトラクション行こうか。ねえ、蘭、帰りに新しく出来たレストラン行ってみない?この間
姉貴が友達と行ったらしいんだけど、なかなかおいしかったって話よ」
「ほんと?わたしも行ってみたいと思ってたんだァ」
「じゃ、決まり!快斗君もいいわよね?嫌なら先に帰っても良いけど?」
「・・・行かせて頂きます」
「よろしい。もちろん快斗君の奢りよね」
「園子!快斗、無理しないで?」
「・・・いや、いいよ」
もうこうなったらやけくそである。
蘭にとって園子が親友であることは間違いないのだ。その園子を邪見に出来るはずもなく、また園子
もそれを十分に分かっていてやっているのだから・・・。
楽しそうに次のアトラクションに向かう2人の後姿を見つめながら、本当のライバルは、保健の校医
でも教育実習生でもなく、鈴木園子その人かもしれないと思わずにはいられない快斗だった・・・。
このお話は8000番をゲットしてくださったちり様のリクエストによる作品です。園子にからかわれる
快斗ということで・・・。難しかったのは快斗。園子にからかわれて慌てている様子というのがなかな
か想像できなくて・・・。その役目はいつも新一だったもんね。でも、こういうのも良いなあ。
園子対快斗!また書いてみたい組み合わせかも。というわけで、喜んでいただければ嬉しいですvv
それでは♪
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